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第69話:入口を変えるだけで人は動く

翌日。


学校が終わると、そのまま田中の店へ向かう。


昨日と同じ通り。


同じ場所。


同じ店。


だが――


(今日は違う)


そう思う。


昨日は観察。


今日は実行。


店の前に立つ。


看板を見る。


メニューを見る。


入口を見る。


(……やることは一つだな)


迷いを消す。


それだけ。


「来たか」


後ろから声。


田中だ。


「はい」


短く答える。


「で、どうする?」


すぐに聞いてくる。


(……早いな)


だが、いい。


「一つだけ変える」


短く言う。


「一つ?」


「入口」


それだけ。


田中が腕を組む。


「具体的には?」


店の前に立つ。


メニューを指す。


「多い」


それだけ。


田中が苦笑する。


「やっぱりそこか」


「削る」


短く言う。


「全部じゃない」


一拍。


「一つ出す」


それだけ。


「一つ?」


「最初に頼むやつ」


それだけ。


田中が少し考える。


「おすすめってことか」


「そう」


短く言う。


「でもうち、看板メニューとかないぞ?」


(……そこだな)


そう思う。


「作る」


即答する。


「え?」


「決める」


それだけ。


田中が少し笑う。


「そんな簡単に決めていいのか?」


(……いい)


そう思う。


「いい」


短く言う。


「理由は後でつく」


それだけ。


沈黙。


数秒。


田中が頷く。


「……やるか」


決断が早い。


(……いいな)


そう思う。


中に入る。


紙とペンを出す。


大きく書く。


“おすすめ定食”


それだけ。


下に一つ。


メニューから選ぶ。


一番“無難なやつ”。


「これでいい」


短く言う。


田中が見る。


「シンプルだな」


「それでいい」


それだけ。


入口に貼る。


(……これで通る)


そう確信する。


店を開ける。


最初の客が来る。


昨日も見た顔。


常連ではない。


だが、迷うタイプ。


入口で止まる。


看板を見る。


(……見たな)


そう思う。


そのまま入る。


席に座る。


メニューを見る。


だが――


すぐに顔を上げる。


「おすすめってどれ?」


店員が一瞬戸惑う。


(……まだ慣れてないな)


そう思う。


「それです」


恒一が言う。


紙を指す。


「あ、じゃあそれで」


即決。


(……速い)


そう感じる。


迷いが消えた。


それだけで、動きが変わる。


料理を出す。


客が食べる。


「……いいねこれ」


普通の感想。


だが――


「また来るわ」


それがつく。


(……来たな)


そう思う。


一人目で出る。


十分だ。


次の客。


二人組。


入口で少し止まる。


だが――


すぐに入る。


席に座る。


「何にする?」


「おすすめでいいんじゃね?」


それだけで決まる。


(……回る)


確信する。


迷いがない。


時間がかからない。


流れが繋がる。


田中が横で見ている。


無言で。


だが、表情が変わっている。


「……マジか」


小さく呟く。


(……まだだ)


そう思う。


入口だけ。


これで終わりじゃない。


だが――


効果は出ている。


昼。


客数は昨日と大きく変わらない。


だが――


入るスピードが違う。


滞在時間が短い。


回転が上がる。


(……これだけでも変わるな)


そう判断する。


夕方。


さらに差が出る。


昨日は迷っていた客が、そのまま入る。


注文も早い。


(……数字に出るな)


そう思う。


夜。


店を閉める。


田中がすぐに言う。


「増えてる」


売上を見ながら。


「昨日より」


それだけ。


(……当然だな)


そう思う。


客数は大きく増えていない。


だが、回転が上がっている。


結果として、売上は伸びる。


「なんでこれだけでこうなるんだ」


田中が言う。


本気で。


「迷いがない」


短く答える。


「それだけ」


それだけで十分だ。


田中が少し黙る。


「……怖いな」


小さく言う。


「簡単すぎる」


(……簡単だ)


そう思う。


だが、誰もやらない。


それだけの話だ。


「次やるか?」


田中が聞く。


(……来るな)


そう思う。


「次」


短く言う。


「中」


それだけ。


田中が頷く。


「詰まりか」


「そう」


短く言う。


「順番変える」


それだけ。


「わかった」


即答。


(……いいな)


そう思う。


理解が早い。


動きも早い。


やりやすい。


店を出る。


夜の空気。


少し冷たい。


(……通ったな)


そう思う。


他人の店。


他人の人間。


それでも――


同じように動く。


それが証明された。


「……次は」


さらに中。


さらに奥。


そして――


“理由”を作る。


そこまで行けば、完成だ。


「……いけるな」


小さく呟く。


流れは、完全に外へ出た。


ここからはもう――


自分の店じゃない。


“複数”だ。


その段階に、確実に入っていた。

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