表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/11

ロンリーボーイ ロンリーガール1

あれから一週間、侑示は変わらず学校に通っていた。


ただ一つ変わったというならば、その手に透き通った手袋をつけていることだろうか。


「ふう・・・」


侑示は作業する手を一旦止め、絵筆を置いた。


肩の力を抜き、カンバスを見つめた。


そこには一人の少女が描かれていた。そう、黒い手袋をした少女の姿が。その表情は優しくほほ笑んでいる。孤独さの微塵も感じさせない、満たされた笑顔だ。


侑示は少女の頬をそっと撫でた。


これは、希望だ。未来に対しての。


自然と頬が緩む。


侑示の眼は無意識に自身の手袋に向いた。


これは黒子から貰った特別性の手袋だ。侑示はまだ自分の能力をうまく制御できず、常に能力が発動した状態にあったのだ。それを防げるようにと、黒子が特別に用意してくれたのがこの手袋だった。能力者ハンドマスターの力を通さず、普通に過ごすことを可能にする手袋。黒子がどこからそんなものを用意してきたのかは知らないが、これは有難いものだった。


傍から見たらビニール手袋を常に着けているようにも見えかねないが、そんな視線も今の侑示にはどうでもよかった。


「あれ・・侑示来てたのか。」


下校時間も迫ってきた頃、清水が嫌そうな顔で美術室に入ってきた。


こっちもお前など見たくなかった。


「清水こそ、今頃どうしたんだ。もう下校時刻になるぞ。」


「うるさいな。関係ないだろ。」


吐き捨てるように言い、清水は教室の後ろにあるロッカー上に飾ってあった自分の作品に手を伸ばした。


正確には、黒子が壊し侑示が再生した作品、だが。


意地悪そうだった猿は、どこか性格の良さそうな優しい表情となっていた。


はたして清水が気付くかどうか気になり、少し神経を張り巡らしていると、清水が怒ったように手を震わせているのが解った。


流石の清水も気が付いたのだろうか?


指摘される前に言ってしまおうと思い、振り返った。


「しみ」


「この間!俺見てた!」


あまりに端的な言葉に一瞬思考が停止した。


「は・・・?」


「お前、この間アイツとここの作品壊しまくってただろ!?」


あの時の猿のように顔を真っ赤にした清水が、少しびくつきながら侑示を睨んだ。


ざっと血の気が引いた。


清水は見ていたのか、あの時の光景を。


どう反応してよいか解らず、侑示は無表情で固まった。


「しかも、お前、俺の・・・」


その先は言われなくても解った。


「あぁ、お前の作品も壊してしまった。だから寸分違わずに作り直しておいた。・・・すまなかった。」


最後のすまなかったを言い切る前に、清水は猿の彫像を侑示の足元めがけて投げつけた。


彫像は床に当たり、粉々に砕けた。破片が飛び散る。


清水の荒い息だけが美術室に響いた。


「はぁはぁ・・・・こんな、こんなものいらない!お前、俺を馬鹿にしてるんだろ!?そうなんだろ!!お前もあいつらと同じだ。俺を見てなんかいないんだ!!くそっどいつもこいつも!!!」


いつもとは違う感情をさらけ出す清水に、侑示は戸惑った。驚き、立ち上がった拍子に椅子が倒れる。


「ほんとに、どいつもこいつも・・・・」


清水はうろうろと美術室を歩き回ると、やがて侑示の絵の前で止まった。


何だか嫌な予感がした。


「清水・・?」


突然、パレットに置いてあった絵筆を手に取ると、ぐちゃぐちゃと様々な絵具を混ぜだした。


「ちょっと!清水何をっ」


「うるさい!」


止めようとした侑示の腕を振り払い、清水は絵具を混ぜ続けた。絵具はだんだんと黒くなっていく。そして、


「清水!よせっっ」


「お前にも同じ思いを・・味あわせてやる!!!」


絵筆が黒い放物線を描きながら、カンバスに叩きつけられた。


そのまま黒々とした線で少女の絵を塗りつぶすように描いていく。


「やめてくれ!清水、その絵は!」


その絵は、先輩の—―!!


「はい、そこまでにしようね。『清水』クン。」


止めに入った、清水の手首をがっしりと掴む手は、黒い手袋をしていた。


驚き、その人物の顔を見る。


「せ、先輩。」


「やぁ、侑示君。お久しぶり。」


にっこり笑う。


腕を捕まれた清水が暴れ出す。


「はなせよっ!化け物!!」


絵筆を持ったまま腕を振り回すため、絵具がそこらじゅうに飛び散った。筆はそのまま黒子の顔をひっかく。頬に黒い線が描かれた。


「おっと。危ない、目に入ったらどうするの。」


黒子は清水の腕をひねりあげ、絵筆を取り落とさせた。清水はそれでも暴れるのを止めずに、空いている片方の腕を振り回した。


「清水!」


侑示は慌てて抑えに入る。その衝撃でカンバスが床に落ちる。そこを、清水の足が踏みつけてしまった。ぐしゃり、と嫌な音がした。


「あ・・・」


先輩の、絵が・・・


清水が足を上げると、凹み、穴の開いたカンバスが目に飛び込んできた。


侑示の表情が凍る。目頭が熱くなってきた。


それを、清水は目ざとく見ていた。


にやりと口を歪ませると、勢いよくカンバスに足を振り下ろした。


「あぁ!!!」


「貴様っ」


黒子が両腕を拘束してカンバスから離そうとするが、清水は踏み潰すのを止めない。


ぐしゃぐしゃと、容赦なく踏み潰し続けた。


「なんだよ、コレがそんなに大事なのか!?」


ははは、と笑いながら楽しげに足を振り下ろす。


怒りがわき起こり、侑示は清水の足にしがみついた。


「やめろっ清水!なんで・・・」


「うるさい!離せよ!!」


力任せに腕をふり、黒子を突き飛ばす。黒子は強く床に叩きつけられた。


「先輩!」


「ほら、お前の大事なモノが壊れていくぞ!いいのか?侑示!」


高笑いをする。清水の高笑いとカンバスが壊されていく音が頭の中に響き渡った。


その時だった。


「お前・・・許さん。」


いきなり背筋を何かが這ったような、そんな感触が襲ってきた。


周りを見ると、黒煙のようなものが周囲に蔓延している。


触れると、嫌にぞくぞくとした。


「・・・・先輩?」


恐る恐る黒子を見遣る。


予想通り、黒煙は手袋を取った黒子の手から発生していた。その手はあの日と同じく、黒々とした光を帯びていた。


流石の清水も黒煙にびびったのか、足を止めた。


「な、なんだよこれは!」


今度は黒煙から逃れようと暴れ出す。だが、黒煙は清水にしつこく付きまとっているようだった。


「うわぁぁぁ!!」


清水の悲鳴の中、黒子がゆらりと不気味に立ち上がる。


「お前はしてはならないことをした、『罰』を受けるがいいっ」


黒子の手がさらに光を増した。


侑示はうっかり、その光をまともに見てしまった。


「う、わっ!」


一瞬、ほんの一瞬だった。


侑示の視界はブラックアウトした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