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25 『水龍討伐』の結果です



 この地で皆死ぬのだから―――


 自分の思考から外れた感覚が、蓋をして無理矢理閉じ込めていたどろりとした何かが泡立つようにふつふつと全身を染め上げようとしていた。



そこに


『ルーシア!』


 厳しい叱咤の中に優しさが含まれる水龍さんからの声が響いた。


「―――え・・・っ・・・?」

『過剰なまでに魔力を高めなくても良い。人間どもは魔力に当てられて動けなくなっている』

「え・・・・・・?」


 えっと・・・私は今何をしようとしていたのかしら?何を考えていたの?過剰なまでの魔力って?


『きゅきゅい?』


 元に戻った?ってどういうことグレイ?ちょっとぼうっとしていたのは確かだけど。ああ、そうか、こんな危険な場面で惚けていたら危ないってことだよね。


「有り難う、グレイ、水龍さん。なんだか冒険者が動けないみたいだから、この機会にどこかに行って貰いましょう」


 寝足りない寝ぼけたような頭の一部に霞がかかったかのよう。それを振り払い辺りを見渡すと、水龍さんが言ったように冒険者達は一様に動きを止めていた。剣を受け身にしたままだったり、蹲って耐えるような格好だったりと様々だけど、どの人もぴくぴくと痙攣しながらも動けないようだった。


 何が起きたのか分からないけどチャンスとばかりに冒険者の一人一人に向かって【転移】を使う。転移の行き先はグレイの【ソナー】頼りなのでなんて私には分からないけど、冒険者なんだから多少の危険は大丈夫だろう。

 最後の一人の冒険者に向かって【転移】を唱える前に彼が口を開いた。


「お、お前!本当に何者だ。・・・魔族か?」


 小刻みに震えて絞り出すようにようやく出たといった言葉、こんな子供に対して怯えているなんて可笑しいわね。


「私はただの普通の子供よ」


 可笑しすぎてつい答えてしまった。


「ど、どこがっ普通・・・なものかっ!」

「失礼ね。貴方たちが来なければ、本当に普通に平凡で暮らしていけた、ただの子供なのよ。素直にこの地を去ってくれていたら戦う必要も無かったの」

「・・・・・・こっちも国からの依頼だからそう簡単には引き下がれない」

「そうでしょうね。だからそれぞれが簡単に帰ってこれないように距離だけは離させて貰うわ。運が良ければ町の中に飛ばされるわ。運がなければ魔物の群れのど真ん中かしら。でも貴方たちは冒険者だから、大丈夫よね?」


 【育成MAX】で引き上げた【転移MAX】はグレイの【ソナー】と力を合わせたら、私が行ったこともない土地であっても【転移】可能となっている。どの冒険者もちょっとやそっとでは帰ってこれないところに送り込んだ。もちろんその中に町の中なんて甘い所はない。この国に戻るには一月以上はかかるだろう。


「・・・お前は・・・国を敵に回して怖くないのか・・・?」


 敵意も殺意も消え失せてしまっている冒険者の目には私の行動が奇矯に映っているようだ。

 そこまでおかしなこともしていないと思うのだけど、他の冒険者と違い落ち着いて話せそうな男なので話に乗ることにした。

 男はこの世界では一般的な茶色の髪と瞳をしていて、他の冒険者達よりもかなり若い。20歳といったところだろうか。

人懐っこそうな顔をしている所為で話してもいいと思ったのかも知れない。


「国どころか、ここではありとあらゆる人たちに嫌われているのだもの。今更何処の誰に嫌われようとも関係ないわ。そんなことよりも貴方はもう戦う気は無いようだから、ついでに聞いておきたいのだけど、どうして何もしていない水龍さんに討伐依頼が来たの?」


 二国の間で手を組んで水龍討伐が決まったのは分かっている。火竜が関わっているのも。でも、人が魔物と手を組むということがあるのだろうか?


