27 エミーリオ視点
本当にルー姉ちゃんは変な人だ。凄い魔法を持っているのに、全てを他の人にばれないように隠そうとする…理由は分かるんだけど、【育成】だけをとっても、威力が桁違いだということを自覚していない。
ロイドなんて魔法の適性検査で【火魔法】【土魔法】が使えると知って、練習の成果を子分達に見せびらかしているというのに。もちろん他の子供達も同じ。
ロイドが他の子供達と違うのは、影でいっぱい、いっぱい魔法の練習をしていることぐらい。努力を隠してさも当たり前にできたかのように子分達に見せて尊敬を集めているのは、馬鹿だと思うけどね。
魔法を覚えたら見せびらかしたいと思うのは殆どの子供達に共通している。僕も分からなくもない。だってルー姉ちゃんに褒められるのは嬉しいからね。
それなのに、ルー姉ちゃんはひた隠しにしている。例え黒髪黒目で忌み嫌われようとも【光魔法】は数が少なく特殊である。それを知ったら村人達の認識は多少なりとも変わると思う。
それでも隠し通している訳は、あの【従魔】達なのだろう。注目が集まれば【闇魔法】の一つである【従魔】まで知られてしまう可能性があるから。
【光魔法】があっても同時に【闇魔法】が使えるとなれば、人々は希望の光よりも深淵の闇に目を奪われてしまう。希望よりも恐怖の方が強いから。
だから僕は誰にも言わなかった。
スライム達と一緒に畑仕事をしているルー姉ちゃんが生き生きとしていたから、それを壊されるのは僕としても嫌だものね。もちろん、僕との時間が減るのが一番の理由だったりするけど。
そんな凄い魔法を扱うルー姉ちゃんだったけど、まだまだ僕に隠し事をしているみたいだ。
「エミーリオは可愛いから変な人に目を付けられても逃げられるようにしなきゃね」
と、駆けっこを練習させられたり
「短剣をあげるからこれで身を守ってね」
とか言って、僕の髪の毛に小さなナイフを隠したり、(髪の毛を切れなくなって、ますます女の子みたいだと言われ困っているけど、ルー姉ちゃんの言われたとおり伸ばしている)
「変な大人に付いていってはダメだよ。どうしても付いていかなきゃいけない時ができても、距離を置いて直ぐに逃げられるようにしてね」等々。
可愛い女の子だったら言っていることは分かるけど、多少見た目が女の子に見えても僕は正真正銘の男!可愛い可愛いと言われて頭を撫でられるのは嬉しいけれど、男としては傷つくんだよ。
後数年すれば見間違えることはなくなるのに、どうしてこんなことばかり言うのか、ちょっとルー姉ちゃんの頭を疑ったこともあるけど、僕のために言っていることだからと言われたことは守っている。
それだけでなく、冒険者として生計を立てようとしている孤児院の年長者であるマルセル兄に剣を習ったり、体術も教えて貰ったりしている。
ルー姉ちゃんのことを真に受けたわけじゃないけど、いつかはルー姉ちゃんを守れる人になりたくてやっているだけ。
まさか、これが後々役に立つことになるとは思ってもいなかったけどね。
兎に角、ルー姉ちゃんが言う「変な大人」が気になるからそれとなく聞いてみたら。
「う~ん、例えばだよ?いつもニコニコしている恰幅のいい人とか、きらきらしたものを付けている人とか、後は控えている護衛の人にきつい言い方をしている人…?かな…あ、その護衛の人たちの方が怪しかったはず……」
「………」
思いつく人物像を並べているといった感じだったけど、どうもピンポイントで言っているみたいだった。
何それ?護衛を従えている人?貴族とか大商人とか?その護衛も怪しいって…まるで見てきたかのようじゃない。
何を隠そうとしているのか、分からないけど、僕の前では隠し切れていないよ?
でも、ルー姉ちゃんは隠し事が苦手でも頑固なところがあって、これ以上の情報は聞き出せなかった。
そのかわり、ルー姉ちゃんの魔法の一つが僕にばれた。
それは畑仕事を手伝っているときだった。
「凄いよ、エミーリオ!【育成】の熟練度が上がったよ!え?あ、もちろんグレイ達のレベルも上がっているわ!凄いね、流石チートスライムだわ」
と言って、ルー姉ちゃんを囲んでいたスライム達を撫で回して褒めている。多分、いつもこうして褒めていたのだろう。だからつい僕にも同じように言ったのだと思うけど、熟練度って何?レベルが上がったのが分かるって何?
それって都会の教会の上層部でなきゃ知ることができないと言われていることじゃない?
