表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
208/211

第187話:熱狂の中で、“信用”だけが静かに痩せ始めていた

平成二年。


秋。


朝。


乾いた風。


空は高い。


蝉の声も消え始め、代わりに遠くで工事音が響いている。


商店街。


配送車。


通勤する人々。


全部動いている。


景気は良い。


今も。


まだ。


テレビ。


「平成経済は引き続き拡大――」


「設備投資は依然高水準――」


「地価上昇率も堅調――」


(まだ表面は完璧だな)


恒一は新聞を閉じた。


未来を知っている。


だから分かる。


崩壊前。


最後まで残るのは。


“数字”。


そして。


最初に壊れるのは。


“信用”。


母が言う。


「最近またマンション建設増えたわね」


父も頷く。


「銀行もどんどん貸してる」


だが。


少し黙る。


「……最近、“確認”増えたけどな」


(来たか)


「確認?」


恒一が聞く。


父は苦笑した。


「取引先の支払い確認」


「手形確認」


「在庫確認」


さらに。


「前より細かくなった」


(始まったな)


未来でもそうだった。


本当に危なくなる時。


人は。


急に慎重になる。


机へ向かう。


大学ノート。


全国地方再生ネットワーク。


十二都市。


協力都市二十七。


さらに。


新しいページ。


・信用確認増加

・与信厳格化微増

・在庫監視開始

・支払い確認頻発


(かなり近い)


今までは。


“どうせ払える”。


それが前提だった。


だが。


少しずつ変わり始めている。


学校。


昼休み。


男子達は騒いでいる。


「また土地上がったって」


「株もヤバいらしい」


「親父超儲かってる」


笑い声。


誰も気付かない。


その裏で。


会社同士が。


少しずつ。


疑い始めている事を。


放課後。


今日は第二都市。


駅前。


人が多い。


商店街。


百貨店。


再開発ビル。


全部動いている。


成功している。


だが。


空気が違う。


以前より。


皆。


少しだけ慎重だ。


会館へ向かう。


商工会。


銀行。


物流。


建設。


不動産。


いつもの顔。


だが。


今日は資料が多い。


会長が苦笑する。


「最近な」


紙を叩く。


「確認書類ばっか増える」


(未来通りだ)


物流会社社長も言う。


「うちもだ」


建設会社社長も。


「取引先調査増えた」


銀行員が静かに言う。


「本部からです」


(中央も気付き始めたか)


まだ表には出ない。


だが。


金融側は。


少しずつ動いている。


その時。


若い不動産会社社長が笑った。


「でも景気良いですよ?」


(未来だな)


まだ。


そう思っている。


銀行員は苦笑した。


「数字は良いです」


少し止まる。


「でも最近、“確認”が増えてます」


会館が静かになる。


ベテラン経営者達は。


その意味が分かる。


信用。


それが少しずつ痩せ始めている。


その時。


古い建設会社社長がぽつりと言った。


「最近、“大丈夫ですよね?”って聞かれる」


静かになる。


「前はそんな事無かった」


(そうなる)


未来でも。


崩壊前。


皆。


少しずつ不安になる。


だが。


口には出さない。


だから。


確認だけ増える。


夕方。


第二都市の裏通りを歩く。


昔ながらの店。


古い工場。


物流倉庫。


表通りは派手だ。


だが。


裏側は違う。


小さな会社。


古い店。


そこには。


疲労が見える。


その時。


小さな部品工場の社長が声を掛けてきた。


「恒一君」


少し痩せていた。


工場へ入る。


機械音。


油の匂い。


だが。


空気が重い。


社長が言う。


「仕事はある」


頷く。


「でも最近、取引先が細かい」


(来たな)


「在庫確認」


「納期確認」


「資金確認」


さらに。


「急に増えた」


未来でもそうだった。


信用が薄くなる時。


皆。


確認を始める。


社長が苦笑する。


「前は“いつもの感じ”で回ってたんだけどな」


(それが消える)


熱狂期の最後。


“なんとなく大丈夫”。


それが壊れ始める。


夜。


第五物流都市。


物流会社社長との会話。


大型倉庫。


コンテナ。


トラック。


全部動いている。


だが。


社長は静かだった。


「最近な」


煙草に火を付ける。


「前払い増えた」


(未来だ)


「どこも?」


恒一が聞く。


「少しずつな」


さらに。


「“念のため”って」


(完全に始まってる)


誰も騒がない。


だが。


皆。


少しずつ。


信用を減らし始めている。


帰宅。


静かな部屋。


秋の虫の声。


時計の音。


机へ向かう。


大学ノート。


新しいページ。


・平成二年秋

・信用確認増加

・与信慎重化開始

・前払い要求微増


さらに。


・熱狂の中で、“信用”だけが静かに痩せ始めていた


書き込む。


未来でも。


最後まで数字は強かった。


株価。


地価。


売上。


全部。


だが。


信用だけは先に痩せる。


確認。


警戒。


前払い。


在庫監視。


そうやって。


皆。


少しずつ守り始める。


そして。


その瞬間から。


熱狂は。


静かに終わりへ向かい始める。


布団へ入る。


目を閉じる。


全国地方再生ネットワーク。


成功した都市。


工場。


物流。


港。


商店街。


全部浮かぶ。


まだ崩れない。


まだ日本は強い。


だが。


その強さを支えていた。


“なんとなく大丈夫”。


その空気が。


少しずつ。


消え始めている。


未来を知る恒一だけが。


その小さな変化を見つめていた。


そして知っている。


本当に危険なのは。


金が無くなる時じゃない。


“信用が薄くなり始めた時”なのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