第126話
続いて、暑さを微塵も感じさせない妖精のような軽やかさで、沢里のお母さんが私たちの前に表れた。女優帽から覗く目が目が少し赤くなっている。
「二人とも、すっごくよかったわ~!」
「ありがとうございます!」
手と手を取り合って喜び合う私たちを尻目に、沢里は石像のように動かなくなってしまった。
どうしたというのだろうか。せっかくお母さんが労いに来てくれたのに。その理由は沢里の視線の先にいる一人の女性にあるようだった。
「Hey!!」
「げっ」
健康的に焼けた小麦色の肌、スポーティなタンクトップとホットパンツからはすらりとした長い手足が伸びる。英語まじりの女性はレイバンをずらして沢里の顔面スレスレまでにじり寄って言った。
「よお! 久しぶりだなハル!!」
「ね、ねーちゃん……」
「姉ちゃん!?」
よく見るとsawaさんそっくりな彫りの深い顔立ちをしている。私の叫びに沢里のお姉さんはこちらを見て笑みを深めた。
「【linK】!!」
「はいっ」
「Good job!! いいステージだったよ!」
「ありがとうございます!」
お姉さんの勢いにつられて垂直にお辞儀をすると、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。片方の手で沢里の首を締め上げているお姉さんは性格もとてもお父さん似のようだ。
「いつ日本に戻ってきたんだよ!」
「昨日! お前のライブを観に来たに決まってンだろ!」
「わざわざ海渡って来んなよ! ネットがあるだろネットが! いてててて!」
ぐりぐりとこめかみをやられている沢里を沢里のお母さんと一緒に見守る。
「うちのお姉ちゃんはアメリカでダンスをやってるのよ」
「ダンサーさんですか!」
どうりでしなやかな筋肉を持っている。沢里家の才能が眩しい。
「ところであんたたち海外進出は興味ないのか?」
「へ?」
「ここまで大騒ぎになってんだ。海外のメディアで取り上げられる可能性だってあるだろ! なんかあったらあたしに言いな!」
お姉さんの強烈なパワーにされるがままSNSのIDを交換する。
ネットで注目されると言うことは外国の人にも見られるということだ。現に【linK】の動画には外国語のコメントも見られる。遠いようで実は近い。
沢里が息絶える前にお礼を言って、台風のように去っていくその背を見送った。
「パワフルで素敵なお姉さんだね」
「加減を知らないんだよ!」
ぜえぜえと肩で息をする沢里の新たな一面にほくそ笑んでいると、恨めしそうに見上げられた。
沢里家が少し羨ましいと思ったことは内緒だ。




