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遅くなりました。
結局水龍さんを助けることができなくて、大森林から戻ってきた私は約1週間寝込みました。5日間は飲まず食わずにずっと意識無く寝ていたみたい。
それを教えてくれたのは毎日様子を見に来ていたエミーリオで、かなり心配をかけてしまったみたいだ。
目を覚ましたのを知ったエミーリオは漫画のように持っていた野菜をボトボトと落として可愛い目を大きく見開いて「る、ルー姉ちゃん・・・!」と駆け寄ってきたぐらい。
残り二日は起きている時間が増えてきただけで、直ぐ寝てしまうという具合。
これは病気でも何でも無く、無茶な魔力と魔法を使った所為であるのは【サーチ】で知ることが出来た。
水龍討伐の時に多用した【育成】には副作用というのもがある。
スライム達に使った【育成】は彼らの【レベル】を上げられたのだけれど、その時には私の魔力はつきていて、魔力の代わりに自分の【生命力】を使ったようなのだ。この【生命力】は【HP】と違い、【寿命】のことである。運命に定められている、つまり私の場合は勇者たちに倒される…のではなく、事故などの死亡原因ではない【天寿】のことになる。
だから探査できるグレイが私から抜けていく何らかの気配を察知して『危険だからダメ!』と連呼していたみたい。
その証拠に自分に【サーチ】をかけてみたら、年齢の横にマイナス225日となっていた。つまり私の寿命が225日減ったと言うこと。その分をスライム達のレベル上げに使ったのだ。
他にも私自身の魔法【転移】の熟練度あげMAXになっていたのだけど、これは時間制限があるようで今は元のレベルに戻っている。
あんなことになったのは初めてなので、スライム達のレベルは上がったままで、私の熟練度はなぜ元に戻ったのか…どういうことなのかはまだ分からないことだらけ。だってたった一回で解明なんてできない。何度も試してみないことには。
でも下手をすると寿命ばかりが減って解明できないってこともあるわけだから、そうそうに使えない。
それに一番訳が分からないのは、なぜいきなり【育成MAX】になったのか。
そして謎なのがもう一つ、私のステータスだ。
ルーシア 12歳(マイナス225日)
レベル8
HP 170
MP 1972
光魔法・・・育成MAX
闇魔法・・・錬成Lv.5 従魔Lv.5
無魔法・・・サーチLv.8 転移Lv.6
火魔法・・・*****
風魔法・・・*****
土魔法・・・*****
水魔法・・・*****
弓Lv.3
基礎魔法が表示されたのは良いけど、文字化け?
二重に【サーチ】をかけても、【火魔法・・・&印・・・%#条△◎§*$◯∑¥・・・】と内容は読めなかった。
この文字化けも【育成MAX】を多用した所為の副作用かと思って、植物や鉱物などに使ってみたけど今まで通り普通で、私のステータスだけに文字化けするようだった。
一体何なの?
うんうん、悩んだところで分からないし、必要なものは今まで通り分かるのだから、ま、いっか…と今は諦めている。
そんなことよりも、次の試練だよ!水龍討伐が終わったら、エミーリオの災難がやってくる。
ヴォーグ村まで【転移】のポイントは設置できているけれど、それだけでは安心できない。
起き上がれるようになったら早速エミーリオに【育成MAX】を使って、彼の【光魔法】の熟練度を二つばかりあげてみた。すると、【無魔法】が新たに追加され、【サーチ】調べてみると【念力】が使用可能となっていた。
エミーリオの【念力】は弱いみたいで、Lv.3まで上げても紙一枚を数㎝移動させるだけ。
エミーリオだったら私の寿命を上げても苦にならない。と思って少しずつ上げたんだけど、どうやら今あるだけの魔力だけですんだようだ。
「エミーリオ、毎日お見舞いに来なくても私はもう大丈夫だよ?忙しいのでしょう?」
「う~ん、忙しいっていうわけじゃないよ?周りがばたばたしているだけだから」
私が意識を失っている間に、例の奴隷商の人がランス神父に面会に来て、エミーリオを引き取りたいと言ってきたのだ。
もちろん奴隷商と分からないように身なりもきちんと正して、村人やランス神父に怪しまれないように面会に来ていたみたいだ。
できることならその面会に立ち会うか盗み聞きしていたかったが、水龍討伐後間をおかず直ぐだとは考えていなかった私の落ち度だから仕方ない。
奴隷商人がどのような設定でエミーリオを引き取る手はずになっているのかは、本人に聞くことである程度の詳細は分かっている。
どうやら王都の住む治療士が【光魔法】を持つ人材を探していて、エミーリオはそこに住み込みで働くこととなっている。住む部屋があり給金も出る。これだけ聞けば、孤児の身分では良すぎる待遇である。
教会を出ることを渋っているエミーリオを説得し、ランス神父は疑うこともなく受けたらしい。という流れが私が気絶している間に起こったこと。
