始まりの絵3
それだけ言うと、黒子は強く侑示の手を引き、美術室へと歩み出した。
「ちょ、ちょっと!待ってくださいよ!!いったいなんなんですかっ。だいたい、なんで俺があの絵を描いたって解ったんですか!?」
片腕を引っ張られているせいで苦しい姿勢で、侑示は黒子について歩かされていた。侑示よりも少し小さめの彼女に、侑示は叫んで問うた。
黒子は歩みを全く緩めず、むしろ早め始めた。
「んー・・それは話すとちょっと長くなるんだが。まぁ、着いたら教えてあげるよ。」
困惑した侑示をつれ、黒子は通常の半分の時間で美術室にたどり着いた。
全くなんだって言うんだ。
肩で息をしながら、侑示は目をらんらんと輝かせている先輩を見遣った。
「さて、入るか」
引き戸を開け、黒子は中に踏み入った。その後を侑示も黙って続く。
(あれ?)
敷居をくぐった時、何やら背筋がぞくっとした。心なしか、美術室の中がいつもと違うように感じる。
空気が、重い?
きょろきょろしている侑示を余所に、黒子はまっすぐ〈少年〉の絵のもとに行った。
改めて眺め、何かを確信したように笑った。
「やはり、君が原因だったか。」
「は?」
絵を見て放たれた言葉に、侑示は眉間にしわを寄せた。
「何言って・・」
「これまで君の身におきた不思議な出来事は、つまるところこの絵のせいだったのだよ。」
言いながら、黒子は右手の手袋を外した。
なんでもないその仕草に、侑示は目を奪われた。真っ黒な手袋のうちから出てきた手は異常に白いように感じた。
「さぁ、その証拠を今、見せよう。同時に、君の先ほどの質問にも答えられそうだ。」
「証拠・・・?」
黒子はゆっくりと手袋をつけていない方の手を、絵に触れた。
瞬間、眩いほどの光が二人を包んだ。
「うわっ!」
思わず、目を閉じる。
閃光は二人を貫くと、小さく、小さくなって行った。
強すぎたその光は柔らかく、優しいものに変わっていく。
恐る恐る目を開ける。
「・・・え。」
そこには一人の〈少年〉がいた。
幽霊のような頼りない姿。でも、どこか儚げで美しい。
「君は」
「この少年こそ君の絵の主人公だよ、侑示君。そして、君の深層心理の表れだ。」
「はい?」
〈少年〉はあの夕日を見るような、寂しげな目で侑示を見ている。
この〈少年〉が俺の深層心理!?
「てか、全く意味が解らないんですが!」
黒子を見遣ると、少女は〈少年〉に向かって、ほほ笑んでいた。
「君は〈侑示〉君だね。」
〈少年〉は頷いた。
当の侑示は訳が分からず、唖然としていた。
「〈侑示〉君、君の願いは叶えられた。私という、君を好む人間が現れた。安心して帰るべき場所に帰るんだ。」
素手を差出し、黒子は〈少年〉の頬を撫でた。〈少年〉は安心したようにほほ笑むと、すぅっと煙のように消えていった。




