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22 『水龍討伐』が始まりました



 村に冒険者が到着していたが、『水龍討伐』には双子の片割れであるクロムとロイドが参加する予定なので、教会に双子がいたことによりまだ大丈夫だと踏んでマナポーション作りに没頭していた。

 マナポーションはポーションよりも薬草の種類が多いし魔力も倍以上使う。薬草を育てるために【育成】も魔力を使うので、サクサク進めることが出来なくて、3日間で約60本ぐらいしか出来なかった。

 本来の使用量の分量を一本一本に入れるとかさばるし、瓶も土から【錬成】で作るので、手間と魔力の無駄を省くために、五本分の大きさの瓶を作って合計12本出来上がった。


「水と土ってかなり重たいわね。一度に運べる本数は4本かぁ」


 私の非常食とポーションはいつも持ち歩くから、最低でもそれは持って行きたいし。仕方ない。運んでいる間にシルバーには水龍の傷を回復して貰って、取りに帰ってくるしかないね。

 ポーチじゃ入らないので、肩からかける鞄に4本のマナポーションを詰め込んで、スライム達が待つ畑に向かおうとしたところ、


「ルーシア」


 とクロムから呼び止められた。

 いくら教会裏の畑には誰も来ないとはいえ、教会敷地内で話しかけられるのは初めてである。


「どうしたの?こんな所で私と話していたと知れば、後々厄介よ」

「分かっているよ。でもクロエがいなくなったんだ。で、ルーシアなら知っているかと思って・・・」


 いつも一緒に行動している双子の片割れがいなくなったとなると、不安だったんだろう。緊急事態だから厄介だと分かっていても聞かずにいられなかったのね。

 でもクロエが一人でお出かけ?クロムを置いて行くなんて珍しいわね。


「私はここずっと納屋にこもりっきりだったから、クロエの居場所に心当たりは無いわ。あなたたちが一緒にいないのは珍しいわね。何かあったの?」

「僕も風邪を引いていて1週間ほど寝込んでいたんだよ。で、完全に治ったから採取の依頼を受けようとクロエを探したんだけど、二日前の夜からいないみたいなんだ」


 二日も前から姿を見せないのは尋常じゃない。


「心当たりはあるの?」


 私に聞いてくる前に他の人たちにも当たっているはずだから、無いんでしょうね。女の子が二日も帰っていないとなると大事件である。水龍さんの所はクロエが見つかってからの方が良いだろう。


 お出かけは中止と肩にかけていた鞄を下ろそうと手にかけた。が、クロムの話しを聞いて直ぐにでも出発できる準備万端で良かったと思う。それどころかもっと早くに私の所に来て欲しかったと思う内容だった。


「心当たりは実はあるんだよ。出来ればそれに関わっていないことを証明したくて、あちこちに聞いて回っていたんだ」


 寝込んで暫くしてクロエがお見舞いに来てくれたときの話なんだけど・・・を切欠にことのあらましを話してくれた。

 その話を聞いていく内に、私の顔色も青くなっていく。

 簡単に要約すると、クロムが寝込んでからは一人で行動していたクロエは、依頼を受けることは無かったけど、毎日どんな依頼があるかをチェックしていたそうだ。そこで王都からきた冒険者達に素質があるから自分たちの手伝いをしないか?とスカウトされたみたい。そのことを嬉々としてクロムに話していたという。

 クロムはなんとなく胡散臭い感じがしたから、自分の体調が整うまではその冒険者達とは関わらないように注意したらしい。クロエは「応」と返事をしたものの、納得はしていなかったそうだ。


「王都からきた冒険者達と一緒に行動しているかもしれない!?」


 それはやばい!クロエが二日前の夜からいないと言うことは『水龍討伐』に参加している可能性がある。

 だけど、それだとどういうこと?と疑問が残る。本来ならクロエは魔物に襲われて片足を失い、参加は出来ない。クロエのために強くなろうと決意をしたクロムが冒険者の誘いを受け、討伐に向かうはずなんだけど・・・

 実際は反対で、クロムが寝込んでクロエが参加している。


 双子のどちらでも良いという条件でイベントが進められているの?


