↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/32

28 エミーリオ視点

本日二度目の投稿です。



 さて、ランス神父との挨拶もそこそこに帆馬車に乗った僕は後方に過ぎ去るガラム村を見ながら、同じく帆馬車の荷台に乗り込んだ護衛の一人を観察することにした。

 ガラム村が見える範囲では姿勢正しく座っていた護衛は男盛りの30代で、一般的は茶色の髪と瞳を持っている。体つきは護衛をするだけあって村人の男性とは比べられない筋肉の持ち主で大男。その男はガラム村が見えなくなると、姿勢を崩し、荷物の一つを枕にして横になり出した。

 使者様は帆馬車と御者台の間に作られた室に従者と入っているので、観察出来ない。一人の護衛御者台に座っているので同じく分からないけど、もしかするとこの護衛と同じようにくつろぎだしているのかも知れない。

 いくら主人である使者様がいないからといって、ここまで態度を崩すなんて、訓練を受けている兵士達では考えられないだろう。例え私営団だとしても。

 これは…もしかするとルー姉ちゃんが言っていたことは本当なのかな?でも長旅で疲れ果てているだけかも知れないし、もう少し様子を見よう。

 護衛の男は僕に話しかけることなく、目をつぶっているから、僕は僕で自分が出来ることをやるだけだ。

 本当にこの人達が悪い人だったら、僕は逃げ切らなければならない。だったらこうしてぼうっとしているだけは勿体ないので、荷物の影に隠れて【念力】と【育成】の練習をすることにする。もちろん、気分が悪くならないように休憩しながら。


 一日、二日目も村や町に入ることはなく野営だった。

 僕が非常におとなしく言われたとおりに行動するから、男達もだんだんと素を表すようになってきた。

 使者様はご飯がまずいと従者に当たり散らし、寝床が堅いと護衛に当たる。その際、見えない所に鞭を振るうこともある。その度に僕は寝たふりをしているのだけど、正直今までにない恐怖を堪え忍んでいた。

 そして二日目の夜、いつものように護衛に鞭を振るっていたけど、これまでのストレスなのか護衛の服が破けるほど酷かった。

 悲鳴と鞭の音が耳にこびりつき震えている僕の元に、背中を庇いながら護衛が近寄ってきたことに気づくのが遅れ、背中に施された奴隷紋を見てしまう。

もっとひどいことに、息をのんだ音に気づいた護衛と視線が合ってしまったのだ。

 咄嗟に逃げようとしたところを、傷を負ってるにもかかわらず護衛にあっさりと捕まり、使者様の元へと連れて行かれる。


「馬鹿者!!子供は泣き叫んで対処が面倒だからあれほど儂たちの素性は知られるなと言っただろう!二つ先の町ではまた二人連れて行くんだぞ。連鎖してわめかれたら煩くて仕方ないわっ!」


 奴隷紋を見られ、金づるに逃げられたら適わないからと、縛っておけという命令を忠実に動く護衛によって僕は手も足も縄で縛られ、猿ぐつわまでされ、帆馬車の荷台に放り込まれた。


 奴隷紋を見てルー姉ちゃんの言葉を思い出し咄嗟に逃げようとしたけれど、奴隷を護衛に使うのは良くあることだ。それなのに、こんな仕打ちはおかしすぎる。

どうやら、焦っている様子から察するに、後ろめたいことがあるから僕を縄で縛ったのだろう。

しかし身動きとれないようにされてしまうとは…どうしようルー姉ちゃん、逃げられないよ。僕も鞭で打たれるのかな?怖い…怖いよ、ルー姉ちゃん…



『エミーリオは可愛いから、どんな人たちに狙われるか分からないから色々と訓練しましょうね』

『これは鬼ごっこという遊びなんだけど、鬼に追いつかれそうになっても諦めないで、相手の動きをよく見て捕まらないように逃げきれたら勝ちなのよ』

『護身用にこれをあげるわ』

『エミーリオは私にとって大切な人だから、悲しむ顔は見たくないの。出来うるだけ一緒に訓練するからね』

『何かの役に立つかも知れないから【念力】も練習してね』


 ルー姉ちゃんのことを思い浮かべていると、色々なことを思い出した。


 そうだ、恐れてばかりいられない。僕にはこういうときのためにルー姉ちゃんが教えてくれていたのだから、切り抜けられるはず。

 まずは逃げるための隙を見つけないと。

 

 帆馬車の荷台の前に簡易テントを張り、護衛たちが火の番をしている。僕が逃げ出さないようにこっちの気配も伺っているようだから、今は動けない。

 だったら、どうすれば逃げるチャンスを作れるのか、逃げるために何が必要なのかを考える時間だ。


 いくら冷静でいようとしても恐ろしいものは恐ろしい。ろくに寝ること出来ず、でも大人しくしていたお陰か、鞭で打たれることなく小さな町に着いた。

僕が住んでいたガラム村よりも店や家が沢山あって、住民も多いようなんだけど、どの人も疲れ切っている感じがしたのを、降りてしまった幕の合間から観察出来た。


「この町のこの一角は儂らにとっては安全だ。隣国にたどり着くまでにゆっくり休めるのは貴重だぞ」


 使者様…もとい、奴隷商の主人が機嫌良さそうに、風呂へと消えていく。残された護衛3人と御者と従者と僕。僕は部屋の隅っこに縄に包まれたまま放置され、一人の護衛を残し他の人たちは食事に出かけた。


