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23 子供達を助けます



 私の存在は冒険者達にばれているので、姿を隠すなんてことをせずに堂々とクロエの所に直接【転移】した。


「クロエ、クロエ大丈夫?直ぐに止血するから」

「・・・だ・・・誰・・・?」


 あ、そうか、私はつばのある帽子をかぶっていて、一見して誰か分からないように、髪も束ねて押し込んでいるし、瞳も見えないぐらいに深くかぶっている。

 クロエでも私って分からないのか。これは良い情報だわ。多少動き回っても私だとばれないと言うことだもんね。遠慮せずに行動できるわ。


 クロエの怪我の状態は酷い。膝から下が噛み千切られ、肉も不揃い、大量の出血でショック状態を起こしているようだ。痛みの感覚なんてなくなっているかも知れない。顔色も真っ青で、このままだと出血多量で死んでしまうだろう。


 私特性の薬草や肉のエキス、果物の果実を混ぜた、究極の栄養丸薬を無理矢理口に放り込み、大森林へと向かう際にいつも持ち歩いているポーションで流す。


「うぐ・・・っ」


 口を押さえてしまえば、はき出す体力も無いようで、ゴボゴボといいながら飲み込んでくれた。

 正露丸の大きさの丸薬でも今のクロエには辛いだろう。でも我慢して欲しい。

 クロエに飲ませたのは、最近は忙しすぎて食を食べることが疎かになっている自分用に開発した栄養丸薬だ。胃に届くと直ぐに吸収できるように試行錯誤してある。造血の作用もあるからクロエには必要なものだ。

 ただ非常にまずい。

 飲んだのを確認した後、クロエに直接特性ポーションをかけ止血してから、彼女を木の陰に運んだ。その際にパープルにお願いして半減して貰ってからね。でないと、私の力だけでは運べないもの。


「シルバー後は頼んだわ。私は他の子供達を助けに行くから」

『きゅい!』

「な、スライム!!?」


 右腕に巻き付いていた一見して腕輪のようなものが姿を変えてスライムとなったときにクロエがかすれた声で驚きを表す。


「大丈夫、その子はヒールスライムといって傷を治すから。シルバー、念のためにマナポーションを2本置いていくわ。次々に運んでくるから治していってね」

『きゅい!!』


 クロエの足はダメだろう。骨から全て持って行かれている。傷を治すことが出来るシルバーであっても、損失してしまった部分は治らない。


 あの時、大森林で双子に出会ったとき、回避できたと喜んでいたけど、まさかこんな所で補正が入るなんて。

 運命を変えることは出来ないの!?

 いくら私が頑張っても水龍も命を落とす・・・だったら・・・

 なんて思うわけないでしょ!私は前世で何もせずに後悔しまくったのよ!ここでも同じことをしたくない。後悔するのなら全力で当たってからにするわ。

 私にはまだ助ける方法があるのだから。


「いくわよ!私の可愛い従魔達!」

『きゅきゅ!』


 そこからの行動は早かった。スライム達と連携をして、冒険者達の魔法攻撃を避けながら、子供達を助けに入っていく。

 

 人質である息子さん・・・いえ、浅葱がいなくなったことで、冒険者達は草原の至る所に配置するようになった。

 今までは浅葱を背にしていると、水龍からの攻撃は無いと踏んで、陣を浅葱と水龍の間にはっていたのだが、効果がなくなるとなったら一カ所にとどまっている方が全滅すると判断したようだ。

 

 水龍が庇うと予測して子供達を狙う。そして水龍は体を盾にして魔法攻撃を防いでいる。

 いくら頑丈な鱗で守られているとはいえ、何度も食らえば衝撃は蓄積されていく。

 早くしなきゃとは気が焦るばかり。


 後、一番負傷が少ないロイドだけとなったとき、私は焦りから油断をしてしまった。


『きゅいい!』


 グレイからの警報で冒険者からの魔法、ウィンドカッターが迫ってきていたが、回避できずにいた。よけてしまえば、ロイドに当たってしまう。かといって直ぐにロイドを連れて行くにも彼は大きすぎた。

 一瞬の躊躇が命取り。もうダメかも・・・と衝撃を覚悟したのに、痛みが襲ってこない。

 強く閉じた目を開くと、そこには水龍の横顔があった。


「え・・・・・・?」

『大丈夫か、ルーシア。早うそいつを森の中へ運べ』


 まさか、私を庇って攻撃を受けてくれたの?それも頭で・・・?

