ういうい、状況は芳しくないの、だ(分岐 続 人形争奪戦 其の二)
ういうい、円なの、だ。
今、仲間達との連絡はとれない。
一人身を隠している最中だ。
アナログの連絡手段は用いているものの、それを回収するにもリスクを伴う。
顔が割れてないメンバーが動いていてくれるならいいが。
それもどこまで可能か。
◇
雑居ビルの一角。
「まず一人だね。今のうちに知ってる事全部話したほうがいいよ?」
「うぴゃうぴゃ、喋っても殺す、喋らなくても殺す、今すぐ殺すっ!」
拘束された葵シスターズの一人。
それを見下ろす、マキナ、トリム。
「なら、さっさと殺して、何も喋らない」
マキナがロックした数人の一人。
「黒い子も白い子もそう言ってた、そして本当に最後まで何も喋らなかった」
マキナが薄気味悪い笑みをこぼす。
「抉っても切り取っても、何も言わない、でも叫ぶ、大声で、涙も流す、痛いから」
マキナがポケットからスマホを取り出す。
「ん~、どれどれ、君は時田聖ちゃんね、生年月日〇〇、年齢二一歳、A型 葵シスターズでの役割は主に物資調達、普段は〇〇大学に在籍、家族構成、両親、弟が二人。ドールコレクターとは他のメンバーとの兼ね合いで出会ったか」
「っ!?」
「全部、調べたよ。君みたいに普段は一般人の顔を持ってる子はいいねぇ。すぐにボロボロでてくる」
マキナの視線が横に動いた。
「あれ、な~んだ?」
部屋の片隅に、大きな麻袋が四つ。
「ちょっ、ちょっと・・・・・・まさか」
四つの袋はもぞもぞ動いていた。
「トリム、あれ出してこの子に見せてあげて」
「あぁ? めんどい、お前やれ、でも早く殺したいから出すか」
トリムが袋の一つに手をかける。
「陽太っ!」
顔を出したのは女のまだ幼い下の弟。
「お・・・・・・お姉ちゃん」
外傷こそ少ないもののかなり衰弱している。
「可愛いねぇ、可愛いねぇ、ねぇ?、お姉ちゃん」
マキナが微笑み、トリムが弟の髪を掴んだ。
「さて、トリム、いっぱい遊んであげよう」
「うぴゃうぴゃ、いいぞ、いいぞ、いっぱいだっ、嫌っていってもやめないっ」
トリムがまず耳を掴んだ。
そして。
「おおああああがああああああああああああああああああ」
引き千切られる。
「や、やめてぇええ、なんで、なんで、その子は関係ないでしょっ!」
女は慌てふためるが、もう何もかもが遅い。
この二人からは逃げられない。
「しばらくそこで見ててね。あぁ、何か喋りたかったら最後に聞くね」
マキナも女を背に麻袋に向かって行く。
「し、知ってる事ならなんでも、だから、ねぇっ! ちゃっとっ! お願いっ!」
もうマキナには聞こえない。
意識は麻袋の中へ。
女は声も涙も涸れ果てる。
◇
こんにちは、シストです。
まず、今の僕に何が足りなかったのか。
あの時、僕に何が出来たのかを考える。
これは僕の見た思考の一部。
始まりの場面。
改めてできる限り思い起こす。
□
僕達がついた時にはすでに。
「あらぁ、シストじゃない、もうほとんど終わったわぁ」
縛られていた切り裂きの瞳から血が流れている。
「さて、目的のものも取れたし、この子はもう用済みね」
母さんの手には切り裂きの眼球が
「うぴゃっぴゃ、なら殺そう、今すぐ、私がやる」
「ん? そいつはメインディッシュでしょ? なら私が楽しむよ」
気を失ってる切り裂きの周囲で母さんと伯母さん達が目を光らせる。
「冗談、この子は私が頂くのよぉ。前から目をつけていたんだから貴方達はもう消えなさ~い」
母さんが他を差し置いて切り裂きに手を伸ばす。
「ふざけるなよ、糞姉ぇ、なに独り占めしようとしてんだ、お前からか? それでもいいぞ、思えば昔からお前はいつもいつもいつも・・・・・・」
「まぁまぁ二人ともそうやってすぐ喧嘩するんだから。ここは公平に真ん中の私が貰うから喧嘩はやめようよ」