 二日前の夜から誰も見ていないと言うことは、それよりも前に出発している可能性もある。水龍のいる場所までは数日かかるとしても、二日間の遅れは痛い。

 レベルの上がったグレイに頼んで【ソナー】でクロムの気配だけをチェックしてもらっていたんだけど、油断していたわ。

 多分、間に合うと思うけど、急いだ方が良いわね。

クロムにはこれから私も大森林へと向かうから、出会ったら冒険者達に見つからないようにクロエを連れ戻すことを約束して別れた。


 スライム達と合流し、身にまとった状態で【転移】を繰り返し、水龍のいる場所までの中間地点で一度グレイに探索して貰ったがこの辺りには人間に気配はなかった。もっと先に進んでいるみたいだ。

ちなみに蘇芳はお留守番だ。従魔だったら一緒に【転移】出来るのだが、重くなりすぎると【転移】発動まで時間がかかる。

かなりすねていたから、帰りにスライム達に頼んで獲物をお土産にしようと、まだ間に合うとのんきに構えていた。


しかし、あと少しで水龍の住処だというのに一向にグレイの探査に引っかからず、焦りだしていた。



『――シア・・・・・・ル・・・シアッ・・・・・・ルーシア!』


 切羽詰まった水龍さんの声が頭に響いたのは、後数度の【転移】で住処にたどり着く場所まで来ていた。


 水龍にしろグレイにしろ私と会話が出来るのは【念話】が出来るからである。グレイとは従魔の繋がりで、水龍さんは彼女自身が【念話】を使えるからである。実際に話しているわけではないので、能力が届く範囲ならば目の前にいなくとも会話が出来る。


 もしかしてずっと私を呼んでいた?


「何かあったのです!?」


 私に【念話】の力は無けれど、意識して答えれば水龍さんが拾ってくれるだろう。


『ようやく繋がった!ルーシア、すまぬが助けてくれ!』

「そちらに向かっている途中です。何があったのか教えてくれますか?」


 水龍さんの【念話】の熟練度は高いようで、言葉で表さなくとも映像を送ることが出来るようだ。それも現在進行形だけでなく、頭に描いたこと、つまりそれまでの経過のことも。


 どうやら冒険者達は何かの移動手段を持っていて、既に水龍の住処まで到着しているようだ。


 流れてきた映像によると、村の子供達6人の手足を縛って【水魔法】で作った小舟に乗せ、湖の途中で解除して冒険者達は退散した。解除されたら当然湖に放り出され、溺れていた子供達を水龍は助けることを選んだ。


『愚かな。我は人は食わぬのに、こんなことをしてどうする』


 冒険者達の意図が分からないが、彼らがいないのならと、痛む体に鞭打って助けに入ったが、やはり動きが遅く、全ての子供を助けることが出来なかった。それでも助けようとしている姿を見ていた水龍さんの息子さんが手伝ってくれた。その甲斐あって全員を岸に導くことが出来たのだが、そこに5体のオークが待ち構えていた。

 子供達はパニックに陥る。討伐対象である水龍に鷲掴みや咥えられた状態で岸にがったとしても真っ先に思うのは「食われる」だったのだろう。そこに子供をいたぶって殺すのが好きなオークが立ちふさがったのだから仕方ないことかも知れない。

 蓑虫状態であっても、なんとか移動して距離を取る者や、気絶をしてしまう者の中に、クロエとロイドの姿が映った。彼らは気概があるのか縄をはずそうと試みている様子だった。


『なぜに我の縄張りにオークがいる。立ち去れ!』


 湖から助けたらそれで終わりだと思っていたところに、自分の縄張りに魔物が入ってきたことによって、水龍の機嫌は急降下。

 子供達を放って戻るわけに行かず、オークと戦うべく湖から上がってくるのだが、オークの様子がおかしいことに気がついた。

 頂点に立つ龍の唸りで大抵の魔物は本能に従って逃げるのだが、5体のオークは微動だにしない。それどころか、我を無視して子供達を襲うとしている。

 操られている?何のために?

 考えるまもなく、オークは逃げることが出来ない子供達に襲いかかってくる。それらを蹴散らすことは簡単だ。だが、子供がめいめいな位置にいる所為で助けが間に合わず、怪我をした子供もいる。


 あの方との約束が・・・守れぬのは許されない。

 

 そこで痛いぐらいに感情が流れてきた。


 その思いからオークを刈り取っていったのだが、そこで油断が生まれてらしい、オークを倒している最中に、気配を消した冒険者達のよって息子を捕らえられ、「自分たちに手出しをすればこいつを殺す」と脅してきた。

 そこでようやく、全ては自分を岸に上げさせることと、息子を捕らえることが目的だったことが判明した。

 後は、攻撃できずに全て受け身しか出来ずに耐えてきたが、そろそろ限界に近づいてきている。

 せめて息子と子供達だけでも助けて欲しいと、水龍からの思念が飛んできたのだ。


 途中、昔に水龍を助けたという人間の映像も混じっていた。そしてその思いの一部も流れてきた―――

 その思い出や、並大抵ではない苦労により大森林を守ってきた歴史の一部も―――


「水龍の思いを利用して下劣な罠を仕掛けるなんて!」


 冒険者がどういう経緯で水龍さんの気性を知ったのかはわからないし、『水龍が人を襲うので討伐命令が出た』という理由に当てはならないのに討伐という結果になったのかも分からない。


 そんな理屈よりも、水龍さんから流れてきた想いのほうに重心がよって、私は感情的に支配される。


 水龍さんは何一つ悪いことしてないじゃない!それどころか約束を守って人を襲わないし、大森林から魔物があふれないように見守っていたのに。どうして!このまま天寿を全うするまで一途な思いを貫こうとしていただけなのに、そっとしてやってよ!!


