第125話
もう声も思い出せないが、向こうはもしかしたらどこかで私の声を聞いているかもしれない。
彼は自分の気持ちを伝えただけだった。
私もまた、正直に自分の気持ちを言った。
その時に限っては、どちらも悪くなかった。
あんなに苦しめられたのに、今ならそう思える。あの頃は私も彼も周囲もピリピリしていて、異常だった。その中で潰し合う形になってしまったのは、誰のせいでもない。
恨みも怒りも音楽に昇華する。そしてまた新しい音が生まれるから。
「もう大丈夫だよ」
自分で言ったその言葉が、不思議な力を持っている気がした。
ああ私はもう大丈夫なんだ。時間がかかってしまったが、ようやく納得できた。
彼女たちと全国優勝したかった。その気持ちもまた本物だったのだから。
元から【linK】のフォロワーだったらしい彼女たちは、今後も応援してくれるとのことだ。最後は笑って見送った。お互い歌い続ける限り、またどこかで会うことになるかもしれない。
ぼんやりと遠くなる背中を見ていて、彼女たちと並んで歩いた中学時代を思い出す。
毎日毎日飽きることなく朝練、昼練、午後練で顔を合わせ、声を合わせた。当たり前のように歌って、勝利を目指した。顧問の厳しい指導に耐え、完璧を追い求めて、不揃いな声を持つメンバーが弾かれてもなにも言わなかった。
そういう世界だった。底の見えない崖にピンと張られた糸の上を、私たちは整列して歩いていた。そしてその結果、私は風に負けて落下した。
もう思い出しても苦しくならない。
あの頃の私たちは幼くて一生懸命だった。ただそれだけ。
「頑張ったな」
そう沢里に言われて、私の目からひとつ涙が零れた。
あの頃のことで泣くのはこれで最後だから、見逃してほしい。