三人にとって目の前の切り裂きは極上の餌。
誰も分け合おうとはしない。
「母さん達、悪いけど、切り裂きにこれ以上手出しはさせない。ここは僕が預かるよ」
割り込む。この三人相手にそれが出来るのは身内でもお祖母様か僕くらいだろう。
「は? 何言ってるの、いくら息子でもそれは駄目よぉ」
「そうだ、お前は可愛い、だからいつでも殺してやる」
「シストくん、悪い事はいわない、ここは黙って言う事聞きな。今の君に私達を止める権利も力もない」
そりゃ素直に聞くわけないか。
一族の序列でいえば、僕もタシイも母さん達より下だし。
参ったな、強行するにも。
「おネニー様・・・・・・どうするの? 私、どうすれば・・・・・・」
タシイは後ろで手を拱いている。
「・・・・・・アタシは行くよ。例えシストくんが止めてもね」
目黒さんが敵意を出した。この三人を前によくその発言ができると感心する。
入り口の外には紅子や奏、他のみんなも待機してるが。
母さん達を相手にするには明らかに戦力が足りない。
それは切り裂きやシードを相手にして手負いになってるとはいえだ。
それに同族、しかも目上の者と争うなど禁忌以外の何ものでも無い。
「ここは僕の出番かな? ベアトリス~」
「はい、分かっております」
入り口から現れたのは人の皮で作られたマスクをつけたゾディアックファミリー、ニルヴァーナ。そして最高幹部のベアトリス。
「・・・・・・ニルヴァーナ」
「大丈夫、大丈夫、シストきゅんの事なら何でも知ってるから、ここは僕に任せて」
ニルヴァーナ達が僕達の前に出る。
「・・・・・・なんのつもりかしら~?」
母さんの目が僅かに開いた。
「切り裂きは元々僕達の標的、だからあんた達には渡さない」
「そういう事なので、この子は私が連れて行きます」
ニルヴァーナは僕の立場や状況を知って行動を起こしたのか。
「外ではもう混戦だよ、僕の部下達とあんた達の部隊がね」
ゾディファミがこっちについた事によって殺人鬼連合が動けなくても戦況に光が差した。
「貴方達、確実にここで死ぬわよぉ~」
母さんの手で包丁が回る。
相当お怒りだ。
それは他の二人も同様。
「殺せるなら順番はどうでもいい、まずお前を殺す」
「この子も上玉、私も異論なし」
三人がニルヴァーナに熱い視線を送る。
「やってみろ、糞ババアども」
ベアトリスが素早く切り裂きの拘束を解く。
そして、ニルヴァーナの気配が変わった。
■
再びシストです。
そう、ここで切り裂きを逃がす事はできた。
でも、それでは駄目だ。
葵シスターズを無残に殺された事によって円さんは人形化したのだ。
なら、そもそも円さんを助けなければ良かったのか。
「まぁ、それは最大の悪手かな」
それによりさらに新たな厄災を呼び込むような気がする。
多分、彼女には僕の知らない範囲で協力者がいる。
もしかしたら僕達、殺人鬼連合の中にも存在しているかもしれない。
「やはり力が足りないね」
そこで僕、そしてタシイはお祖母様の元を訪れることになる。
目の前にはお祖母様。
ここまではすんなり通されたけど。
相変わらず威圧感が凄まじい。
「で、今度はなんの用だい?」
鋭い視線が向けられる。
「まさか、ここにきてカリバ達を止めてくれなんて言わないね?」
とりあえず今の僕達の状況は把握済みか。
「わたしゃ、昔から子供の喧嘩に親は出て行かないって決めてるんだ。このくだらない一件には首をつっこまないよっ」
そうお祖母様は一度言った事は絶対曲げない。
「それでも可愛い孫の頼みだから一度だけは手を貸した。トリムを出してやっただけでも充分すぎるほどさ」
まぁ、そのせいで無茶苦茶になったんだけど。それは心に閉じ込めておく。
