21 水龍さんが怪我をしました
窮屈な場所から解放された私は精力的に動き出した。
毎日が同じ作業をするのは飽きてしまうので、作物を作る、転移場所の設置、魔物襲撃に備えての補強、レベル上げを1日ずつのローテーションに組んでみた。
そうすれば魔力を必要以上に使うこともなく、サクサクと進めることが出来るのだ。
例えば作物、一度に沢山作れると助かるけど、一気に育てられるのはほんの僅かであり、莫大な魔力を必要となる。となれば魔力ばかりが減っていきとれる作物は僅か。効率が悪すぎる。それを4日で出来上がるようにと調整すると魔力量は抑えられ、広範囲に作物を育てることが出来る。と言った具合。
転移の設置は実に地味作業。大森林の至る所に設置するとともに、ヴォーグ町までの道筋に設置しようと考えている。
大森林は冒険者が来たときに、いち早く水龍に知らせるためと、自分のレベル上げに役立つから。
そしてヴォーグ町はガラム村から馬車で3日ほどいったところにある、この辺りでも大きな町。ここでエミーリオが襲われるのだ。
お守りとしてナイフを渡し遊びと称して反射神経を養ってきたけど、それだけで回避できるとは思っていないから、こっそりと後を付けて手助けするつもりでいている。
他に魔物襲撃の備えとして教会の外壁の強化と、村の周りを囲う魔物よけの木の育成をやっている。
魔物よけの木はなかなか育たないから行き成り増えるのはまずい。なので、小さな苗を見つからないように村近くの大森林の中にこっそりと植えている。
教会の外壁の強化は、この村で唯一外壁がある場所が教会なのだ。ぼろぼろでいつ倒れても良いほどの貧弱であっても、ないよりはまし。そして一番身近で手を加えやすく、教会内部は他の家よりも広い。いざという時の避難所にうってつけなのである。
どういう訳か川の水に私が【錬成】をすると『聖水』となるので、使いたい放題。
以前偶然に出来た『魔除粘土』を更に強化できないかと色々試行錯誤をしていたら、魔物よけの木の皮を聖水に1日浸し、粘土も質の良いのを使えば効果が上がった。
その『魔除粘土』を教会の外壁に塗っているのだ。
孤児の皆からも変な目で見られているけど、誰も止めることはない。なぜならランス神父が私の行動を認めたからである。
ランス神父は約束を守ってくれて、私が全属性を持つことを誰にもいっていない。それどころか、時間が許す限り魔法について教えてくれるようになった。
以前は渋っていた魔力回復に役立つマナポーションの作り方も教えてくれた。
七つの属性を全部持つというのは本当に珍しいことでランス神父が親身になってくれている。全属性を持つのに、いくら練習しても『基礎属性』が使えないことを調べてくれているみたいだけど、どうも最近調子が悪いようだ。村の人々の怪我や病気の巡回だけでも大変なのだから、私事であまり無理して欲しくない。
だから嘘っぱちな理由「土と親しくなることで何かつかめるかも・・・」と言ったところ、それを信じてくれたのか私のやることを認めてくれているのだ。
理由も作ることが出来たし、ランス神父も私との接触が減って少しは休めるだろう。
一石二鳥なのだが、ランス神父人が良すぎです!疑うことをせず鵜呑みなんて・・・マジで良いお嫁さんを探しますね!
