↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/12

【第2話 1】

 ガイア帝国アップル州アップル市――。


 黒鉄の巨大な柵で隔離された特権区画――帝(グレート)都(シティオブガイア)の検問ゲートから、貴族子弟を乗せた高級車が排気煙を吐き出しながら平民街へと滑り出てくる。


 育ちが良いとはこのことか、「おはよう」と貴族の子息たちは出迎える教員たちに優雅な笑みを向け、多種多様な背景がある同級生と歓談しながら校舎へと足を運ばせる。


 帝都外郭に位置する、その国立第一高等学校東部管区校、魔法クラス2年A組の教室は、朝から異様なざわめきに包まれていた。


「おいおい、本当にベールなのか……?!」

「嘘だろ、優等生の代名詞だったやつだぜ?!」

「ゴールド特待生から137位に落ちて、不良になっちまったのか?!」


 同級生が困惑するのも無理はない。教室の引き戸を開けて入ってきたベール・ラムバートの風貌は昨日とはまるで別人のものだった。


 清潔だった金髪は、安物の整髪料で後ろへと撫で付けられた獰猛なオールバックとなり、パープルシャツの胸元を無造作に開け、右胸に付ける純金バッジが異様な威圧感を放つ。その鋭い眼光は路地裏の野良犬のよう殺気立ち、八方美人で世渡り上手の優等生から様変わりしたのだ。


(みんな予想通り、驚いているな……だが、これでいい。

 昨日の件は生きている限り隠し通す。こんなところで舐められたら終わりだ!)


 昨夜、マスタークラスの魔術師、ラムアビ・マーリンを撲殺した正義感、その死体を隠蔽した罪悪感で一睡もできずに朝を迎えた少年は、極限の緊張感から、鏡に映る弱々しい自分を完全に脱ぎ捨てるため、心を入れ替えたのだ。


「――おいおい、天才くんよォ!」


 廊下側の扉を乱暴に開け、栗のような頭部を揺らして入ってきたのは、怪力番長リーキー・ガルベスだ。


「なんだぁ、その頭は? 成績が落ちたから不良になったのか?

 それよりも腹が減ったんだ、売店で朝飯のホットドッグを買ってきてくれよ。

 もちろん、優しい特待生様のおごりでな!」


 ガルベスが唾を飛ばしながらまくし立てる。

 太い丸太のような腕をベールの肩へ伸ばす――その瞬間だった。


 ベールは一切怯むことなく、靴底の爪先をわずかに捻った。

 同時に手首の魔法ブレスレットを発動させ、遠心力を用いた爆発的な速度で右の拳を繰り出す。


「舐めんなよ、ゴリラのパチモン野郎ッ!」

 低く冷酷な呟きとともに放たれたのは、風の気流を拳にまとわせた超近接技――《風速のマッハパンチ》だった。


 ボゴオォ……ッッ!! 鈍い破裂音が教室に響き渡る。


 学年で五指に入る怪力を持つ巨体のみぞおちを完全に撃ち抜かれた。

 その巨体がくの字に折れ曲がり、教室の黒板へと背中から激突した。

 泡を吹いて白目を剥き、床へ崩れ落ちるガルベスに教室中の生徒たちが、息を呑んで凍りつく。


「――相変わらず楽しそうだな、シーラ」


 ベールは倒れた巨漢の男に一瞥もあげず、窓際の席に座っていたシーラ・マイヤーズの前へと歩み寄る。彼女と話していた同級生が引き潮のよう去る。


 彼は机に両手をつき、顔を近づけた。

 愛らしいタヌキ顔が、恐怖で一瞬にして真っ青に引きつる。


「な、なんですか……?」

「俺のラブレターをガルベスに売り飛ばし、研究費をカツアゲさせて、山分けしていたよな?

 そのカネでミステリー小説を買っていたよな?

 俺も買おうと思ってんだが、面白いのか教えてくれよ」


「つっ……!?」 と、核心を突いてくる相手から逃げようとするが、前をふさがれる。

 そのままベールは告げる。


「なぁ、よく聞け。今までピンハネした分は全額返してもらう。

 二度と俺にたかるな。でないと、お前が恋愛禁止校則をたてに、ガルベスを使って俺にカツアゲしてきたこと、オルコット主任にすべてぶちまけてやるよ。

 それで俺が退学になるなら、お前らも道連れにするからなッ!」


 バンッ! 彼が机を叩いたら、「ヒィッ!」と、彼女も飛び跳ねた。


 ベールは二人に一切の反論を許さなかった。

 取り巻きの前で公開処刑されたシーラの顔から、サァーッと血の気が引いていく。


「カノア、ちょっと話がある。トイレに行こう」

「……お、おう!」と、仲の良い同級生に声をかけ、オールバックの男は教室を去った。


 かつての努力家でお手本とされた男子生徒はどこにもいない。

 そこにいるのは、人を殺めたことで冷え切った覚悟を持つ人間だけだ。


(うまくいった……手取り早く片付けた……あとは主任への説明だな)


 その5分後、再び教室へと戻ったとき、

「昼休みにお話しましょう、ラムバートくん」


 教室の前では魔法クラス教務主任チャーリー・オルコットが立ち、メガネの奥、言い訳無用と言いたげに鋭い眼光を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。