 今までの攻撃を受けていたのは全部体だった。体を丸め頭を隠していたから、多分、頭が弱点なのだろう。

 それなのに・・・どうして頭で・・・・・・


『ルーシア、息子を助けてくれて有り難う。我はもう助からぬ。早うそいつを逃がし、息子とともにこの地をされ』

「そ・・・そんな・・・そんなの嫌、嫌よ!私は貴方を助けるために――」

『もう良い。十分だ。ルーシアと出会えて良かったと思っている。短い間だったが、あの人と一緒に過ごした時間を思い出すことが出来た』


 火竜との戦いで傷を負い、今なお、冒険者達から攻撃を受けて体中が悲鳴をあげているだろに、穏やかな水色の瞳を向けてくる。

 もう思い残すことは無いかのように、幸せな瞳を私に・・・


「ダメ・・・ダメよ。貴方は死んじゃだめなの!」


 貴方は思い出を胸に息子さんの成長を見守り、ひっそりと暮らしていたかっただけなのに。

 ささやかな幸せな時間を過ごす、それは私の願いと同じだわ。

 だから、水龍さんは死んではダメなの!

 貴方の幸せな時間は私の希望に繋がる。


 私の身勝手な想いを水龍さんにぶつけるのはどうかと思うけど、その時は必死だった。


「私が手順を間違ったのがいけなかったのよ。息子さんを助けたら、真っ先に貴方の傷を治しておけば良かったのだわ!・・・ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」


 水龍さんなら多少の攻撃も大丈夫だとどこかで思っていた。だから先に子供達を助ける方を選んだんだ。こんなことなら・・・


『泣くでない、ルーシア。同族を助けるのは自然なこと。変なことを考えずにそいつを早う連れて行け』


 言われるがままにロイドを連れて行こうとしても、いくら重さを半減して貰っても体格が良すぎてやはり私では運べない。それならば、ロイドを縛っている縄をとり、自分で歩いて貰うことにした。


「おまえ・・・・・・唇切れているぞ」

「・・・・・・」


 何を暢気なことを言っているのよ、ロイド。当たり前でしょうが!悔しくて悔しくて感情が波立つのを抑えるためにこらえているからでしょうが!


 水龍さんはとてもいい水龍さんなんだよ。他龍と子供をもうけても、胸の中ではあの人間のことを想っていたんだから。自分が死んでも自分の子供がこの大森林を守ってくれるようにと。

 あんな暖かい想いなんて私は知らない。満ち足りた想いなんて知らない。あんなに純粋で強い想いが【思念】でほんの少し流れてきただけでも、胸が苦しくなったのよ。

 自分の命を散らしても約束を守ろうとしている強くて気高い龍なのよ!


 ちょっとだけ水龍さんに母さんの面影を重ねていたのは内緒だけど・・・


 何もしていないのに、どうして!

 私にも治療できる魔法があったなら・・・!

 何故【光魔法】の属性があるのに、回復魔法が使えないのよ!!


 全部、私が不甲斐ない所為―――


 冒険者達が村に来ても探りを入れずにいたのは、前もって情報を与えていれば水龍さんなら強いから何とかなると思っていた。

 傷を負っていても治れば人間が与える攻撃なんて跳ね返すだろうと。

 物語で水龍さんは死んでしまうというのを知っていても、クロエの足の切断を回避できていたから、今回も簡単に回避できるもんだと信じて疑っていなかったのだ。


 自分の考えの浅さにむかつく―――


 自己嫌悪、後悔、悔しさ、不甲斐なさ。そこに水龍の想い、全てが合わさり、私の感情はぶち切れ寸前だ。


「さ、縄が解けたわ。私が囮になるから貴方は他の子供達と合流してこの場から逃げて」

「ああ・・・でも、お前は」

「私は良いのよ。貴方には関係ないことでしょう!」


 そう、放っておいて。

 人との関わり合いを持ちたいと思っていても、放っておいて欲しい場合もある。

 ロイドに心配されなくとも、【転移】の能力がある私だけなら余裕で逃げることが出来るのよ。


 足手まといを逃してたまるかと攻撃を仕掛けてくる冒険者の前に立ち、私は【転移】を使って、スモークは子供達の幻影を作り敵を惑わせていた。


 ロイド達が合流し逃げるのをグレイの【ソナー】で確認をした後、子供達の傷を治しこちらに駆け寄ろうとしているシルバーを迎えに行き、水龍さんの所へと戻る。


 水龍さんはかなり消耗しているにも関わらず、子供達へと向かう冒険者に尻尾や鋭い爪で追い払ってくれていた。

 その所為で体中の傷が半端ない。


「シルバー、残りのマナポーションを使って水龍の傷を治して」

『きゅ!』


 マナポーションは子供達の怪我で2本を使ってしまって残りは2本。どう考えても足りないだろう。


 冒険者を撃退して、残りの8本を取りに帰らないといけない。


 冒険者か・・・切れる寸前であってもなんとか理性がある。話し合いで何とかなればと、声をかけてみたのだが。


「あなたたちはどうして何もしていない水龍さんの討伐しようとするの?」

「そっちこそ、人間のくせに魔物に味方するってどういうことだ!」

「そいつは隣の国の村を焼き尽くしたんだ!討伐依頼が来てもおかしくないだろうが!!」


 私は水龍さんに冒険者からの攻撃が当たらないように【転移】を多用し囮になって、会話を交わす。


「・・・いつの話?」

「2週間前だ。こっちとは反対側にある村が全滅した。かろうじて生き残った村人の証言で、大森林から来た龍が炎を吐いて焼き払ったんだ。そんな危険な龍を放置しておいて良いはずないだろう!」