 僕が行くのは王都の治癒院じゃいのはこれまでの会話で分かってきていたけど、隣国って何のこと?その言葉の節々から不安をかき立てる――というのに、更なる嫌な予感がするのは、護衛の人が僕のことをじっと視線を外すことなく見ているから。


 奴隷商の主人――(あと二人買い取るっていってたからもう疑う余地はないだろう)――が一人部屋を使い、僕を含め従者と護衛、御者たち6人が二人部屋を使うことになっている。大人数で二人部屋は狭いとはいえ、ベッドがあるし小さいながらも椅子と机もあるのだから、主人がいないこの場でくつろげば良いのに、護衛の人は扉を背にして立ったまま。そんなところから見られたらいい気がしない。

 護衛の男から目を離すとなんだか恐ろしいことが起きそうで、だからといってにらみ返す勇気も無いから、男の足下に目を落とす。


「はぁ…俺にはそんな趣味がないんだが…これも命令だし、仕方ない…」


 大きなため息をついた後、護衛は扉に付いている鍵を閉め、僕の方に歩み寄ってくる。

 僕は放っておいて、椅子とかベッドとかに行ってよ。と思っていても猿ぐつわされているので言葉を発することが出来ない。


「足の縄を取るが暴れたりすると、容赦なく殴るぞ。これは躾だからな。今からされることは慣れておいた方がいい。全て受け入れろ。暴力全般を受け入れることによって、買われた先の主人が飽きるまでは、お前は長生きできることが出来るだろう。いわゆる処世術だ」


 護衛の人は僕を軽々と抱き上げると、ベッドの上に放り投げ、硬いベッドに背中を打ち付けて痛がっている内に足の縄を解いた。

そして、あろうことか僕の上に覆い被さってきたのだ。


「同じ奴隷の身として…同じ男として、変態伯爵に売られるお前を不憫に思うが、立ち回りによっては可愛がられ、俺たちよりいい暮らしが出来るだろう。感情を持つな。言われるがままの人形になった方がお前にとっても苦痛がなくていい」


 目つきが鋭く、見た目ごろつきにしか見えない護衛だが、僕のことを心配してくれるから根っこは良い人なのかも…と一瞬思ったが、それは間違いだった。


 逃げられないようにまたがったまま蔑むように見下ろされる。


「今まで襲うのは女しかいなかったが…命令だしな。なんで俺が男に対して、それも子供相手をしなきゃいけないんだよ…ん?こういうのは何ていうんだったか…ああ、背徳的!背徳ねぇ、神から見放されている身だけど、へぇ、面白いじゃないか」


 冷たい目が僕を見下ろしていたのに、何に納得したのか、急に生気を取り戻したかのように輝き…いや、熱い瞳へと変貌し始めた。


「うう―っ、う―っう-!」


 この状況で、男の言葉から察すると、これから何が始まるのかが予想できてしまったのは、無邪気でいられない環境で育ってきたからだろ。色々な話しを村で孤児の中で聞いていた。生きていくための知識を至るところから収集してしまったからだ。

即座に体中がこわばり、震えが襲う。

誰か助けてと言葉に出そうにも猿ぐつわをされているため、鼻から抜ける落としか発せない。


 生まれてきて初めての危機。恐慌状態になり始めているその奥で、これがルー姉ちゃんが気をつけろと注意をしていたことなんだと理解した。

 理解すれば、僕の頭は急速に落ち着いていく。

 他の人たちは下の階で食事をしているし、護衛に命令したと言うことは何が行われるか知っている主人はこの部屋には入ってこないだろう。この男から逃げ出すことが出来れば、チャンス。

 距離を取ることが出来れば僕は大人であっても振り切れる能力があるとルー姉ちゃんは言っていた。

 だったら、この場をなんとかすれば――。手が使えない状況でそれが一番の困難だけど、使えたとしても大の男を振り払えることが出来るかどうか。

 力では適わない。僕の魔法の光魔法は【育成】しか使えず、この場では役に立たないだろう。最近芽生えた【念力】も弱い。【念力】なんて練習で―――


「っ!!」


 そこで、良い案が思いついた。

幸いなことにあれは僕の背に下敷きにならずに脇に流れている。非力であれど、相手は僕の能力は知らない。だったらなんとかなるだろう。いや、なる!