「それに、シスト、お前、いくら自分達の都合が悪くなったからってカリバ達に逆らったね? どんな理由にせよ、うちは序列が一番だ」
僕の指示でゾディファミを使ったのももうバレてるのか。
「はい、お祖母様、序列でいえば、お祖母様が一位、そしてそれに母さん、マキナ伯母さん、トリム伯母さんが続き、僕達は現在第五位です」
「そうだ、序列が上の者には例え兄弟でも逆らえない。あのトリムでさえ最後にはそれに従うさ」
「ええ、勿論、それは充分心に留めております。なので、僕達も母さん達には抵抗しておりません。あれは僕の考えを歪曲され先走ったニルヴァーナがかってにしたこと」
「・・・・・・あくまでシスト達は関係ないと?」
こんな戯れ言普通は通用しないけど、これ以上関わりたくないお祖母様には通るかもね。
でも、そんな言い訳をしに来たわけではない。
「いえ、関係あります。僕には母さん達に抵抗する意志がある」
隣のタシイの目が見開いた。
ここまで何も話してないからね。
「ちょっと、おネニー様、いくら何でもっ」
「いいんだ、このままでは僕達は全員死ぬ。なんとかしなきゃならない。それが一族のためでもある」
タシイにとっては僕が何を言ってるか理解不明だろう。
「ここは、僕を信じてくれ」
タシイの目を真っ直ぐ見据える。
「・・・・・・分かったよ。おネニー様を信じる」
ここで改めてお祖母様と向き合って。
「それでお祖母様、お願いがあります」
お祖母様の雰囲気が先ほどとはまるで違う。
僕達が孫じゃなかったらとっくに小間切れにされてる。
それほど怒りが満ちている。
「僕を今すぐ当主にして頂きたい」
◇
ういうい、円、だ。
孤軍奮闘。
やはり私もロックされているのか。
先ほどから黒い奴らに追われている。
あれはゾディファミと戦ってた連中なの、だ。
一人、一人がかなりの手練れ。
ここまでなんとか逃れているが。
他のメンバーは大丈夫、か。
仲間との合流は今のままでは不可能。
じわじわと追い詰めれている。
このままでは捕まるのも時間の問題、か。
◇
血だらけの手。
血だらけの道具。
血だまり。
「結局、何も喋らなかったね」
「うぴゃうぴゃ、もうあの時点では知ってても喋らない、うぴゃうぴゃ」
マキナ達の仕事、もとい遊びが終わる。
「いいや、次いこ、次」
「今度は、誰だ、はやく、はやく、殺す」
「実は、もうさっきから情報は入ってきてたんだよね」
「あ? 誰だ、どいつだ? 早く言え」
「んと、なんと本命の切り裂き、後は、人形を持ってると思われる三人」
どっちも最重要人物。
だが、二人にとっては関係ない。
「どっちだ、どっちにいく?」
「ん~、この子たち身内いなそうなんだよねぇ。それじゃさっきみたいなショーはできないしー」
「あぁ、さっきの良かった、なんで自分以上にあんなに苦しむ顔を見せるのか、なんにせよいい顔だ、うぴゃうぴゃ」
「そうだね、そこはよく分からないけど・・・・・・あぁ、待って、切り裂きには身内じゃないけど、妹分がいるみたい」
「おお、いい、そいつにしよ、まずはそいつを捕まえてっ」
「そうしようか。メインディッシュは最後まで取って置いて・・・・・・」
マキナがスマホを取り出す。
「名は白雪ちゃん、へぇ、この子最年少レベルブレイカーじゃん。それはそうと、いっちょ前に学校に通ってるよ。なになに聖フィリップスラヴクラフト女学院中等部一年。今の時間だと・・・・・・丁度終わった位かな」
「うぴゃうぴゃ、なら行こう、今すぐっ!」
「はいはい、分かったって。さっさと捕まえてー、切り裂きの前で・・・・・・」
二人は今日一番の笑顔を見せて。
「少しずつ」
「グチャグチャに」
「ちょっとずつ」
「いっぱい叫ばして」
「いっぱい涙を流させて」
「お互い、近くで」
「交互に」
「あぁ楽しみ。どっちもどんな顔見せてくれるのか」
そう呟いた。




