表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】婚約破棄? 責任者をお呼びしますわ 〜スキル《呼び鈴》で大変なことになりました〜  作者: 桜めんと
第2章「封蝋印が消えましたので、責任者をお呼びしますわ」
15/29

第15話 王妃基金


 レイベルナは手配保証書を王妃へ差し出した。

 白い指先で紙面の端を押さえ、ゆっくりと上から下まで目を通す。


 その間、監査室にいた誰もが声を出さなかった。

 財務卿の腕の中で、猫だけが小さく尻尾を揺らしている。


「――ありません」


 短い一言だった。

 だが、それだけで十分だった。


「この手配保証書は、王妃基金から出たものではありません」


 バルナードの肩が跳ねた。


「そ、そんな……っ!」


 王妃の目が、そこで初めて男へ向く。


「そちらの方は?」


 財務卿が一歩引いた声で答えた。


「文書院主任、バルナード・ケイルです。今回の文書処理に関わっております」


 王妃の声は静かだった。


「この百合は王妃基金の正式印ではありません。私の基金の印は、王冠を抱いた百合です。これはただの百合ですね」


 王妃は手配保証書の端に描かれた印を見下ろした。


「白百合慈善院の名に寄せて、王妃基金の文書に見せかけている。悪意のある似せ方です」


「⋯⋯っ」


 バルナードは言葉に詰まっている。

 財務卿の顔が険しくなった。


「王妃陛下。白百合慈善院への支援は、実際に止まっておりますか?」


「王妃基金としてはもちろん止めていません。ですが、このような保証書があるというなら、早急に確認が必要でしょう」


 王妃はすぐに答えた。


「孤児や病児を受け入れている慈善院です。食料、薬、薪、布。どれも切らせてよい場所ではありません」


 レイベルナは手配保証書の文字を見た。


――――

 一、王妃基金は、白百合慈善院に対する当月分の支援について、緊急手配を行う。

 一、食料、薬、薪、衣類その他必要物資の調達および換金手続きは、モーント商会を通じて一括して行うものとする。

 一、上記手続きについて、王太子執務室はその履行を保証する。

―――――


 最後の行だけではない。

 二行目が、さらに悪い。


「王妃基金は、そもそも商会を通じて支援物資を手配することはありえません」


 王妃の声が一段低くなる。


「白百合慈善院への支援は、基金の管理下で直接行います」


 モーント商会。

 あの夜、王家資金を私的に流した疑いで拘束された名。


「また、モーントですか」


 セドリックの声が低くなる。

 財務卿も猫を撫でる手を止めた。


「モーント商会の名は、最近は害虫よりもよく見かけますな」


「財務卿、かなり強い言い方ですわ」


 王妃が背筋を伸ばした。


「財務卿」


「はい」


「害虫に失礼です」


 監査室が静まり返った。


「害虫は、王妃基金の名を使って慈善院への支援を横取りしません」


 王妃は手配保証書を机に置いた。


「この文書を王宮の正式文書として通した者は誰ですか?」


 その問いで、バルナードの喉が鳴った。

 レイベルナはその反応を見逃さなかった。


「バルナード主任」


 バルナードの片頬にだけ残った髭が、情けなく震える。


「わ、私は命じられただけで……この保証書を⋯⋯私は……」


「では、誰が作ったのですか?」


 レイベルナが問うが、バルナードは口を閉じたままだった。


 ただ、さきほどまでとは違う沈黙だった。

 怯えではない。

 まだ、どこかで自分だけは逃げられると思っているような沈黙。


 リゼットが手配保証書の二行目を指した。


「この文書によれば、白百合慈善院への支援はモーント商会を通じて一括手配された扱いになっています。保証書の効力はすでに⋯⋯」


 トマスが丸いパンを握りしめたまま、小さく言った。


「じゃあ、帳面では届いたことになってしまってるのですか?!」


 財務卿が感心したように目を細める。


「トマス殿、パンの形はさらに崩れましたが、発言はだいぶ整ってきましたな」


 レイベルナは保証書へ指先を添えた。


「王妃陛下」


「何でしょう?」


「偽文書がもし処理されていれば、白百合慈善院への支援はトマスさんの言う通り、手配済みになるということでしょうか?」


「ええ、そうなるかと」


「では、慈善院の代わりに、すでに物資やお金を受け取った者がいる可能性がある……許せませんわ」


 王妃は静かに頷いた。


「私の名を使い、子どもたちへの支援を汚した者に、きっちり説明をさせなくてはなりません」


 バルナードの顔色が変わる。


「モーントはこの保証書にも関わっている。この『責任』は消えませんわ」


 レイベルナが言うと、財務卿が深く頷いた。


「金の流れに名が残れば、逃げられませんぞ」


「財務卿。モーントは檻の中なのでそもそも逃げられませんわ」


「そうでしたな。つぎに捕まえるのは責任の所在ですな」


 王妃は保証書に目を向けた。


「結構です。身柄が牢にあるのなら、必ず報いを受けさせます。レイベルナ嬢、皆の前で説明してもらいましょう」


 セドリックが扉の前から、少しだけレイベルナの方に寄った。

 呼ばれる相手がどこから来ても、通さない位置だった。


「牢の中からでも⋯⋯来てしまうのでしょうなぁ」


 財務卿が低く言う。

 レイベルナは銀の鈴を持ち上げた。


「では、帳面の上で受け取ったことになっている方に、来ていただきますわ」


 バルナードが息を呑む。


 ――チリン。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
逃げられないってわかってるのにダツゴクとかはさすがに事前連絡しようぜ。 ダツゴク実行させたこと、ダツゴクさせられることを知らしめた事は責任問題でしょ。 二回目王妃を茶会中座させた時点で今更だけど、能力…
またもやお茶会途中に御呼ばれされた王妃様♪淑女の皆様は今頃理由を探り合っているのですかね~。 そろそろお部屋が狭くなってくるのでは?後、何人呼べるのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