始まりの絵2
驚き、侑示は振り返りながら後退し、下駄箱に背をぶつけた。
「いって・・」
「あぁ、驚かしてすまない。前々から気になってたものでね。個人的にあの絵は気に入っているんだ。」
痛みに耐えながら前方を見る。
「・・・誰?」
侑示の前には一人の女子生徒がいた。この学校の制服を着ているから生徒であることは確かだと思う。肩に付くか付かないかぐらいの薄い茶色の髪に、漆黒の瞳、整った顔立ちをした少女は、何故か真っ黒な手袋を片手にしていた。
不思議に思い、もう片方を見ると、そちらの手は侑示の持つ絵に素手で触れていた。
「ん?私か?私は闇野黒子。2年だ。君は?」
黒子は絵から手を離すと、ポケットから黒い手袋を取出しつけ始めた。
「・・・侑示可那斗、1年です。あの絵って・・。」
「侑示君か。よし、記録した。ん、絵かい?どの絵かを聞いているなら、私が言っているのは美術室の〈少年〉の絵だよ。」
お前もか。
何だか人気だな、あの絵。嬉しいような悲しいような。
侑示が微妙な顔をしていると、黒子は不思議そうに侑示を眺めた。
「不満そうだな。私は何か変なことでも言ったかな?」
「あっいや・・先輩じゃなくて・・・。その、あの絵色んな人に『良い絵だ』っていわれてるから、なんか変な感じがして・・。」
慌てて取り繕う。すると、黒子は腕を組み、虚空を見つめながら、何やら思案し始めた。
考え込んでいる黒子を余所に、侑示は帰るタイミングを逃したことに気付いた。
目の前の先輩を無視するのは心が痛んだが、侑示にしてみればあんな不吉を運んできた絵を褒める人間からなど、早く遠ざかりたかった。そもそも、何であれが自分の描いた絵だと解ったのか。あれにはサインなど・・・・
そこで侑示は、はっとした。
そうだ、あの絵にサインなどしていない。顧問にも、あれが自分の作品であることは伏せるようお願いしてある。なにしろ、それを交換条件に飾るのを許したのだから。
なんで解ったのだろう、俺が描いたと。
驚き、固まっていると、突然黒子が「あ!」と叫びだした。
その声にまたビビり、肩をびくつかせながら侑示は黒子を見た。
「そうか、そういうことだったか!」
「え、何・・」
「そうか、そうか。」
ひとしきり一人で頷き、辺りを行ったり来たりした後、くるりと振り向いた。
侑示はまたびくついた。
自信満々な表情をした少女は、目を白黒させている少年の手をむんずと掴み、自分に引き寄せる。
「行こう。」
「え、どこに・・・。」
「〈少年〉のもとに。」
それだけ言うと、黒子は強く侑示の手を引き、美術室へと歩み出した。