でも外壁に粘土を塗りつけるのも、魔法の練習に一環と思っているらしいので、私としては助かっている。
出来ることならば、村の全部の家にも塗りたいところだが、いくらランス神父が許しても、他の家までは村人が許さないだろう。
レベル上げはただ単純に魔力量をもっと増やしたいと思っているだけ。
既に上位魔法士の魔力量を上回っていても、それでも足りないのだ。
「なにもかも一人でやろうとしているから、足りないんだけどね。かといって、私に協力してくれる人なんていないし・・・」
『きゅ?』
『きゃん?』
「あ、ごめん、君たちがいたわね。いつも助かるわ!有り難う」
秘密の畑で作物を集荷し終えて、次の作物を植えるために畑を更地に変えているところ。これが一番大変なんだよね。枯れてしまった作物を根っこから引っこ抜いて【錬成】の【拡散】でばらばらにして、大森林から取ってきた土と混ぜ合わせる。
大森林の土は魔力を含んでいるから、良い作物が出来上がるの。これは良いんだけど、作物を引っこ抜く作業は魔法で出来ないので、全部手作業なのだ。
スライム達はフォレストタイガーの蘇芳も手伝ってくれなかったら、とてもじゃないけど1日では終われない。
彼らも私のレベル上げのために大森林へと行くのでかなりレベルが上がっている。フォレストタイガーの蘇芳も3ヶ月で結構大きくなった。見つけたときの3倍ぐらいになっているだろうか?秋田犬ぐらいの大きさだ。
例えが犬だったけど蘇芳は猫科で、まだ子供だというのに木登りは上手、岩も簡単に上ってしまう。だから最近じゃ夜になると勝手に大森林へと行って自分のご飯を取ってきているみたい。
勝手な行動を取るけれど私のいうことは聞いてくれている。決して村人に見つからないようにと、危険なことはしないこと。人間を襲わない。の三つは守ってくれるので放っている。
大森林でご飯を調達するという狩りをしているお陰で、レベルもあっという間に上がって、この中では一番レベルが高くなっている。
たまにお裾分けとしてウサギや鳥をくれることがあり、簡易台所を設置して、貰った肉をミンチにしてこっそりとエミーリオの体力作りに役立っていたりもするので、大いに助かっている。
ふふん、私もようやく肉を捌くまで成長したのよ!自分で獲物を捕らえられないけど・・・
こんなことを繰り返していて、あっという間に夏がやってきた。
同時期の出来事は微妙に『水龍討伐』の方が早い。
ぞろぞろやってきた冒険者の数は10人。騎士並の鎧と甲を着け腰には剣を、ある人は槍を、そして魔法使いも数人いるようだ。
外からのお客様が来るときは、私は教会の地下に閉じ込められるのだが、前触れもなく訪れたので間に合わず、納屋で身を隠していることとなった。
滞在期間も分からないので、つばの大きい帽子をかぶることで黒髪を隠している。ついでにつばが大きいので目も隠せる優れものだ。
幸い夏なので農作業をする殆どの人は帽子をかぶっていて怪しまれることはない。
迂闊に近寄らなければ、多少の行動を許されているということだ。冒険者も『水龍討伐』にやってきているのであって、村の中には興味は無いよう。
到着を知った私は早速、水龍に冒険者が来たことを知らせに行った。
水龍の住処は大森林の中心部にある山の裾、大きな湖である。巨体な水龍が潜っても水位が上がらないほどの大きさである。
湖の周りは木が多い繁り、一部草原が広がっている。魔物の巣窟といわれている大森林とは思えないほどの綺麗な場所だ。
湖の真ん中に岩がつきだしていて、水龍が巡回をしていないときは大抵そこに寝そべっている。
害のない人間として水龍の住処に立ち入ることを許してもらえるまで至った私は、水龍に一時だけでも立ち退いてもらうように何度も説得をしている。その都度、今までは『我を倒せる人間はいない。気にするな』と鼻であしらっていたのだが、今回はどうやら様子が違うようだ。
『・・・そうか、助かる』
素直に私の言葉を聞いてくれたのだ。
「何かあったのですか?」
余りの素直さに何かあったのだろうと思う。
『タイミングが悪いのう・・・先日、この森を住処にしようと火竜がやってきて一悶着があったのじゃ。そやつの所為で今は動けぬ』
この大森林はかなり大きく広い、ガラム村の反対側は岩が少なく魔物にとっては住みやすいようで上位の魔物の殆どはそちらにいるそうだ。立地条件がよいので、時折災害級の竜が縄張りにしようとやってくるらしいのだが、全て水龍さんが撃退していた。今回も同様に撃退できたものの、夏場で多少弱っていた水龍さんが負傷してしまったらしい。
「水龍さんが夏が苦手だとは知りませんでした。ところで怪我の具合はどうなんですか?」
レベルを上げて威力を増したシルバーという強い味方がいる。多少の怪我ならシルバーでも直せると思ったのだが・・・
『水龍にとっては夏場が多少だが弱体する。逆に火属性なら冬場だの。覚えておいて損はないので覚えてくがよい』
風属性なら秋に強く、土属性は春に強いらしい。と教えてくれたのだが、見せてくれた怪我の具合が酷く、気がそぞろで右から左に流れていった。
「これは酷い!」
岩場に横たわる水龍さんが怪我が見えるように動いてくれたのだが、脇腹から尻尾までざっくりと切れていた。血は止まっているものの多少の怪我とは言えない重体だ。よく見ると綺麗な青色の鱗に焦げ跡もちらほら。
「ほ、本当に大丈夫ですか?」
これって致命傷と言えなくもない。
『時間はかかるがその内、治るだろう。しかし、冒険者か・・・厄介だな。今の状態では手加減できそうにない』
自分を倒しに来ている人間に対し、どうしてそこまで気を遣うのか?疑問に思ったことを口にしたところ、包み隠さずに教えてくれた。
『500年ほど昔にな、まだワラシだった我を助けてくれた人間と約束したんじゃ。この森を守って欲しいと。そして出来れば人間を敵視しないで欲しい・・・とな』
水龍さんを助けた人間は既に他界しているのに、彼女は律儀に500年間約束を守っていることになる。
ほぼ互角である火竜との戦いで引くことはなく、怪我を負うことを承知でこの地を守った。その人間との約束は自分が危なくなっても大事だったのだろう。
もしかして初恋の相手だったのかな?