魔法適性検査が出来るようになり、更に向上できるようにと何十年と研究が続けられ魔道具の開発が進み出来上がった魔法探求プレート。希少鉱物を使うため国に一つあるかどうかと言う貴重な魔道具だ。それが個人でそれも魔法として扱えるなんて知られたら…なんて恐ろしい。
いくら僕であってもうっかりと口に出して良いものじゃないよ。分かっているのかな
ぁ。
本を沢山読んでいても、世間から話されて育ってしまったルー姉ちゃんはそういうことに疎いようで、隠し持っている魔法を問い詰めることも含めて危険性を教えてあげることにした。
「ルー姉ちゃん、そこに座って!」
「へ?な、何、急にどうしたの?」
畑仕事をほっぽいてスライム達と追いかけっこしそうな喜びを表しているルー姉ちゃんに、両腕を腰に当てて呼び寄せる。
スライム達も僕の剣幕に驚いたのか、ルー姉ちゃんと一緒に一列に並んで畏まっている。
年下の僕から怒られてシュンとしているルー姉ちゃんとスライム達。
うん、とっても可愛いけど、この日はこんこんと2時間は説教したよ。国だけでなく世界でもしかしたらそんな能力を持っているのはルー姉ちゃんだけだから、迂闊に能力を見せるととんでもないことになるとか。へたをすると実験台にされてしまうとか、ついでにスライム達にも決して村人に見つからないように、でないとルー姉ちゃんが痛い目をみるからと、説教したけど、言葉は通じているのかな?彼らはおとなしく僕の言葉を聞いていた。
2時間の話し合いの結果、ルー姉ちゃんの魔法は【サーチ】というもので、自分しか持っていないのも知っていたそうだ。
知っていてどうしてそんなに危機感がないんだよ!と説教時間の延長をしたのは言うまでも無い。
【サーチ】のお陰で僕の正確な魔法の成長が分かったのは嬉しいけど、本当にルー姉ちゃんは危なっかしい。
ずっと僕が付いていてフォローしてあげる方が良いよね。もちろん、命がつきるまでずっと。
と幸せに浸っていられたのはほんの僅かな時間だけだった。
適性検査が終わり夏に入ってから、王都から使者が教会へとやってきたのだ。
半年に一度にやってくる商隊以外に王都から来る隊は珍しいものの、孤児である僕たちには関係ないと通常運転だったのだけど、ランス神父が僕を呼びに来た。
お客様はどうやら僕に用事があるようで、顔合わせをすることになったのだ。
ランス神父の部屋の横にある客間に案内され、座っている人物をみて僕は驚いた。
王都にある治癒院からの使いだという40代ぐらいの男性は護衛の人を二人従えて、安いソファーに腰をかけニコニコと笑顔を貼り付けていた。
何故驚いたかって?そりゃ驚くさ。ルー姉ちゃんが言っていた危険な人物像にぴったりと当てはまっていたからね。
『いつもニコニコしている恰幅のいい人とか、きらきらしたものを付けている人とか、後は控えている護衛の人にきつい言い方をしている人』
まさにその通りに人物が目の前にいるんだから。一目見ただけでは最後に護衛の人にきつい言い方をしている人かどうかは分からないけど、その他はぴったり合っている。
デブでギタギタしていて、似合いもしないのに宝石や貴金属をこれ見よがしに付けている。愛想良くニコニコしているけど、目の奥は品定めをしているかのように仄暗く笑顔が胡散臭い。
護衛の二人も、治癒院からの護衛と思えないほど体格が良く品がない。悪く言えば荒くれ者の雰囲気を垂れ流しているのだ。一応、身だしなみはキチンとして兵士ランクの護衛として見れなくはないけど、僕はこういう特殊な場所で育てられたから、一般的な子供よりは、人の感情に機敏だと思う。
そんな僕がこの人達は普通じゃないと感じている。
そんな人たちが何故僕に用事があるのか。ランス神父に促されるまま、向かいのソファーに座って話しを聞くと、どうやら今年やった魔法適性検査で、治癒院から引き取ってきて欲しいと目を付けられたみたいだ。
各地で行われる魔法適性検査の資料は王都で各機関に配られる。そこで適した人物の勧誘が行われ、こうして使者が来ることもあるという。
僕には【光魔法】の適性があるから治癒院からの勧誘は考えられる。でも、目の前のこの人達…信じて良いものかどうか。
