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裏アカ彼女は、クラスの地味男子  作者: あしゅ太郎


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22. 鏡合わせの告白、そして不測の目撃者

 放課後になっても、気まずさは薄れなかった。

 教室に残っている人数が減るほど、余計に息苦しくなる。スマホが震えたのは、最後のクラスメイトが出ていった直後だった。

『今日、ちょっと話せる?』

 画面を見つめる。断る理由はいくらでも思いつくのに、俺は一度だって琉生の呼びかけをきちんと拒めたことがない。

 かなり間を置いてから、ようやく返した。

『少しだけなら』

 

 既読は一瞬だった。

『空き教室。前と同じとこ』

 校舎を歩きながら、廊下の向こうで二年の男子たちが「十秒数えるから隠れろ!」と騒いでいるのが見えた。そんな放課後らしい喧騒を横目に、俺は重い足取りで空き教室へ向かった。

 扉の前で一度だけ立ち止まる。深く息を吸ってから、そっと引いた。

 琉生はもう来ていた。窓際の机に腰を預けるように立っていて、俺が入るとすぐに顔を上げた。

「……来た」

「呼んだのそっちでしょ」

 できるだけいつも通りに返したつもりだった。でも、自分の声が強張っているのは自分でも分かった。

 琉生はすぐには何も言わなかった。夕方の光が床に長く影を伸ばし、誰もいないはずの場所がひどく張り詰めて見える。

「昨日から俺のこと避けてるだろ」

 真っ直ぐだった。前置きも、逃げ道もない。

「……別に」

「『別に』で済ませるなら、今ここに呼んでないだろ」

 図星すぎて、言い返せない。

「彰人のこと気にしてるのは分かる。けど、それだけじゃないだろ」

 何か言いたいのに、喉の奥で感情が引っかかって出てこない。琉生は小さく息を吐いて、いつもよりずっと慎重な、震えるような声で言った。

「お前にだけは、避けられると普通に傷つく」

 頭の中が一瞬、真っ白になった。

 冗談でも、軽口でもない。あまりに無防備な告白に、何を返せばいいのか分からなくなる。

「彰人に何言われるより、今日のお前の態度の方がきつかった。お前といる時が、一番楽しいから」

 静かに落ちた言葉が、俺の心臓を直に叩いた。逃げようとしていたのは俺なのに、傷ついていたのは向こうだった。

「だから、急に距離置かれると、どうしていいか分かんなくなる」

「……俺も」

 やっと出た声は、自分でも驚くくらい小さかった。

「どうしたらいいか分かんなくて。だから、避けてた。俺も、早見といる時が一番……」

 その時、廊下の向こうから足音が近づいてきた。

「おい、そっち開いてるか?」「いや、こっちはさっき見た!」

 さっきの二年の声だ。俺も琉生も、一瞬だけ息を止めた。

 足音は遠ざかっていく。けれど、途切れた空気は逆にもっと濃くなっていた。琉生が一歩だけ近づく。俺は動けなかった。

「……だったら」

 低い声が、近すぎる距離で降り注ぐ。

「もう、避けるのやめて」

 次の瞬間、肩に腕が回った。

「……っ」

 抱きしめられた、と理解するのに時間がかかった。

 ほんの少しだけ強く。逃がさないのに、乱暴じゃない。顔のすぐ横に琉生の肩がある。シャツの匂いが近くて、心臓がうるさくて、何も考えられない。

 けれど、嫌じゃなかった。むしろ、その腕の中にいることが一番自然だと、一瞬だけ思ってしまった。

 俺もそっと手を上げ、服の背に触れる。そのまま少しだけ力を返した。

 琉生が息を呑む気配がした。あまりにも静かで、近くて。もう何か一つ言葉を間違えたら、全部決まってしまいそうだった。

 その時。

「いや、無理無理……」

 くぐもった声が、すぐ近くから聞こえた。

 俺も琉生も、ぴたりと動きを止める。

「ごめん、ほんとごめん。覗き見るつもりじゃなかったんだけど……」

 声は、教室の隅――掃除用具入れのロッカーの中からだった。

 頭が真っ白になる。ロッカーの扉が、ものすごく気まずそうに少しだけ開いた。

 そこから、今村が顔を出した。ありえないくらい居心地の悪そうな、泣きそうな顔をしている。

「……えっと。俺、罰ゲームで隠れてて。いや、ほんと、出るタイミングなくて」

 時間が止まったみたいだった。俺は真っ赤になったまま、石のように固まる。

 琉生は一瞬だけ無言になったあと、堪えきれないみたいに吹き出した。

「ちょ、早見……!」

「いや、ごめん、無理。それは無理だって……!」

 笑いながら言うな、と叫びたいのに、羞恥でそれどころじゃない。

 今村もロッカーから半分出た姿勢のまま、本気で焦っていた。

「いや、ほんとに違うんだって! 俺もこんなタイミングで出たくなかったし、でもずっと中にいるのも無理だし……!」

 夕方の光が差す空き教室で、抱きしめ合ったままの俺と琉生。そして、掃除用具入れから這い出そうとする今村。

 どう考えても、意味が分からない状況だった。

 けれど、その滑稽な光景ごと、もうごまかせる段階をとうに過ぎてしまったのだと。俺は嫌というほど分からされてしまった。


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