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うん、葵シスターズ、手強いですね(人形争奪戦 其の三)

 今回話は進みません。

こんにちは、シストです。


 人形の国内到着時即奪還作戦は失敗しました。


 負け惜しみではありませんが、まぁこれは仕方ありません。


 相手の詳細も分からぬまま、無数にあるルートから見つけるのも困難。

 

それでも葵シスターズと思われる何人かは確認できました。


 すでに僕も知ってる天宮種、そして真っ白い女と真っ黒の女、後はとても大柄な女、ベリーショートの細身の女。

表に出てきたこの人達が所謂実行部隊でしょう。

 

 今は裏方までは知りようもないのでこれらの顔を見られただけで上出来。


 当初、紅子と奏の所に瑞雀さんを送ろうとしたのですが、先に接触していたシルバーメダル達が思いの外苦戦したので急遽そちらへ。


 紅子達も途中尾行に気付かれて逆に追われる事に。


二組は命辛々なんとか逃走できました。


「予想以上にあちらの戦力が高い」


 再びメンバーを集めアジトにて体勢を立て直し中です。


「あのでかい女やばいっすっ! ステゴロなのに私のナイフを簡単に折りやがったですっ!」


「ベリーショートの女もです。とにかくなにもかも早かった、です」


 今更だけど葵シスターズ、やはり逸材ばかりだね。


 これだけの人材を秘密裏に持ってたドールコレクターが凄いって事か。


 ただそこに光明も見えるかもしれない。


 それだけの人物達が素直に命令に従っていたのは頭がドールコレクターだったからだ。

 

彼女達が認めていたのはドールコレクターであって円さんではない。


 いくら個々の能力が高いとしても纏まってないのなら。


 簡単に崩せるだろう。



       ◇


シストの読みは当たっていた。


 しかし、それは数週間前に遡る。


 それは円達が人形回収に出国する直前。


「しかし、種さんよ。確かにあの人形はアネさんのモノだ。だから奪還するって話は分かる」


「ええ、でもその後が気になりますね。なんで私達がその人の下に付かなければならないのでしょう?」


 種の号令の元、葵シスターズの面々が勢揃いしていた。


「まだ種さんってなら分かる。あんたはこの中では最古参だ」


「だけど、それも少しおかしい。お姉様は私達葵シスターズに序列は作ってない。全員平等に接してくれていたはず」


 他の者も大きく頷く。


「しかも、その人は葵シスターズですらない。ただ姉様の近くに置いて貰っていただけだろっ」


 ここに集うは、かつてここを去り散り散りになっていたメンバーもいる。


 その者達はどうしても納得がいかない。


 彼女達の前にいる一人の女。


 シスターズでもないのに、葵の一番近くにいて、明らかに贔屓されていた。


 様々な感情から彼女達は拒絶する。


「そうはいうけど、姉様自身が円ちゃんを自分の後継者と据えた。それを抗弁するのはシスターズとしてはどうなのかな?」


 種がそういうも多くの者がおいそれと受け入れる訳もなく。


 次々と反論が出てくる。


「はぁ、なら仕方が無い。円ちゃん、いいかな?」


 ここまで一言も話さなかった円が初めて口を開いた。


「あぁ、なら勝負するの、だ」


 円の言葉にメンバー達は怪訝な顔を見せた。


「鬼ごっこ、だ」


 

