第132話
「なあリンカ」
「うん?」
「進路とか考えてる?」
その言葉に一気に現実に引き戻される。私たちは来年受験生だ。沢里の質問は突然だけれど当然で、そろそろ将来のことを考え始めなければならない時期なのだ。
当初の家の方針に従って進学するか。
柾輝くんのように音楽の道に進むか。
未来への道が複雑に絡み合って、見通せない。
「んー……。歌いたい気持ちもあるし、作曲をちゃんと学びたい気持ちもあるんだよね」
「リンカの曲作りはほぼ独学だもんな。そこがいい味出してるけど」
「その味がこれからも通用するかどうか、分からないからね」
私はうんうん唸ってから、ひとつだけ確かなことを沢里に伝えることにした。
「私はこれからもずっと、死ぬまで沢里と歌っていたいなあ」
沢里の質問の答えにはならないだろうけれど。
自分の口からこんな言葉が出るようになるなんて。半年前まで考えられなかった。
私という人間をすっかり沢里に変えられてしまった自覚がある。
「……、」
「ん?」
小さく聞こえた返事に顔を向けると、沢里が耳まで真っ赤になって俯いている。
「どうしたの」と声をかけると悔しそうな嬉しそうなよく分からない顔でこちらをじっとりと見てきた。
「リンカ、それはずるいよ」
「なんで? 沢里は私と歌いたくない?」
「そんなわけない! 俺もずっとずっと、一生リンカと歌いたい!」
それを聞いて私は胸を撫で下ろす。沢里と同じ気持ちでいられることが嬉しい。未来の約束ができたことに安心する。
「約束だよ」
「それ分かって言ってる?」
「もちろん!」
「絶対分かってない」とぶつぶつ言って背中を丸める沢里がなんだかかわいく見えて、
「ね、沢里」
「ん?」
「大好き」
「だからこれからもよろしくね」と続けようとしたのに、勢いよく沢里の体が目の前に迫ってきてそのままぎゅうぎゅうに抱きしめられてしまったので言えなかった。
「俺の方がリンカのこと百倍好きだから!!」
「もう、そこ張り合わないでよ」
「ずっと好き! 今までもこれからも!」
「分かった分かった」
「分かってない!! リンカは全然分かってない!」
わーわー喚く沢里に抱きしめられていると、たくさんの音が聞こえてくる。
私たちの逸る心臓の音に合わせて、少しずつ構築される世界。
私たちにしか表現できない音楽がそこにあった。
「待って! 今いい音降ってきた! メモさせてメモ」
「このタイミングで!? リンカの馬鹿! 音楽オタク!」
「沢里に言われたくないんですけど!」
そんな言い合いをしても私と沢里は離れないまま、きっとこれからも一緒に歌う。
次に作る曲は恋をテーマにでもしてみようか。音楽が繋いだ二人の、ありふれた恋の歌だ。
(了)
ここまでお読み頂きありがとうございました。
これにて本編は終わりとなります。
続いて後日談を二話をアップしますので、そちらもぜひお楽しみ下さい。
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