ロンリーボーイ ロンリーガール3
目を覚ますと、そこはもとの美術室だった。
侑示は床に大の字で転がっていた。
起き上がり、辺りを見回した。破片が散らばり、ぐちゃぐちゃになったカンバスのすぐ近くで清水が倒れている。
「やぁ、起きたかい?」
壁に寄り掛かり、けだるげに笑う黒子がいた。
頬が青ざめていることから本当に気分が悪いのだとわかった。
「先輩、俺、なんか見ました・・・。」
「何かってなに?」
言いながら、床に転がる破片を蹴飛ばす。
「清水の、あいつの昔の記憶みたいな・・。」
改めて思い返してもリアルな経験だった。
「あれも、先輩の力ですか?」
意識が飛ばされる前、黒子の手から発生した黒煙のようなものに、侑示は触れた。だからおそらく、
「そうだよ。あれは私の力だ。まさか、君まで巻き込んでしまうとはね。すまなかった。」
力なくほほ笑む。
「本人だけを送り込むつもりだったんだ。」
「送り込む?」
「あぁ、記憶の中にね。・・・嫌な記憶の中に戻って傷つけばいいと思ったんだ。」
黒子は片手で両目を覆った。
真っ赤な夕日が部屋に差し込み、黒子に影をおとした。
赤と黒のコントラスト。
いつも暖かく感じるその赤が、今はひどく怖く感じた。
「・・先輩」
小さな呼びかけは、静寂の中に溶けていく。
黒子はいっさい侑示を見ようとしない。
『罰』を与えたはずが、それは自分への『罰』となって返ってきた。
侑示は音もなく立ち上がると、黒子に歩み寄り、そっと抱きしめた。
「ゆっ・・!」
「黙って。今はこうさせてください。」
驚き、顔を上げようとした黒子を止め、侑示は強く抱きしめた。
なんとなく、ほんと理由はないが、侑示には黒子が泣いているように思えたのだ。
抱きしめた腕から黒子の体温が伝わり、侑示は心が穏やかになっていくのを感じた。
身動きせず、大人しく腕の中におさまる黒子。能力なんか使わなくても、そんなものなくても解る。
少女の抱く悲しみとジレンマが。
「わかってるから。」
言いながら、侑示は顔を黒子の肩にうずめた。
「先輩が本当は傷つけるつもりなんかなかったってこと。」
でも、それでも時々極たまに、能力は自分の意思に反した行動をした。
少し脅かすはずが、相手を恐怖のどん底に叩き落とすほどのものになってしまう。そんなことはざらにあった。今回が初めてじゃ決してない。
なのに・・・
自身を抱きしめる腕に、黒子は震える手を伸ばした。
「・・どうして」
「え?」
「どうして君は『わかる』など言う。私は君の望まない報復を彼にしたというのに。君は怒らないのか?」
解らない。今までたいていの人々がこの能力に恐れを抱き、軽蔑してきた。
なのにこの少年は、恐れを抱きながらもまだ理解しようとしてくる。
たとえ同じ能力者であろうともここまでしない。みな個人主義を貫く。
解らない。
侑示は顔をあげ、一瞬きょとんとすると、すぐに頬をゆるめた。
「怒りませんよ、当然。だってそれは、先輩が俺のためにしてくれたことだし、それに、清水のしたことは確かに悪意があった。それを止めた先輩は正しい。なのに罪悪感を感じてる先輩をみて、誰が怒れるというんですか?こんなに優しい人、俺会ったことないですよ!」
へんなの、と言い笑う侑示を、黒子は見つめ続けた。
(・・・太陽みたいだ)
夕日が侑示の顔にあたる。角度から、まるで侑示の笑顔が赤く、時々橙色に輝いているようだった。
優しい人、それは目の前の人物こそ相応しいと思った。