       ◇


 ういうい、円なの、だ。


 私と葵シスターズで勝負する事になったのだ。


「ルールは簡単、シスターズ側は制限時間内に円ちゃんを拘束したら勝ち、円ちゃんは逃げ切れれば勝ち」


 範囲はこの街全体。


 シスターズ側は私に反発する6名。


「その人を完全に拘束。てことは抵抗されたら?」


 大柄な女で190センチ越えの高身長。そして強靱な肉体。


 実行部隊。通称、鉄乙女の螺苛(ライラ)。


「勝負はつねに本気。こちらとして手加減はできませんよ」


 絞りに絞ったボディ。手足がとても長く少し前屈みのベリーショート。


 実行部隊。通称、蜂針の刺苛(シイラ)。


 この二人が特に私に敵意を向けている。


 これがいい機会と私をボコボコにしたい感じか。


「いいんですか~、私の目からは逃れませんよ~」


 葵シスターズ1小柄な少女。


 目がとても悪く分厚い眼鏡をかけている。


 つねに何か口にしていて、当人いわく糖分が切れたら死ぬらしい。


 かつてレンレンと情報戦で争って一歩も退かなかった裏方担当。


通称、空目(スカイアイ)の雲美。


 他にもいるがこの勝負で特に厄介なのはこの三人。


「制限時間は2時間。先に円ちゃんがスタートしてその一〇分後に他のメンバーがスタート」


まずはどれだけ距離を稼げるか、だ。


「それでは始めっ!」


 種の合図の元、私は一気に駆けた。



       ◇


 私は雲美。


 小柄だけどこう見えてここにいる人達より歳は上。


 何を隠そう葵ちゃんとは同級生なの。


 葵ちゃんとの学園生活はとてもとっても短かったけど。


 私にとっては永遠にも思えた。


 顔も醜く、運動神経も良くない。


 そんな私の学園生活は最悪だった。


 何をしても馬鹿にされ。


 失笑され、虐めにも頻繁にあった。


 そんな私を葵ちゃんだけは分け隔て無く接してくれた。


「生まれつき恵まれてない部分があると思うのなら、それを覆すだけの何かを持てばいいよぉ」


 その言葉で、私は必死に勉強した。


 何か一つでも他者より優れているものがあればそれは武器になる。


 結局、一度も葵ちゃんには勝てなかったけど。


 それでも他は圧倒できた。


 それが自信にも繋がり。


 いつしか私は前を向いて歩いていたのだ。


「雲ちゃんは凄いねぇ。これは私にはできないよぉ」


 葵ちゃんでも万能ではない。


 なにか一つでも上回れば純粋に。


 彼女が認めてくれる、彼女が褒めてくれる。


 だから、私はもっと頑張れた。


 音信不通になっていた葵ちゃんから再び連絡が来たのはその数年後だった。


「円ちゃん、発見。五番ビル屋上」


 葵ちゃんが求め認めてくれた私は優秀。


 この私からは逃げられない。


 あの深緑深層ですら私には勝てない。


 さぁ、丸見えだよ。


 早く逃げないと。


 すぐに終わる。



       ◇


 あっしは螺苛。


 このでかい体、前までコンプレックスだったが。


 今では誇り。


 アネさんの命令をこなせたのもこの体あってのもの。


「私は強くないから、螺苛ちゃんが私の手足になってね」


 この一言でアネさんの体の一部になれた気がした。


 でかい女と馬鹿にする奴もいたが。


 その全てを叩き潰してきた。


 あの切り裂き円も正直気に入らない。


 ただの狂人ってだけでアネさんの傍にいられただけ。

 