「もともと僕には…というか、僕たちには持ち物というものが少ないからね。用意できるものは限られてくるもの。だから僕の用意は既にできているよ。周りが騒がしいのは好条件で引き取られることを知って、魔法や腕を磨いたり、身だしなみを整えたりと孤児だけでなく村の子供たちがばたばたしているだけだよ。どうやら治療士さんのお使いの人の目にとまるように努力をしているみたいだね。どうやったら【光魔法】を覚えるのかとか、猫背を治す方法とか、話し方とかを僕に聞いてきて、うんざりだよ」
教会の建物の中にいているとそういうことを根掘り葉掘り聞きに来る子供達が多いから、時間ができたら私の所に避難しに来ているのね。なるほど~、エミーリオも大変だね。
「そもそも魔法の属性なんて生まれ持った資質であって、練習したところで覚えられることはないはずだよ。僕に聞いたところで使えるとは思えないのに」
馬鹿だよね。と続けたくなるような表情だった。
エミーリオの言う通り、この世界では生まれ持った資質で属性が決まる――と言われているけど、後天性に目覚めることがまれにあるという。希望の薄いそれにかけている孤児の皆はそれだけ必死なのだろう。
現にエミーリオは魔法適性検査で現れなかった【無属性】が現れている。これは私が密かに【育成MAX】で熟練度を上げたせいかもしれないし、資質があったからなのかも知れないけど、後天性と言えるだろう。
そしてまだ、エミーリオに【無属性】を持っていることを言えていない。
しかし、魔法の話になったのでこれはチャンスだ。
「エミーリオ、私には【サーチ】という特殊な魔法があるって伝えたことがあったよね?」
「うん、ルー姉ちゃんの仲間を見つけたときに聞いたよ。それがどうしたの?」
「それでエミーリオを見たらね、【無属性】の【念力】というのが使えるようになったみたい。これから教会を出るまで毎日練習したおいた方が良いかも。何かの役に立つかも知れないわ」
奴隷商のやつはランス神父と契約を取り交わした後、一度村から出て改めて来るという。多分下準備が必要なほどエミーリオの能力や見た目が上等なのだろう。
【光魔法】を持つ人は何処の国でも貴重である。千人に一人、万人に一人現れるかどうかとも言われているのだから。
ん?それほど貴重な【光魔法】の持ち主がこの小さな村、人口250人に三人いるとうのはとっても珍しいのでは?
ランス神父は飛ばされて派遣されたから除くとして、それでも二人。でもまぁ、私もエミーリオもこの地で生まれたわけでもなく、たまたまここにたどり着いたから、別に不思議ではないのかな?
そんなことよりもエミーリオだわ。【無属性】が顕現したのを知って固まっている。
「エミーリオ、大丈夫?惚けている場合じゃないのよ。これから貴方は一人で身を守らなきゃならないときが来るかも知れないのだから、自分の能力は把握しておいてね」
やり方を教えて、私の見ている前で即練習を始めさせた。やはり【サーチ】で見たとおり紙一枚を動かすのが精一杯みたいだ。
奴隷商がいつ来るか分からないけど、鬼ごっことともにエミーリオには【念力】の練習を毎日やって熟練度を上げてもらうことにした。
三日後、毎日気分が悪くなるまで練習をしていたというエミーリオだったけど、【念力】の熟練度は上がっていないようだった。
私の言うことを素直に聞くエミーリオ、可愛いんだけどなんだか素直すぎて、この先が不安になってくる。変なおじさんや、優しいお姉さんにほいほい付いていってはダメだよ!
そのことに念を押してから私は【育成MAX】でエミーリオのレベルと【念力】の熟練度を上げることにした。
奴隷商からの前触れの気配すらないということなので、まだ大丈夫と踏んで自分の魔力以上の熟練度を上げ、寿命すら使った結果、私は再び倒れてしまった。
どうやら熟練度の低いものには魔力だけで簡単に上がるようだけど、上になるにつれ大量の魔力が必要になり、寿命まで使うようだ。
そのかわりエミーリオのレベルは5に上がり【念力】が6まで底上げでき、レベルが上がったことにより、身体能力が恩恵を受けHP、MPだけじゃなく素早さが異常なのびを見せた。
【育成MAX】で育てたレベル、熟練度は私以外なら時間がたったら元に戻るという現象はないみたい。
今までそう重要として見ていなかった素早さ防御などの細かいステータスなんだけど、エミーリオは素早さだけは人の平均値の群を抜いていた。成人男性の平均値が10のところエミーリオは11歳にして22。倍以上である。だからといって倍のスピードが出るわけじゃない。でも単純に走るだけなら、あっという間に引き離してしまうだろう。
奴隷商から距離を置けば、エミーリオの足には叶わなく逃げおおせる。
レベルを上げた恩恵も大きいだろうけど、毎日の駆けっこや鬼ごっこの成果でもある。流石私のエミーリオ!
