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第64話:削りすぎた結果

店の中は、明らかに変わっていた。


客が入る。


迷わない。


座る。


注文する。


すぐ出る。


食べる。


帰る。


そしてまた入る。


(……回りきったな)


カウンターの端に座りながら、恒一はそう判断する。


入口。


回転。


準備。


細部。


全部繋がっている。


流れは止まらない。


「……なんかさ」


母がぽつりと言う。


「最近、ちょっと楽」


笑いながら。


「忙しいのに」


それが答えだった。


(無駄が減った)


だから余裕が生まれる。


そして――


売上も上がる。


(……ここまではいい)


そう思う。


だが、同時に感じる。


(まだ削れるな)


無駄は、まだ残っている。


目を向ける。


メニュー。


壁一面に並ぶ文字。


数は減った。


だが――


まだ多い。


「……ここだな」


小さく呟く。


原因ははっきりしている。


迷い。


入口での迷いは消した。


だが、内部ではまだ残っている。


「母さん」


声をかける。


「ん?」


「減らす」


短く言う。


「また?」


少しだけ警戒した声。


「何を」


「メニュー」


それだけ。


母が止まる。


「……やめなさいよ」


即答。


「今うまくいってるでしょ」


(……正しい)


そう思う。


だが――


(まだ甘い)


「多い」


短く言う。


「まだ迷う」


それだけ。


母が少し強く言う。


「でも減らしすぎたら困るでしょ」


「残す」


短く返す。


「来るやつだけ」


それだけ。


沈黙。


母がこちらを見る。


「……ほんとに大丈夫?」


(……大丈夫じゃないな)


内心でそう思う。


だが、言わない。


「やる」


短く言う。


その一言で十分だった。


翌日。


メニューはさらに削られた。


人気のないものは外す。


似たものはまとめる。


結果――


半分近くになった。


(……やりすぎたな)


自分でもわかる。


だが――


(確認する)


それが目的だ。


店を開ける。


最初の客が来る。


常連だ。


席に座る。


メニューを見る。


そして――


止まる。


「……あれ?」


小さく言う。


「ないの?」


母が答える。


「ちょっと変えてて……」


客の顔が曇る。


「前のやつ、もうないの?」


「ごめんね」


少し気まずい空気。


「……じゃあいいや」


立ち上がる。


そのまま出ていく。


(……来たな)


そう思う。


次の客。


新規。


おすすめを見る。


注文する。


迷わない。


(……こっちは問題ない)


だが――


三人目。


また常連。


同じ反応。


「なんで無くしたの?」


少し強い口調。


「食べたいから来てるのに」


そのまま席を立つ。


(……崩れたな)


確信する。


流れが切れた。


夕方。


客はいる。


だが、減っている。


特に――常連。


夜。


店を閉める。


空気が重い。


母が静かに言う。


「……やっぱりやりすぎたでしょ」


責めてはいない。


だが、事実だ。


「常連減ったじゃない」


(……その通りだ)


そう思う。


否定しない。


「戻す」


短く言う。


「え?」


母が顔を上げる。


「全部じゃない」


一拍置く。


「理由あるやつだけ」


それだけ。


母が少し安心した顔をする。


「……ならいいけど」


(……いい失敗だ)


そう思う。


削るのは強い。


だが――


削りすぎると壊れる。


理由があるものまで消すと、戻らない。


「……線引きだな」


小さく呟く。


何を残すか。


何を削るか。


そこがすべてだ。


ノートを開く。


書く。


・削る

・残す

・理由


それだけ。


「……次で決まるな」


小さく言う。


ここで間違えると、崩れる。


だが――


(直せる)


そう確信する。


失敗した。


だが、構造は見えた。


布団に入る。


目を閉じる。


今日の流れが浮かぶ。


改善。

過剰。

崩壊。


その一連。


「……悪くない」


小さく呟く。


失敗は必要だ。


一度崩すと、限界がわかる。


次は――


外さない。


「……残すものを決める」


それだけ。


流れはまだ死んでいない。


調整すれば、戻る。


いや――


前より強くなる。


その段階に、入った。

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