なにが後継者だ。


 あっしは認めない。


 葵シスターズの面々はなにかに特化している場合が多い。


 それは自分には無い物ばかりだから他のメンバーは尊重するが。


 あいつは駄目だ。


 数年前に見た時はただの馬鹿にしか見えない。


 なんで、アネさんはあいつを傍に置いたのか。


「円ちゃん、発見。5番ビル屋上」


 さっそく雲美さんから通信が入る。


 雲美さんの情報収集能力は完璧。


 切り裂き円の捕捉など朝飯前。


 その先は刺苛と挟み込むように追い詰めて即終了。


 もし抵抗するようなら・・・・・・。


 ちょっと遊んでやろうと思う。



     ◇



 私は、刺苛です。


 今でこそこう落ち着いた雰囲気ですが。


 昔は少々荒れてました。


 螺苛とは別グループでかなり争っていたんですけどね。


 あの人が介入した途端、二つのグループは私達を残して壊滅しました。


 今になってもあの人が手を下した理由は分かりません。


 きっとなにか些細な事に振れたのでしょう。


 お姉様は恐ろしい。


 敵意を向ければそれは全て自分に返ってくる。


「刺苛ちゃんは凄いねぇ。これからも私を手伝ってくれると嬉しいなぁ」


 そんな相手に認められるのはとても嬉しい。


 なにかに反抗し、全てを拒絶していた自分が。


 誰かのために強くなりたいと願った。


「円ちゃん、発見。五番ビル屋上」


 雲美さんから通信。


 彼女に一度ロックされたらもう逃げられない。


 この先は螺苛と連携をとって追い詰めるだけ。


 もし抵抗しようものなら。


 少々手荒な真似をする事になりそう。



    ◇


 ういうい、円なの、だ。


 今、必死に街を縦横無尽に逃げておる。


 雲美とかいう奴にはもう丸見えだろう。


 レンレンと張り合うレベル、だ。


 という事は、すぐ傍まで実行部隊の二人は来ているはず。


 ビルの屋上を駆ける。


 すでに何人かの影は確認、それらは振り切ってはいるが。


 途中から左右に人影。


 私にぴったり付いてくる。


 これは螺苛と刺苛か。


 刺苛はともかく、螺苛はあの巨体でもとても素早い。


 ここからが本番て、ことか。


 私はそう思いながら、ビルから飛び降りる。



      ◇


 雲美です。


「まったく何してるのっ!?」


 相手は丸見え。


 つねに位置情報は正確に伝えている。


 なのに、なのに。


 なぜ捕まえられない。


「ふふ、例え位置がわかっても円ちゃんは簡単には捕まえられないよ」


 隣で薄ら笑いを浮かべそういう天宮種。


 こいつはこいつでなぜあの女の肩を持つのか。


 お前ほど葵ちゃんに心酔していたシスターズもいないだろうに。


「今、螺苛と刺苛が追いついた。もう時間の問題だ」


 他のメンバーは引き離されたが、この二人なら。


「さぁ、どうかな~?」


 また薄ら笑い。


 いちいち苛つく。


「・・・・・・しかし、こいつ・・・・・・」


 どんな動きをしてる。


 マップ上では平面に見えるが。


 立体に想像する限りそうとうな高低差もものともせずに移動している。


 それも全くスピードが落ちてない。



      ◇


 螺苛だ。


 とっくに切り裂き円は目に捕らえている。


 だけど、追いつけない。


 確実な受け身で高い場所から飛び降りてる。


 障害物をうまく利用して、くるくる回転しながら跳ねる。


 私より早い刺苛が少し先行しているがこちらも近づけていない。


 しかも奴の体力は無尽蔵か。


 どんなスタミナをしている。


   

    ◇


 刺苛です。


 なんて事でしょう。


 私と螺苛でうまく誘導するように仕向けているのに。


 全然追いつけない。


 予想される行き先を潰すように動いているのに。


 それら全部が逆手にとられる。


「まるでパンクールっ」


 凄まじい身のこなし。


 狭い足場もものともせず、空中で何回転もしながら逃げている。


 あれは身のこなしだけではない。


 少しの突起でもそれを利用してひゅんひゅん上へと登っていく筋力。


 そして私達二人に追われても少しも失われない体力。


 この時点で私の彼女に対する認識が改め始めていた。



     ◇


 ひょいひょい、円なの、だ。


 速度は落とさず、街中を飛び跳ねる。


 後ろの二人はぴったりついてきている。


 たまに引き離しても、雲美の目が見ているかぎりすぐ先回りされる。


 残り時間は後10分を切った。


 このまま逃げ切るのは可能だが。


 私はしばらく進むと広いビルの屋上へと足を付けた。


 そこで動きを止める。


 すこし遅れて二人が追いついた。


「はぁ、はぁ、どうした」


「はぁ、まだ時間は残ってますよ」


 私は振り返り二人を見据える。


「このまま逃げ切って私が勝ったとしても、お前達は私を認めない、の、だ」


 相手の分野で勝ってこそ意味がある。


「二人纏めてと自惚れたことは言わないの、だ。順番にかかってこい」


 ナイフは取り出さず素手で構える。 


「連戦てだけで相当自惚れてるがなっ。まぁいい私で終わりだっ!」


 巨体の螺苛が言葉と共に飛び込む。


 こいつに捕まればまず終わる。


 力が違い過ぎるから振り払えない。


 ここまで体重差があると本来勝負にすらならない。


 それつまり相手もそう思っているという事。

 