「そんな馬鹿な・・・」

「馬鹿はそっちだろう!魔物に味方して何になる!全人類を敵に回すつもりか!」


 水龍さんは間違っても村を焼き払うなんてことはしない!そんなことをすれば思い出の人との約束を破ってしまうことになる。

 あり得ないと分かっていても、水龍さんに目を配らせると『我ではない』との返事が返ってきた。

 ごめんなさい・・・無いと分かっていても確認してしまった。全人類を敵に回すという言葉にひるんでしまったわ。もう疑うことはせずに全面的に信じます!本当にごめんなさい!


「人類を敵に回すつもりもないわ。それだったら貴方たちは何?子供を盾にしたあなたたちのやり方は卑怯だわ!それを知られたら貴方たちの方が破滅よ!」


 スモークの幻影と私の【転移】、チャンスがあればパープルの石落としやインディゴの【錬成】で冒険者の邪魔をしているが、こちらには攻撃手段がない。

 魔力が切れたら打つ手がなしになる。話し合いで何とかなればと思っていたのだが。


「俺たちには強い味方がいらっしゃるんだ。尊い犠牲はもみ消してくれるさ!」

「強い味方・・・?卑怯な冒険者に味方するなんてろくな者じゃないわね!」


 ちょこまかと動いて攻撃が当たらないことに苛立ち、一人の冒険者がつるりと口を滑らせた。


「何だと!お前なんか太刀打ち出来るはずがない二国相手と、ちっさな体なんて鼻息で一瞬で消し飛んでしまう火竜様がろくな者じゃないだと、ふざけるな!」

「お、おい、それは・・・」

「どうせ、あいつは俺たちに刃向かったんだから死ぬ運命なんだ。言っても大丈夫さ」


 激情に任せて口を滑らせたつんつん頭の剣士に向かって、ローブを着た魔法士の男が止めに入ったようだけど、「それもそうだな。後であの子供達も始末するんだ。子供だけではこの森は抜けられないしな」と下劣な笑みを浮かべる。


 どこまでも見下げた根性の持ち主ばかり。


 それにしても先ほどの話しの中に上がった火竜とは、もしかして水龍さんと戦って敗れた火竜のことなのだろうか?


 ちらりと【転移】の合間に水龍を見れば、シルバーに冒険者から受けた小さな傷を治して貰っている姿が映ったのだが、どうも様子がおかしい。


『二国・・・もしや一国はファイン国では・・・ならば妾が人に手出しが出来ぬことを知っているはず・・・』

「水龍さん・・・?」


 彼女に意識を向けて呼びかけようとしたところに、彼女からの思念が飛び込んできた。


「さっき二国と言ったわね。その国の中にファイン国は入っているの?」


 届いた動揺の感情から私が思わず冒険者に問うてしまった。


「よく知っているじゃねぇか。ああ、そうだ。この大森林を挟んでのフロイド王国とファイン国が手を組んで水龍討伐となっているんだ!小娘一人が太刀打ちできる相手じゃないって分かっただろう!隙あり!!」


 冒険者の肯定によって、水龍さんから悲しみの渦が流れ込み、それに気を取られた私は冒険者の動きを逃してしまった。


 つんつん頭の冒険者が持っていた剣、それは普通の剣ではなかったようで、一振りで丈夫な鱗を破ってしまえる鋭い物だった。


『ぐぁああっぁぁっ!!』


 冒険者剣士が狙って場所は火竜との戦いで傷を負った場所。更に酷くえぐれてしまった傷からは一瞬後に大量の血を吹き出した。


 切りつけられた痛みで悲鳴を上げる水龍。


 飛び散る血しぶき。


 更に振り上げようとする剣。


 追い打ちをかけようと総攻撃を仕掛けようとする魔法士達。


 痛みよりも悲しみにとらわれている水龍の感情。


 ―――何も出来ずにただ見守るだけの私。


 処理できなくなったありとあらゆる感情が一気に膨れあがって、振り切れた―――



水龍討伐のエピソードが終わったらちょっと休憩に入ります。

元々一つのことしか出来ないので、仕事に集中すると帰ってきても仕事のことばかり。話を書くとなれば話のことばかり。不器用です。

もう少しすると仕事が忙しくなるので、詰めておかなければいけないことがあり、今まで以上に遅い更新になるかもしれません。

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