「それを聞いて何になる?国を相手に戦争でも始めようとするのか?」

「誰がそんな面倒なことするのよ。私はただ平凡に暮らしたいだけ。その暮らしが破られる可能性があるのかを聞きたいだけよ」

「・・・・・・・・・変なやつだな」

「本当に貴方は失礼な人ね」

「ま、いっか。お前には悪いことをしているが水龍討伐依頼も達成したと言えるし、言ったところで変わらないだろう。俺たちは国からの依頼で水龍討伐に来た。元は火竜がこの地を気に入って住処にしたいからと国の上層部に取引を持ちかけたそうだ。条件は水龍討伐が叶えばこの森の一部を譲ろうというもの。丁度水龍が町を焼き払った後だったから、俺たちの結成は早かったな」


 この森を挟んだ二国の土地は小さい。土地が確保でき、森の中の資源が手に入るのなら人を襲わない水龍の討伐など簡単だと考えたのだろう。だから少人数の冒険者に依頼が行ったのか。


「そこに矛盾を感じないのは流石力を求める脳筋冒険者とでもいうのかしら?」

「何!?」


 未だに動けないにしても、冒険者としてのプライドがあるのだろう憤慨を見せた。


「だってそうでしょう?水龍が人を襲わないと知っていたから子供達を囮にしたのでしょう?そんな水龍さんが町を破壊した等と嘘に決まっているわ。貴方たちは国か火竜に良いように扱われたのよ。さぁ聞きたいことは聞けたから貴方もどこかに行って」


 この人達の卑劣な行いを思い出して、収まりつつあった憤怒が頭をもたげ始めた。


「・・・・・・確かに俺たちは浅はかだった」


 この人にも容赦の無い地に飛ばそうとしたところに、自責の念を表したので手を止めてしまう。


「それで謝ってすむと思っているの?すむわけではないわよ!子供達を危険に晒せて人としてどうかと思うわよ!」

「ちが・・・!・・・いや、止められなかったのだから違わないか」

「・・・・・・」


 そういえばこの男は水龍を攻撃しても、私に一度も攻撃を仕掛けてこようとはしてこなかった。もしかして


「子供達にも一度も攻撃しなかった?」

「当たり前だろう!そんなこと出来るはずもない!」


 どうやらこの人懐っこそうなこの冒険者は見た目まんまの人のようだ。もしかしたら嘘を言っているのかも知れないけど、私に攻撃してこなかったのだから、全てが嘘じゃないのかも。


「そっかぁ。あの中でまともな冒険者もいたのね。じゃ貴方だけは距離を短くしてあげるわ」

「それは喜んで良いところか?」

「さぁ。出るところにもよるわね」


 比較的に安全な方向を頭に浮かべると、優秀なグレイからの映像が送られてきた。なるほど、距離もあり比較的に安全な場所だわ。


「良い場所が見つかったわ。二日も歩けば町に着くわよ。ただ方向が間違っていなければね」


 他の人たちなんてどこかの海やら誰も住んでいない山の奥というのもあったから、格別の扱いね。


「それで安全な場所・・・か。他の連中が何処に飛ばされたのか気になるところだが、まぁ自業自得だろう。有り難うよ。俺の名前はヒィリップだ」

「・・・・・・もう貴方に会うことはないから覚えないわよ。【転移】」


 彼はまだ何か話したりないようだったけど、強制的に送り込んだ。


 必要だったのかと言えばあまり必要のない話だったけど、他の人たちと違い目が綺麗だったからつい色々と話してしまった。時間の無駄だったかな?

 くるりと踵を返し水龍さんの元へと走り寄る。

 冒険者と話している間も、シルバーには魔力を与え続けていたから、少しは良くなっているはず。決して冒険者が言ったような危険な状況にはなっていないはずだ。


『水龍討伐は達成していると言える』


 この言葉が気になっているが、無理矢理に頭から振り払い無かったことにする。


「水龍さん、もう冒険者はいなくなったから大丈夫だよ。ゆっくりと・・・」


 傷を癒やすために休んでね。と言おうとしたのだが、振り返って見た水龍さんはシルバーに【ハイヒール】をかけて貰っているというのに、ボロボロのまま。

 どういうこと?


『ルーシアはおっとりとしているようで無茶をするようだ。これじゃ先が思いやられる』


 顔すら上げることが出来ないようで地に伏したまま。火竜にやられた傷すら治っていなかった。


『きゅうきゅういきゅぅ・・・』


 治らないってどういうこと?