 何度も何度も【育成】の練習をしてこの数日で成長した僕の髪の毛は、肩を通り過ぎ胸の位置にまで来ている。皆に気づかれなかったのは一つに束ね後ろで三つ編みにしていたから。その三つ編みの中にはルー姉ちゃんから貰った短剣を隠してある。

初めは、貧民層である僕が持つにはふさわしくない短剣がちゃんと隠れるようにと試しに【育成】で髪の毛を伸ばしてのが切欠。それが上手くいき、次に【念力】。協会では皆と一緒に寝ていたから、寝ている皆を起こさないように音を立てないようにと支障の無いもので練習をした。

今、それらが役に立つはずだ。


男が僕に近寄ってきて、これからの動きが察知できない範囲に視線を変えたとき、【念力】で自分の髪の一部、顔の両サイドの一房ずつ三つ編みから引き出し、【育成】でその二房を成長させる。

たった二房を成長させるだけなら魔力もそれほどいらないし、全体を成長させるより早く伸びる。ある程度まで伸びたところで、一房を【念力】で操り、男に気づかれないようにそっと三つ編みに隠してある短剣を引っ張り出す。

まずは自分を拘束している縄にちょっと力を入れるだけで切れるまで切り込みを入れ、退路になるだろう窓の位置と鍵がかかっていないことちらりと確認する。

そこからは早かった。半分以上落ちてしまった薄い掛け布団という名の布を短剣を持っていない一房で男の顔にかけ、振り払われる前に、髪の毛を操り短剣を男の背中…まで届かなかったので、肩に突き刺した。


「うぅっ!!…っ!?」


 僕の【念力】は弱いようで短剣は深くまで刺さることはなかったが、何が起きたのか分かっていない男は、行き成りの痛みにより体を起こしバランスを崩した。そこへ自由になった僕の両足からの蹴りによりベッドから落ちる。

 男がどうなったかなんて見る余裕もなく、窓へと向かい外へとかけだした。

 用意されていた部屋は二階だったが、余り手入れもされていない宿の壁には蔓性の植物が垂れ下がっていたので、それを掴んで地上に降り立つことが出来た。


「ま、まて!!くそっ、やられた!ちくしょう…うっ!?うわあああっ―――!!」


 僕が逃げ出したのを知った護衛の男の傷は浅かったようだけど、布で手間取ったのか頭にかぶったまま、僕と同じように二階から蔦を使って降りようとした。が、男の方が体重が重いため蔦が切れてしまい背中から落ちたようだ。


 僕のせいで大けがをしてしまった護衛の男が気になって、助けに行こうかと足を止めたところに、騒ぎを聞きつけた護衛二人が表に出てきたのを見ると、僕の足は捕まるのを恐れ勝手に走り出す。


 奴隷商の主人が行った『この町のこの一角は儂らにとっては安全だ』と言ったとおり、建物も道も寂れ、夜でも行き交う人は何かしら影を持っている風だった。もしかしたら、奴隷商のように表立って仕事が出来ない人たちの集まる一角なのかも知れない。

 人影を見つけるたびに物陰に隠れ、角を曲がり、早く早くここから出る!という一念で走り続けた。

 どれ程走っただろう。行きも切れ切れで走っているとは言えないスピードになった頃、町の雰囲気が変わり明かりがぽつぽつと見え始めた。そして町に設置されている騎士団の派出所に逃げ込むことが出来た頃には、引き離したと思っていた護衛に追いつかれる直前だった。


「た、助けて……」


 派出所の前にいた人影に助けを求めて、僕は疲労と緊張の連続、そして安堵から気を失ってしまった。


 目を覚ましたときは全てが終わっていて、派出所の騎士さんから、僕は隣国のとある領主の息子だったと知り驚いた。手配も既に終わっていて、領主の使いの人がこっちに向かっているそうだ。

 何がどうなっているのかポカンと聞いていたけど、あり得なさすぎて実感がわかず聞き流している感じ。


「領地に戻ってご両親に話しを聞くといいよ。ご両親は貴方のことをずっと探していたのですからね」


 と、手配をしてくれた騎士さんが、僕が気絶していた間に起こった出来事を教えてく、最後にそうまとめた。


呆気にとられていて殆ど何が何か分かっていないけど、一つだけ聞き逃さずに理解できたことがある。

どうやら逃げ惑って乱れた服から大事にしていたペンダントがこぼれ落ち、そこから身元が分かったそうだ。


「………」


『このペンダントはエミーリオにとって大事なものだから肌身離さずにもっているのよ』っていつだったかルー姉ちゃんに言われたのを思い出した。


 ルー姉ちゃん……僕が迎えに行ったときは隠し事全部話して貰うからね。


 そいうや、このお金はなんなんだろう?

 僕が今寝ている部屋は派出所ではなくどこかのお屋敷の一室のようで、とても豪華な部屋だ。そのベッドに寝かされ、さっきまで騎士さんにことのあらましを聞いていたんだけど、立ち去るときに「はい、君が落としたものだよ」と渡された袋。その袋の中にお金が入っていた。

 僕はお金なんて持っていなかったよ?

 それにあの騎士さんって背がかなり高かったよね?僕が派出所で助けを求めた人影はかなり小さくて、ホッと出来る暖かさを持っていたんだけど……

 この二つの疑問も答えてくれるのかな?


エミーリオの話しはこれでおしまい。次の話のあらましが出来るまで、日があくと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。