第129話
「ほら、柾輝くん」
呆然として花束を受け取らない柾輝くんの脇腹を肘でつつくと、柾輝くんは複雑な表情を浮かべた。
「どんな心境の変化だよ。あんなに音楽活動に反対してたくせに」
「頭ごなしに反対して、悪かったわ。お父さんと同じようになってほしくなかった……夢を追って、無理をして体を壊して。でも音楽の才能はお父さんに似なくてよかった。MVPおめでとう」
「なんだよそれ……」
柾輝くんは納得のいかない様子ながらも、母の手から花束を受け取った。
母が柾輝くんに歩み寄った。とても時間のかかる一歩だった。
これでもう柾輝くんとこっそり会わなくていい、堂々と兄妹として同じ時間を過ごしていいのだ!
私は喜びのあまり柾輝くんに飛びついた。柾輝くんはまだ信じられないという顔をして、しばらくして「重い!」といつものように文句を言い始めた。
「盆正月くらい顔見せに来なさい」
「めんどくせー」
壊れていたものがゆっくりと元に戻っていく。望んだ形にはまだ遠いけれど、確実に近づきつつある。完全に失われる前に音楽が繋ぎとめてくれた。私はその事実を噛みしめる。
父が生きていた頃、母と柾輝くんは喧嘩しながらも仲がよかった。似た者同士だねと、父が呟いた意味が今なら分かる。
「そういえば歌ってる時にね、お父さんも応援してくれてたよ。がんばれ凛夏! って聞こえたの」
「父さんはライブが好きだからな」
柾輝くんが当たり前のようにそう言うから、母と一緒に笑ってしまった。もしかしたら柾輝くんはずっと前から父の声に気付いていたのかもしれない。それはちょっとずるいなと思った。
お父さん、音楽の力ってすごいね。
お母さんと柾輝くんがまた話せるようになったよ。
私たちに音楽を教えてくれてありがとう。
十何年ぶりに、家族そろって笑い合えた。
私たちは今日からまたやり直せる。
だって家族なんだから。
こうして私たちの初ライブは無事幕を閉じたのだった。