「水龍さん!」

『そやつの言う通りだ。この傷はもう治らない。我の命も残り僅かだろう』

「どうして!今からヒールスライムを見つけてくるから、大丈夫よ。10匹ほどで治せばきっと・・・」

『核が傷ついたのでな。助からぬよ。それよりも息子をここに呼んでくれないか?』


 最後に話をしたいと言われて、最後なんて嫌!どうしても助けたい!と諦め切れていないけど、水龍さんの願いは叶えたいので、湖の岩に避難させていた浅葱を【転移】で呼び寄せた。


『母上』


 浅葱はまだ痺れているようだけど、微かに動けるまで回復したようで、水龍さんの顔に体を寄せる。


『よくお聞き、お前はもう成人する。母との別れがほんの少し早まっただけのこと。それよりも、お前はルーシアと共に過ごすがいい』

『え!?』

「え!?」


 蘇芳と私の声が重なった。

 蘇芳の救出の際に【従魔】の契約をしたのはあれが一番最適だったと思ったからであって、本当に【従魔】にしたかったわけではない。

 【従魔】するには双方ともに納得していなければならない。もしかして勘違いしているのでは?と思い、慌てて訂正をする。


『そうではない、我は自ら進んでこの地に留まっていたが息子には世界を見て回って欲しいのだ。区々たるを見て学び、己の道を歩んで貰いたい。ルーシアは・・・・・・ゆくゆくは旅立つつもりなのであろう?』


 慈愛に満ちた瞳で息子を見た後、一瞬言葉を詰まらせた水龍、その間は何なんだろう?意味深ではあったが、私にも優しい瞳を向けてきて、もう長くはなく去ろうとしている命に余計なことを聞くことは出来なかった。


「はい・・・」


 『ルーシア』の未来を知る前から、いつかはこの村を出て国を出て、黒髪黒目でも受け入れてくれる国を探そうと思っていた。

 その考えは今も変わらない。ただ予定よりもかなり早送りされているけど。


『息子も一緒に連れて行って欲しい』

「え・・・でも・・・」


 いくら水龍さんがそう言っていても、本人は何も言わないのに勝手に決めて良いものかどうか。

 ちらりと水龍さんのミニチュアに目を向けると、バッチリと視線が合ってしまった。


『母上がそう仰るのなら私に異存は無い』

「・・・・・・・・・」


 このミニチュアさん、もとい浅葱はクールに見えていたんだけど、どうやらマザコンの気質がありそうだ。2匹だけの世界だったのだから依存度は大きいのだろう。でも、未来のことをそう簡単に決めて大丈夫なのだろうか?とこっちが不安になる。


 そろそろ命が消えそうだというので、親子二人にするために私は離れた。核が壊されたからもう助けることは出来ないそうだ。


 水龍さんの大きな体の尻尾から光が天へと昇っていく。夕焼け色の小さな光が幾つも。

 水龍さんのように上位の生き物は遺骸を残すと後々厄介だから、最後の力で天へ還している、それがこの小さな光。

 尻尾から徐々に広がっていき、体の半分以上が光に包まれる頃には、尻尾は跡形もなく無くなっていた。

 光は辺りを漂いながら空へと消えていく様は儚いまでも美しく、結局私は何も出来ずに消えていく命を見守るしか出来なくて、知らず知らずに涙を流していた。


『ルーシア』


 体の殆どの部分が消え失せ、後は頭だけとなったとき、水龍さんに呼ばれた。


『お前・・・泣いていたのか?馬鹿じゃないのか』

「ばっ―――!」


 もうすぐ貴方の母親は天に召されるのよ!マザコンのくせに悲しくないかのような口ぶりに、かっとなる。


『悲しむ必要は無い。我々は光となり還ることが喜びなのだ』

『そういうことだ。他者から傷つけられたことが原因であっても望みは同じ。ちなみに骸をさらすことが一番の汚辱となる』


 何かを言い返す前に2匹から諭されると、人間とは考えが違うものなんだと納得するほかない。


『例え姿形が消え失せても、世界に溶けて存在する』


 それでも悲しいと思ってしまう。


『世界の一部となり息子同様に見守っているよ。ルーシア』

「!」


 息子同様って、そこまで私を受け入れてくれていたの!?

