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第65話:残す理由を決める

朝。


店の前に立った瞬間、昨日の空気がまだ残っていた。


少し重い。


客の足が止まるわけじゃない。


だが――


入る前の“期待”が弱い。


(……戻すだけじゃ足りないな)


そう思う。


ただ元に戻すのは簡単だ。


だが、それでは意味がない。


また同じところで止まる。


削って、崩して、戻す。


それだけでは――


進んでいない。


(……決めるか)


小さく呟く。


何を残すか。


何を削るか。


その“基準”を。


店に入る。


母が準備をしている。


「おはよう」


「……おはよう」


少しだけぎこちない。


昨日の影響だ。


「今日、戻す」


恒一が言う。


「うん……」


母は小さく頷く。


だが、表情は迷っている。


(……当然だな)


何を戻すか。


それが決まっていない。


なら――


決める。


「全部じゃない」


短く言う。


「え?」


「残すやつだけ戻す」


それだけ。


母が少し考える。


「どうやって決めるの?」


(……そこだ)


答えはシンプルだ。


「理由があるかどうか」


それだけ。


「理由?」


「来る理由」


短く言う。


母が少し黙る。


「それ、どうやって分かるのよ」


「分かる」


即答する。


「見ればいい」


それだけ。


開店。


客が入る。


最初は常連。


少しだけ警戒している顔。


「今日はあるか?」


昨日と同じ言葉。


母が少し緊張した声で答える。


「あるよ」


料理を出す。


客が食べる。


数秒。


「……やっぱこれだな」


小さく言う。


(……これだ)


そう思う。


“理由がある”


味だけじゃない。


習慣。


安心。


それが理由だ。


次の客。


別の常連。


同じ流れ。


同じ反応。


(……残す)


そう判断する。


ノートに書く。


“常連が来る理由”


それだけ。


次。


新規の客。


おすすめを見る。


注文する。


食べる。


「うまいですね」


普通の反応。


だが――


「また来ます」


それがつく。


(……これも理由だ)


そう思う。


“初めてでも選べる”


それが理由。


また書く。


“新規が来る理由”


それだけ。


昼過ぎ。


少し落ち着く。


母が聞く。


「……それで?」


「何残すの?」


恒一はノートを見る。


書かれているのはシンプルだ。


・常連が来る理由

・新規が来る理由


それだけ。


「両方残す」


短く言う。


「え?」


「どっちかじゃない」


それだけ。


母が少し驚く。


「そんな都合よくいく?」


(……いく)


そう思う。


やり方を変えればいい。


「見せ方」


短く言う。


「分ける」


それだけ。


母が首を傾げる。


「どういうこと?」


壁のメニューを見る。


そこに歩いていく。


ペンを取る。


少しだけ書き換える。


“おすすめ”


その下にまとめる。


新規向け。


迷わない。


その横。


“いつもの”


小さく書く。


常連向け。


残す。


(……これでいい)


役割を分ける。


それだけ。


「これでどう?」


母が聞く。


「迷わない」


短く答える。


「選べる」


それだけ。


午後。


客が入る。


新規。


おすすめを見る。


注文する。


迷わない。


次。


常連。


“いつもの”を見る。


「あるな」


安心する。


注文する。


(……繋がったな)


そう思う。


削るだけじゃない。


残すだけじゃない。


“分ける”


それが解だった。


夕方。


店は回っている。


昨日より明らかに。


客も戻っている。


回転も落ちていない。


(……完成だな)


そう確信する。


夜。


売上を数える。


母が驚く。


「……増えてる」


昨日より。


一昨日より。


明確に。


「なんでよ」


小さく言う。


(……見えてないか)


そう思う。


「理由残した」


短く言う。


「え?」


「来る理由」


それだけ。


母が少し黙る。


「……難しいこと言うわね」


苦笑する。


だが――


理解している。


感覚で。


それで十分だ。


「……でも」


母が続ける。


「前よりいい」


その一言。


(……それでいい)


そう思う。


理屈じゃない。


結果でいい。


布団に入る。


目を閉じる。


今日の流れが浮かぶ。


削る。

残す。

分ける。

回る。


すべてが繋がる。


「……同じだな」


小さく呟く。


学校でも。


店でも。


やることは同じ。


基準を作る。


それで全部動く。


「……次は」


さらに一歩。


小さい店は終わった。


次は――


外。


金。


規模。


そこに行く。


その準備は、もうできている。


その段階に、入った。

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