孤児院を出ることになったら自分で生きていかなければならない僕にとってこの勧誘は美味しい話しだ。だって自立できてこの先生きていけるってことだもの。
孤児院の人を引き取ってくれるのは正直あまりない。孤児院を出ても職に当たることはまれで、冒険者になるのが大半で、後は鉱山で働く、女性だとよくて色町、奴隷と言ったところ。悪くて野垂れ死になんてこともある。
治癒院で働くことになったら、少なくても収入はあるだろう。
「あの…僕だけですか?他の人を連れて行ってもいいんでしょうか?」
「エミーリオ…それは……」
隣に座るランス神父には僕が言いたいことが分かったようだ。そう、僕はルー姉ちゃんと離れるのは嫌なんだ。出来れば一緒に行きたい。
「すまないね。君一人だけだ」
「そうですか」
「今すぐ決断をして王都で働いて貰いたいが、君には用意も必要だろう。数日したらまたくるから、その時までに別れも済ませて、直ぐに旅立てる用意をしていて欲しい」
どうやら、僕に拒否権はないらしい。その事に怒りを覚えたけれど、僕は子供だし抵抗する術を持っていない。力も後ろ盾もない孤児だしね。
ランス神父にどれ程恵まれているかを説得され、渋々ながらも受けることを承諾したのだけど、感情はもちろん付いてきていない。
行き成りのことで頭がいっぱいになって、人目につかないように早急にあの人達が帰ったのか等、考えることが出来なかった。
この時点で不審に思い、ランス神父以外の大人に相談していれば僕の運命は違ったものになっていたのかも知れないが、ルー姉ちゃんと離れることに絶望を感じ、その日は早くに布団に入ってしまった。
翌日ルー姉ちゃんに会いたかったのだけど、村中が大騒ぎになっていたので会いに行けなかった。
どうやら村の子供達が冒険者に付いていって大変な目に遭ったらしいのだ。怪我をしているということでランス神父が引っ張りだこ。そして、僕は治癒院で働くことになるのだからと、付き添いで村中を歩き回った。
子供達は恐慌状態になっていたものの、怪我をしていると言われていたのに、傷一つ無かった。
村中を歩き回って帰ってきたら、村の子供達よりも孤児のクロエの方が大変なことになっていた。クロエも冒険者に付いていったのだけど、帰ってきたら片足を切断されて弱体していたのだ。
症状を聞いただけでもクロエの方が重体なのだけど、急いでランス神父が治療をしようと部屋に入り気絶しているクロエの足を見て動きを止めてしまった。
「……どういうことでしょうか…片足は確かに切断されていますが、その酷い断面がありません。綺麗に治療されています…これは一体……カリナ、クロエが目を覚ましたら呼んで下さい。話しをする必要がありそうです」
「…はい、でも…クロエは大丈夫なのでしょうか?」
「血を失って弱体していますが、命に別状はありませんよ」
クロエを心配しているそぶりを見せるカリナだけど、ルー姉ちゃんと一緒に忌み嫌われているクロエを度合いが違うだけで快く思っていないのを僕は知っている。
クロエは口を開けば言葉は悪いけど、その他は何も悪いこともしていないし、言っている言葉は嘘偽りのない本音ばかりだから、言葉が悪くても気分を害することはない。そんなクロエよりも、その場その場で取り繕うカリナの方が気持ち悪いよ。
ま、僕も猫をかぶっているところがあるから、非難できないけどね。
そんなことがあったから、ルー姉ちゃんに会えずじまい、会ったのは翌日だった。
でも、ルー姉ちゃんは寝ていて、呼びかけても揺すっても起きてくれず、熱もなく気持ちよさそうな寝息をしていなかったら病気かと思ったよ。
次の日も次の日も起きてくれず、だんだんと不安に思った頃、ようやく目を覚ましたルー姉ちゃん。思わず抱きついてしまった。
少しは照れてくれてもいいのに。
どうしてずっと寝たままだったのかを聞いたところ、はぐらかしてしまうルー姉ちゃんは、本当に隠し事が出来ないよね。
「クロエは大丈夫?」
って聞いた辺りから、あの事件?にルー姉ちゃんが関わっていたことを言っているのと同じだよ?だってルー姉ちゃんあれからずっと寝ていて、クロエに出会うどころか、教会の中にも入っていないんだから、知りようがない情報を持っている時点で怪しいでしょ。
全く…本当に、どうしようもないね。僕がいなくなったら、ルー姉ちゃん大丈夫かな?