 瞬間的に見上げると、そこにはいつものように優しい瞳が私を見つめていた。

 その瞳の上の所に大きな傷がある。あれは多分、私を庇ったときに付いた傷だろう。その奥に艶やかな水色の石のようなものが見える。それが水龍の核なのだろうと漠然と理解する。

 その核がパックリと切られているのだ。


 私を庇わなければ水龍さんは生きられたというのに、恨み辛みもなく私を受け入れてくれた。

 後悔と懺悔がぐちゃぐちゃに入り交じった申し訳ないような気持ちの中に、少し暖かいものがこみ上げてきて、私はまた年甲斐もなく涙を流してしまった。


「・・・あり、有り難う」


『さて、もう潮時だ。もう一踏ん張りしてこの地だけは火竜に渡さないように結界を張ろう。息子を頼むよ。ルーシア』

「・・・はい」

『そして息子よ。分かっているね』

『はい』


 親子二人で会話している間にこれからのことを相談していたのだろう。内容は聞いていないので意味は分からなかったけど、それは親子のことだから私は口を出すことは出来ない。


『では、暇乞いの時間だ。お前達に幸多きことを願う』


 そう残して水龍さんは一気に輪郭を無くし光の玉の束となって湖の周り一帯を包み込んだ後、空へと消えていった。


 静寂になってしまった場所で立ち尽くす私と浅葱。いつまでもこうして見送っていたいのだが。


「・・・・・・本当に私に付いてきてもいいの?」

『私はお前の【従魔】なのだろう。母上がいない今、この地にいても仕方が無い』


 スパッとして男前な性格な物言いなんだけど、どうしてもマザコンの気はぬぐえない残念な感じだ。


「もう少しこのまま見送りたい所なんだけど、どうも時間が無いようなの」

『時間?』


 冒険者がいなくなったのだから危険はなくなった。時間なんて関係ないだろうといった感じの浅葱。

 確かに冒険者は一日二日ではこの場所にたどり着けないだろう。それに来たとしても水龍さんはもういない。

 その時間ではなく、私の時間・・・。

 さっきから異常に気分が悪く、視野が狭くなってきているのだ。急にどうしたのだろうと【サーチ】で見たところ、【育成MAX】で底上げした力、つまり【転移MAX】に時間制限がありそれがもうすぐ切れそうなのだ。

 実はそれだけじゃなくて、もっと大変なことになっている。


「森の中に放置している子供達を村に送ることはここからでも出来るんだけど、それをやってしまうと、多分、私倒れてしまいそうなの」


 いきなり熟練度が上がった【育成MAX】の力はとても便利なのだけど副作用があり、魔力の代わりに生命力、自分の命を削って他者もしくは自分のスキルを上げることが出来るのだ。他にも生命力を転換して魔力に変えていたから疲弊しているみたい。だからさっきから気分が非常に悪いことが分かった。


 水龍さんが張った結界の中で倒れても、魔物に襲われることはないかも知れないけど、私がいなくなったと知ったら悪い意味で、喜ぶよりも危険人物が野放しになったと村が大騒ぎするだろう。

 

『なぜ早く言わない。私は母上がいない地に未練は無い。むしろお前が離れがたそうにしていたから付き合っていたまでだ』

「・・・・・・」


 なぜかつくづく残念な感じ・・・


「それじゃ、貴方を私達の秘密の畑に案内するわ」


 自分たちが【転移】する分には魔力は回復している。その後は、グレイに【ソナー】で子供達を探して貰い、私の生命力を変換した【転移MAX】で安全に子供達を村の入り口まで送り届けることが出来た。


 その後は、やはり私はぶっ倒れてしまったのである。


「水龍討伐」が終わりました。ここまで長くなるつもりはなかったのですけど・・・

さて、これから夏の間仕事が忙しくなります。一つのことしか集中できない不器用な私なので、一時仕事に集中します。

次のエミーリオの話しも詰めたいと思っているので、次の投稿はかなり期間が空くと思います。申し訳ありません。

仕事が落ち着いたら再開します。

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