ちょっと・・・どころかかなり気になるところだけど、先に傷を治さなきゃ。落ち着いたらゆっくりと聞いてみようかな。
「水龍さん傷を治しますね。シルバーお願い」
『きゅう!』
元気が良い返事がして右腕に巻き付いていたシルバーが水龍さんの脇腹に跳ねていった。そして全力で傷を治しにかかったのだが、レベルが上がったシルバーであっても、広範囲の深い傷は治しきれなかった。というか殆ど変わらない。数ミクロン肉が盛り上がった程度。
「有り難う。シルバー」
『・・・きゅぃ・・・』
持てる魔力を全て出し切っても治せなかったことにシュンとしてしまったシルバーを抱え撫でてあげる。
人とスライムだったら、数倍の大きさですむところ、スライムと水龍とでは十数倍、下手をすれば単位は上がるのだ。その傷を治すとなればシルバーだけでは無理だろう。
試しに作ってみたマナポーションが2本あったので、シルバーに飲んで貰って、もうすこしだけ頑張った貰ったものの、それでも数ミリ単位しか治せなかった。
「もっとマナポーションが必要だわ。水龍さん、2、3日我慢して貰ってもいいですか?大量にマナポーションを作ってきます!」
『それは構わぬ。放っておいてもその内治るからの。あの火竜も暫くは動けまい』
いえいえ、火竜よりも厄介な冒険者がいてますって。彼女の中では彼らは尻尾の一振りで倒せてしまうのだから眼中にないのだろう。
『・・・貴方は・・・どうしてそこまで母上を助けようとする』
「え?・・・」
今のはもしかして・・・水龍の子供さん?
初めてしゃべってくれたぁ!!というか話せたんだね。ずっと話しかけていても聞こえていない風だったのは、無視されてたんだ・・・ショック・・・
『?そこで落ち込むのは理解に苦しむ。で、先ほどの問いなのだが、人間は魔族を助けたりしないと聞く。貴方は違うのか?』
「う~ん、私にも色々事情と言うものもあるのだけど、知り合いなら助け合うと思うよ?」
そういうもんでしょ?私だって全くの知らない人が困っていても、直ぐ手を貸したりしないよ。そこまで善人じゃない。そりゃまぁ、直接言ってきたら手を貸すけど。出来る範囲は狭まるね。
水龍さんとは親しくなったし、それに良い人・・・じゃなかった良い龍だからね。生きていて欲しいんだもの。
「何を気にしているのか知らないけど、さっき言ったように私にも私なりの事情というのがあるから、無償というわけじゃないんで、気にせずに受け入れてくれると嬉しいな」
ここで子供さんから断られると厄介なので、褒美目的じゃ無いことだけはアピールした。
『・・・・・・おかしな人間だ・・・』
そう呟いて私からそっぽを向く。もう興味が失せたの!?出来ればもう少しお話ししたかったわ。
子供さんの声?思念を聞く限り、男の子のようだ。体は小さいけど、話し方から幼児というわけでもなさそうだ。
魔物の基準からだと私はおかしな人間になるんだね。知らなかったわ。
拒否の言葉じゃなかったから、好きにして良いのかな?勝手に解釈するよ?
「と、まぁ、そういうことで、2、3日中に来るんで、それまで我慢して下さいね」
『悪いな』
「いえ、いえ」
返事がおばさん臭いと思った人。貴方もいつかはこうなるんだよ!
私は【転移】で道のりも時間も短縮できているが、徒歩の冒険者達がここにたどり着くには日数が必要になる。それまでには全回復とまでは行かないまでも、動けるまで回復させてあげたい。
でないと、水龍さんの死が待っていることになるのだから。せっかく何かの縁で親しくなったのに、そうなると私も悲しいし、何より子供さんも悲しむだろう。
もっともっと仲良くなりたいから、これは頑張らねば!
私に回復魔法が使えたら一番良いのだけど・・・
この思いが引き金となって、後々暴走することになる―――




