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第66話:初めて金が動いた日

店を閉めたあと。


テーブルの上に、今日の売上が並んでいた。


紙幣。


硬貨。


昨日より多い。


一昨日よりも、さらに。


「……こんなに違う?」


母がぽつりと呟く。


指先で数えながら、何度も見直している。


「間違ってないよね」


「合ってる」


恒一は短く答える。


数字は嘘をつかない。


(……出たな)


そう思う。


“結果”。


今までは感覚だった。


楽になった。


回るようになった。


客が増えた気がする。


だが、今日は違う。


数字として、出ている。


はっきりと。


「なんでこうなるのよ」


母が言う。


少し笑いながら。


だが、その声には戸惑いも混ざっている。


「前と同じことしてるのに」


(……違うな)


そう思う。


「同じじゃない」


短く言う。


「え?」


「流れが違う」


それだけ。


母が少し黙る。


完全には理解していない。


だが、否定はしない。


「……まあ、いいわ」


小さく言う。


「増えてるなら」


それで終わる。


(……それでいい)


そう思う。


理屈はいらない。


結果でいい。


だが、恒一の中でははっきりしていた。


(これが“金が動く”ってことか)


前世でも見てきた。


売上。


利益。


数字。


だが――


それはどこか遠かった。


作られたもの。


渡されたもの。


管理するもの。


(違うな)


そう思う。


今回は、自分で動かした。


ゼロから。


何もない状態から。


仕組みを作って。


流れを変えて。


結果として、金が増えた。


(……これが本質か)


そう確信する。


やり方はシンプルだ。


迷いを消す。


詰まりを消す。


流れを作る。


それだけで、人が動く。


人が動けば、金が動く。


それだけの話だ。


「……なあ」


母が声をかける。


「ん?」


「これさ」


少しだけ迷ってから言う。


「続くと思う?」


(……いい質問だ)


そう思う。


短く答える。


「続く」


「なんで?」


「崩れてないから」


それだけ。


母が少し笑う。


「また難しいこと言う」


だが、納得している顔だ。


(……見えてるな)


完全ではない。


だが、流れは理解している。


それで十分だ。


「……あんたさ」


母がふと真顔になる。


「将来どうするの?」


(……来たか)


そう思う。


この流れで、その質問。


自然だ。


だが――


答えは決まっている。


「増やす」


短く言う。


「え?」


「これ」


テーブルの上の金を指す。


「増やす」


それだけ。


母が少し笑う。


「簡単に言うわね」


(……簡単だ)


そう思う。


やることは変わらない。


規模が変わるだけだ。


「どうやって?」


母が聞く。


「回す」


短く言う。


「またそれ?」


「同じ」


それだけ。


母は少し呆れた顔をする。


だが――


否定はしない。


(……これでいい)


そう思う。


理解させる必要はない。


結果を見せればいい。


それで動く。


それで十分だ。


夜。


部屋に戻る。


ノートを開く。


今日の流れを書く。


・入口

・回転

・準備

・削減

・分離

・結果


すべて繋がっている。


(……完成だな)


そう判断する。


小さい規模だが、構造は完成している。


なら――


次は何か。


「……外だな」


小さく呟く。


学校。


店。


ここまでは“内側”。


管理できる範囲。


だが――


外は違う。


人が増える。


思惑が増える。


ズレが増える。


(……面白いな)


そう思う。


同じことが通用するか。


いや――


通用させる。


そのために何が必要か。


ノートに書く。


・信用

・金

・場所


それだけ。


「……足りてるな」


小さく言う。


信用はある。


店で結果を出した。


学校でも出している。


金は、少ないがある。


種はできた。


場所もある。


この店。


ここを起点にできる。


(……いけるな)


そう確信する。


布団に入る。


目を閉じる。


今日の光景が浮かぶ。


金が増える。


母が驚く。


流れが続く。


すべてが繋がる。


「……次は」


小さく呟く。


もっと大きく。


もっと速く。


もっと広く。


そのために――


何を動かすか。


人か。


金か。


それとも――


両方か。


「……まあいい」


そう思う。


やることは変わらない。


迷いを消す。


詰まりを消す。


流れを作る。


それだけで、全部動く。


その先にあるものは――


もう見えている。


「……始まったな」


小さく呟く。


これは終わりじゃない。


最初だ。


初めて、自分で金を動かした日。


それが、すべての始まりだった。

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