誰かに任せたいけど、誰も信用できないし…どうしよう…。
目覚めたばかりで弱った体にショックを与えるのは良いとは言えないけれど、時間が無いから、兎に角、僕が数日後にはガラム村を出て王都の治癒院で働くことになったのを伝えることにした。
「そう……とうとうこの時が来たのね。…良かったわね、エミーリオ!貴方ならしっかりしているし、民に愛されるから何処でもやっていけるわ!会えなくなるのは寂しいけど、エミーリオが幸せになるのならそっちの方が断然良い!勉強は難しいでしょうけど頑張って皆を良い方向に導いてね!」
話し始めたときは眉を寄せ、厳しい表情を作っていたルー姉ちゃんだったけど、離れるのは本当に寂しいと感じてくれているようで、満面の笑みを浮かべながらもルー姉ちゃんの黒曜石の瞳が潤んでいる。
それは良いんだけど、なんだか違う言葉が含まれていたような気がする。僕は治癒院で働くんだよね?人にどのような影響を与えるか、薬草の種類などを勉強するのは難しいと思うけど、導くって何?
感情が際立っているから、またぽろりとこぼしているよ。
一体いくつ隠し事をしているのやら。どうせ、この事はつついても喋ってくれないのは分かっているので、僕はため息をついてさらりと流した。
僕はもうこの教会から立ち去る存在となったから、いつもの仕事はやってない。代わりに動けないルー姉ちゃんの畑仕事をしながら、ルー姉ちゃんの看病という名の癒しの時間に当てている。
ルー姉ちゃんと他愛ない話をしているのは幸せだ。だけど時折驚かされる。今もそう、僕には新しい魔法が使えるようになったと教えて貰った。それも魔法適性検査で現れなかった【無属性】だ。
後から開花することもあるけど、平民ではまず知る術がないから生まれ持った属性しか知らない事が多い。でもルー姉ちゃんがいればそんな僕たちであっても知ることが出来るなんて、出鱈目な力だよね。
この話になる前に体が暖かいような、不思議な感覚が包んだようなきがしたのは、僕の気のせいだよね?ルー姉ちゃんが何かしたのかな?と思うのは杞憂だよね?
新しい魔法が使えるようになったから毎日練習しようね。何かの役に立つかも知れないしと言われて、葉っぱを数枚もって、誰も来ない部屋で倒れるまでルー姉ちゃんに褒めて貰いたくて素直に練習を繰り返した僕は馬鹿なのだろうか?
使者達がいつ来るか分からないこの状況で、ルー姉ちゃんとの時間は限られている。それでも褒めてもらえるのが最後だからと頑張った。でも、魔法というのはそうそう強くならないのが当たり前だ。数年も全く変わらないこともあるという。たった数日で変わるわけがないのに、僕は色々動かしてみた。葉っぱを動かせるだけの弱い【念力】でも何かの役に、ルー姉ちゃんの役に立つかも知れないのだから、頑張らないわけがない。
それでも数日では何も変わらなかった。
しょんぼりとしながらルー姉ちゃんに会いに行く。
上達しないことにルー姉ちゃんが怒ることもなく、僕の頭を撫でてくれる。そうしてまた暖かい空気に包まれたかと思うと、体が重いような軽いような感覚が襲った。
これは一体何なのかな?と思いつつもルー姉ちゃんとお話ししていると段々とルー姉ちゃんの動きが鈍くなっていった。
「エミーリオ、【念力】の熟練度が上がっているわよ。本一冊ぐらいなら持ち上がるから。それだけでなく、毎日練習した成果かしらね、レベルも上がっているわ。貴方の素早さは…普通の…大人では叶わない素早さ…よ。これで……あの人達から…逃げられる…はず。…後は…不意を付いて…逃げるすきを……つくる、だけよ…がんば…って……」
「なんだかルー姉ちゃんの話しを聞いていると、本当にあの人達が悪い人で僕が虐待されるのが当たり前のような気がしていたよ。でも大丈夫だよ。僕はルー姉ちゃんを守りたくて体を鍛えてきたし、自分で考えることができるようになってるから、安心して休んでね」
布団をかぶせながら柔らかそうな頬に自分の唇を当てる。
「ルー姉ちゃんの言う通り、あの人たちが悪い人だったら僕は逃げるよ。僕に何ができるか分からないけど、心も体も大人になって必ずルー姉ちゃんを迎えに来るから待っていてね」
何となくだけど、このガラム村でルー姉ちゃんと会えるのはこれが最後だと思った。
実際その通りで、翌日早朝に使者が僕を引き取りに来ていた。
ルー姉ちゃんは多分、あれからずっと寝ていると思う。挨拶も出来なかったけれど、これが最後ではないと僕は考えているから、暫く会えないだけ。お別れではないのでこれでいいと思っている。
いつか迎えに来るから待っていてルー姉ちゃん。