そして【念力】は単行本一冊を持ち上げることができるぐらいにまでなった。逃げる機会を作るためにせめて花瓶を落として驚かせるようになって欲しかったが、もともとエミーリオの【念力】は弱いみたいなので仕方が無い。それでも少しは使える幅が増えることだろう。後はどのように使うかだ。
まぶたが落ちようとしているのを踏ん張って、エミーリオに伝える。
「エミーリオ、【念力】の熟練度が上がっているわよ。本一冊ぐらいなら持ち上がるから。それだけでなく、毎日練習した成果かしらね、レベルも上がっているわ。貴方の素早さは…普通の…大人では叶わない素早さ…よ。これで……あの人達から…逃げられる…はず。後は…不意を付いて…逃げるすきを……つくる、だけよ…がんば…って……」
「なんだかルー姉ちゃんの話しを聞いていると、本当にあの人達が悪い人で僕が虐待されるのが当たり前のような気がしていたよ。でも大丈夫だよ。僕はルー姉ちゃんを守りたくて体を鍛えてきたし、自分で考えることができるようになってるから、安心して休んでね」
納屋の中にある布団の上で倒れた私に布団を掛けながら、エミーリオは可愛くて柔らかな唇を私の頬に当て呟いていたのを、遠のく意識の中でなんとなく聞いていた。
一体そんなことをいつ覚えたの!何処の誰がエミーリオに不埒なことをしたのよ!
ここは日本じゃないし、親愛のキスは不埒でも何でも無いけれど、元日本人には馴染みのないことだから!意識もはっきりして体が動いていたのなら、そう詰め寄る所だっただろう。でも、残念かな。遠のいていく意識は浮上することなく落ちていく。
「ルー姉ちゃんの言う通り、あの人たちが悪い人だったら僕は逃げるよ。僕に何ができるか分からないけど、心も体も大人になって必ずルー姉ちゃんを迎えに来るから待っていてね」
落ちていった意識では理解できなくて、エミーリオの真剣な約束は音として脳が処理してしまった。
まさかこれが、このガラム村で会う最後とは思わずに、意識を手放した。
次に目を覚ましたときはエミーリオが旅立った二日後だったとは迂闊過ぎて、自分を殴ったほどだ。
「マジでやばい!ヴォーグ村まで馬車で三日かかる。本調子なら半日もあれば【転移】を多用すれば追いつけるけど、体がなんだか麻痺しているみたいで自由に動かないんだよね」
上手く魔法を操れるかが心配なのである。他にもエミーリオを連れて行った奴隷商達を探しながらの【転移】になるから時間がかかる可能性がある。初めは【転移】を多用しても大丈夫だろうけど、追い越してしまって宿の場所が特定できなければ意味が無いし、それまでにエミーリオに危害を加えられている可能性もある。その邪魔もするつもりだったのに。
迂闊過ぎるわ、私!
早く準備して追いかけなきゃ。
まずは納屋から離れた割と大きな石の近くにいき、隣町で売った薬草やら食物、コーンスープもどき等のお金を掘りこす。
納屋に置いておくと取られる可能性もあったから、離れた場所に埋めていたのだ。
このお金はエミーリオに半分、残りは商業ギルドか冒険者ギルドに依頼をするための資金としてせっせと稼いだ。
エミーリオを助けた後に隣町で依頼を出すつもりと、後はこっそりとは行かないまでも、エミーリオに少しでも渡したくて、掘り起こしたんだけど・・・
「あっ――!」
「!―――」
小さな声と息をのむ気配を感じてそちらを見れば、村の子供とロイドがいた。子供はロイドの子分だろう。
どうして教会の裏に!?
「ロイド、あのお金…もしかして…」
ロイドより年が二つ三つ小さい子分が驚きと怪訝な様子で私の方に指を指している。ロイドは何も言わずに子分を連れて一緒に立ち去ったが、もしかして、これがあれに繋がるの?
いつもなら絶対に私のテリトリーである教会の裏には立ち寄らないのに、どうしてこんな時に現れるのよ!
今更追いかけて、違うのよ!と言ったって話しを聞いてもらえるかどうか怪しいし、まず時間が無い。
「う~~~~~っ!!ああ、もう、どうにでもなれっ!まずはエミーリオよ!」
スライム達がいる秘密の畑に向かって、スライム達の協力を仰ぎ彼らを身にまとった。
ここ数日ろくに会えずにいた彼らだったけど、特に浅葱と蘇芳。この2匹に驚いた。いや、驚く暇が無いので無理矢理納得したけど。浅葱は体の大きさを変えることができるから連れて行って欲しいと言うことで、小さな蛇のようになって私の首に巻き付き、蘇芳は逆に驚くほど大きくなっていて、私がまたがっても苦にならないほどにまで成長していた。それでも大型犬ほどだけど、【転移】に疲れたら乗せて運んでくれると言うことで連れて行くことにした。
重さで【転移】にかかる時間と魔力が必要になるけど、水龍のこともあるから全員で挑むことにした。
エミーリオ無事でいてね。