 不用意に突っこんでくる螺苛に。


 さっき拾って握っていた砂を顔に投げつけた。


「うがっ!」


 視界を失い怯んだ螺苛に今度は私から飛び込む。


 懐に入り、その腹部に膝をめり込ませる。


 今度は前屈みになった顔面に膝蹴り。


「がっ!」


 両腕を掴む。


 そしてまた顔面に膝蹴り。


 沈む体。


 だが、腕は放さない。

 

 また顔面に膝蹴り。


 まだまだ腕は放さない。


 またまた顔面に膝蹴り。  


 完全に倒れてもまだ手は離さない。


 両腕を握ってしばらく顔面に膝を打ち付けていた。


 完全に動かなくなって漸く腕を放した。


「さ、次はお前、だ」


 今度は刺苛。


 こっちは身長こそ高いが体重差はそこまでない。


 しかしもう不意打ちは通用しない。


 正々堂々と勝負して勝つしかない。


「お前はなにかやってる、な?」


 何かしらの格闘技の心得はあるはず。


「それは自分の目で確かめてください」


 刺苛が動く。


 構えからして打撃か。


 いや。


 鋭いハイキックが迫る。

 

 肘、膝、容赦なく使ってくる。


 長い手足がよく撓る。


 いいだろう、なの、だ。


 こっからは打ち合いなの、だ。



   ◇


 空が青い。


 円、螺苛、刺苛が全員倒れている。


 皆、手足を伸ばし空を見上げている。


 顔は血だらけで、だが、その顔はどこか清々しく。


「お、お前ら、すごく、強いの、だ・・・・・・」


「い、いや、あんたも、中々や、るじゃ、ないの」


「正直、ここまで、やるとは、思いません、でした、よ」


刺苛との対戦中。


 途中、目を覚ました螺苛がまた襲いかかってきた。


 水を差された刺苛もそれを止めようとするが目がよく見えてない螺苛はそれをも攻撃対象とした。


 そのまま三者入り乱れるような戦いになり。


 最後はこうして全員倒れた。


 卑怯な手、本来格闘技では禁じ手とされるような行為も色々使ったが。


 誰も意を返さない。


 それは卑怯だろうがなんだろうが相手の裏をかくことが葵の教えだったから。


 それでも最低限節度は守って戦った。


 文字通り拳で語り合ったのだった。



      ◇


 雲美です。


 もう訳が分かりません。


 三人血だらけで笑っています。


 もう制限時間はとっくに過ぎていて。


「円ちゃんの勝ちだねー」


 癪だけど天宮種のいう通り。


 私にはどんなに相手の姿が見えていてもそれ以上なにもできない。


「一つだけ聞きたい、雨宮種、なぜ、貴方は切り裂き円を認めた?」


 私の質問に雨宮種は薄ら笑いではない綺麗な微笑みを見せた。


 本当なら雨宮種がこの中で一番切り裂きの存在を否定するはず。


 なのに、何故。


「・・・・・・信じられないとは思うけど。私には見えたんだぁ」


 その顔はどこか懐かしそうな、そして・・・・・・。


「円ちゃんの背中に、姉様の姿がうっすらと、ね」


 重なったというのか。


 あの切り裂き円に葵ちゃんの影が。    


「また見れるかもしれないじゃない」


 その顔はどこか懐かしそうで、そして。


 悲しそうだった。


「・・・・・・私もまた会えるかな」


 もしそれが本当なら私にもいつか見られるかもしれない。


「会いたいよ・・・・・・。葵ちゃん」

なたさかあ様からとても可愛い葵と円を書いて頂きました!


https://www.pixiv.net/artworks/76993144


滅茶苦茶可愛いです。

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