 長いように思われる今までの映像も早送りされて届いたために、【転移】数回分で状況を把握できていた。


 この時、私はもっと冷静であったのなら違う結果を引き寄せていたのかも知れない。水龍さんから見た映像ばかりで、水龍さんの状態を知らないことに気づいていなかった。


 一度あふれ出した感情はとどまることを知らず、次から次へと飲まれていく。


 怪我を負った子供は数人、特に酷いのはクロエだ。

 足を・・・オークに食われていた・・・・・・こんなところで補正が入るなんて・・・・・・どこかで私は間違ったの?

 それよりもあんなに血を流しているクロエは大丈夫!?他の子供達はどうなのだろう?


 兎に角、水龍を助けるにはまずは息子さんの救出だろう。盾を取られていたのなら攻撃は出来ない。そして次に冒険者達の攻撃から身を守ることが出来なくて、水龍が間に入ることで防げている子供達。水龍のお荷物になっている彼らだ。

 子供達さえいなくなれば、避けることも出来るようになるだろう。


 順番は決まった。後はどうやってだが・・・私の使う【転移】は従魔なら一緒に転移可能だが、それ以外は手に持てる範囲に限られてくる。それも生き物以外なのだ。

 息子さん見たところ怪我はしていないのにぐったりしている。何らかの薬、多分痺れ薬を使用されたようだ。

 仕方ない・・・後で怒られるか。


 戦闘場所近くにたどり着いた私は、息子さんを助けるべくこっそりと近寄っていった。息子さんを抑えている冒険者はたった一人。他は全て攻撃に回っているみたいだ。

 一人とはいえ、この冒険者に何かあったら直ぐに駆けつけられるだろう。時間との勝負になる。


 動けないと踏んで冒険者の監視の目は緩んでいるから、網の中で包まっている息子さんの意識があるかどうかを、小石を投げつけて試してみた。

 小石が当たった息子さんは尻尾が動いた。再度確認のために二度三度当てると、網の中で首を動かし私に気づいたようだ。

 驚いたように首をあげようとして、冒険者が息子さんの方に意識がむく。

 シィーと人差し指を唇に当て合図を送った後、私は一時身を隠した。


「何かあったのかと思ったけど、何も無いのか。あ~俺も戦いたい」


 こいつは下っ端のようで戦いに参加できないようだ。これほど近くにいて私に気づいていないのだから、見張りとしても役立たずだね。


『さぁ、インディゴとパープルの出番よ!』


 グレイを中継してインディゴとパープルに指示して貰った。

 インディゴが縄を錬成して冒険者の体中を縄だらけにして貰い、その間にパープルが重力で息子さんの重さを減らす。そして私は網ごと息子さんを木の陰に引っ張り込んだ。

 スライム達の能力が上がったとしても、流石に4メートルほどある息子さんを持ち上げることは出来ないみたいなので、体重半減してもらって、皆で網を引っ張ったというわけ。


「息子さん!お母さんを助けるために今は我慢して私の従魔になって!時間が無いから始めるね」


 息子さんを助けるための手段、それは私の【従魔】になって貰うと言うこと。

 スライム達も私も攻撃力を持たないんだもの。これしかないでしょ!

後で怒られると分かっていてもこの手段しか思いつかなかった。


 行き成りの言葉で息子さんは驚きと怪訝さを表していたが、母親を助ける為だからと紫色の輝きを受け入れてくれた。


「誰だ、貴様は!」


 もう異変をかぎつけた冒険者がこっちにやってこようとしている。弓矢を放ってきたが息子さんを傷つけてしまうと、母親である水龍さんが暴れるのを分かっているので、威嚇だけで矢は木に刺さった。


 残念~、私の方が早い。

 紫色の光は消え去り、息子さんは私の従魔となった。


「【転移】」


 スライム達を直ぐに私に巻き付け、息子さんの首を抱えて【転移】で湖の真ん中にある岩場に移動した。


 麻痺で動けない息子さんをそっと横たえて、私は子供達に意識を向けるが、


「息子さんというのは何だから、浅葱と呼ぶわね」


 勝手に名を付け、肯定も否定も聞く前に、【転移】でクロエの元に飛んだ。

 

 息子さん、浅葱は助けた。これで水龍さんも攻撃に転じることが出来るだろう。後は足手まといになっている子供達を救出すれば、万事上手くいく。

 と、この時は本気でそう思っていた。





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