始まりの絵1
期待してた訳じゃないんだ。ただ、あわよくば・・・・とか思ってたんだ。
侑示可那斗16歳がうなだれながら職員室から出てくると、目の前に同じクラスの清水がニンマリと笑って立っていた。その目はひどく小馬鹿に見る目だった。
「な…」
「選ばれなかっただろ、侑示。」
なんだよ、とこちらが聞く前に清水はベラベラと話し始めた。
「俺は、良い線までは行くと思ってたよ。たださー運が悪かったね。今回は審査員に俺の親父の友人がいてさ。どうやら親父に気を使ってくれちゃったみたいでさ。ほんと、ありがた迷惑ってやつ?
ははは、と軽く笑って言う。
侑示は無表情で特に反応するわけでもなく、じっとしていた。
「とにかく、俺が言いたいのはさ、落ち込むなってこと。ドンマイドンマイ!・・・・あれ、聞いてる?聞いてるかい?侑示。」
面倒くさそうに頷くと、清水は安心したようにまたしゃべり出した。
「まぁ、なんかあったら相談してよ。俺たち同じ部の仲間じゃん?力になるよ。じゃ。」
喋りつくして満足したのか、清水はすたすたと下駄箱の方へと去って行った。
後には、呆然とした状態の侑示だけが残された。
全く、あいつは何をしに来たのだろう。わざわざ放課後に残ってまで。
答えは解り切っていたが、どうしても思わずにはいられなかった。
清水は確認しに来たのだ。自分がコンクールで入賞出来なかったかどうかを。
侑示と清水は同じ美術部の部員だった。
その中でも清水はちやほやとされていて、侑示はどちらかというと影の薄い浮いた存在だった。いつも美術室の端で一人作品作りに励んでいる。目立たないよう、気を付けながら。
清水の家は代々美術商を営んでおり、清水の父親は絵画コンクールの審査員を務めるほどの見る目を持った人物だった。侑示は別に彼のことをどうこう言うつもりはなかった。ただ、周りの腐った人間たちのおかげで、いつもいつも良いイメージを抱かせて貰えていないだけで。
侑示にとって誤算だったのは、少なくともそう呼べる出来事は、その清水の父親に絵を褒められてしまったことだった。たまたま、その日は清水父が美術部を訪問するために学校に来ており、息子と共に部活動に参加していた。侑示は偶然前日に体調を崩していたため、学校に来ていなかった。
清水父ははじめ、部員たちの作業風景を眺めていたが、途中から彼らの作品を見定めるように部屋を歩き回り始めた。どの作品にも対して興味を示さず、清水父は美術室を去ろうとした時だった。
清水父の目が一枚の絵画に止まった。
黒板の右隣のコルクボードに画びょうで止められ貼られている一枚の絵に。
「これは・・・・部員の作品かね?」
ふらふらと絵に近づきながら、清水父は静かに尋ねた。
「はい、そうです。今日は病気で休んでおりますが、それは紛れもなくうちの部員の作品です。」
顧問の教師が慌てて答えた。
清水父は目を絵から離さずに、ほぅ、と小さく息を吐いた。
「とても、良い・・・。こんなに綺麗な<人間>は見たことがない。」
それは、教室の窓際に座り、夕日を眺めている一人の少年の絵だった。
特にこれといった思い入れもなく、侑示が気まぐれに描いたもので、教師が勝手に気に入り、ここに飾ったのだ。思えばその時に止めておけばよかった。今後悔しても遅いのだが。
それ以来、清水は何かと侑示にちょっかいを出すようになった。清水父の発言は、侑示にしてみれば迷惑に他ならないものだった。
彼に褒められなければ、彼にさえ褒められなければ・・・・・
「・・・帰ろう。」
感傷に浸ったところで、コンクールに入賞出来るわけでもない。侑示は片手に絵の入った袋をしっかりと抱え、下駄箱に向かった。
ちきしょう、ネロのようにはなれないっつの。
力なく靴を取出し、履き替える。と、しゃがんだ時だった。
「君があの絵の主か。」




