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うん、久しぶりの訪問です。(人形争奪戦 其の四)

 今回も話進みません。

 こんにちは、シストです。


 今、僕はタシイ、目黒さんの三人である場所に来ております。


 丘の上の洋館。


 裏は断崖絶壁。


 下の門から館まではかなりの距離があります。


迎えの車でここに来たものの入れるのは上の門前まで。


「目黒ちゃん、申し訳ないけどここからは僕達だけしか入れない」


 使用人が後部座席を空けてくれた。


 降りたのは僕とタシイだけ。


「うん、じゃあ、戻ってくるまで待ってるよ」


「悪いね、目黒ちゃん。離れの応接室で寛いでてよ」


「さて、では行きますか」


 正直、僕は緊張していた。


 隣のタシイはもっとだろう。


 そう、ここは母さんの実家。


 つまり、うちの本家で総本山だ。



 ここからは正当な血筋しか入れない。


 扉を開けて中へ。


 年季の入った赤い絨毯は歩く度心地よく沈む。


 最奥の部屋に行き着き、軽くノックする。


「お入り」


 しゃがれた声が聞こえ。


「失礼します」


 僕達はゆっくり中へと入った。


 その存在感に息を飲む。


「おおぉぉ、よく来たね~、シストにタシイっ! 可愛い私の孫達っ!」 


 椅子に座っていた女性が立ち上がり僕達の元へ駆け寄る。


「ご、ご無沙汰しておりました、お祖母様」


 タシイが熱い抱擁を受ける。


「うんうん、お前達、中々顔を見せないからな」


「え、えぇ、色々、私達も日々、忙しく・・・・・・」


 あのタシイがタジタジだ。


 お祖母様は純粋に僕達を愛でている。


 それでも恐怖が勝る。


 いくら危害を加えないといえ毒蛇に全身を巻き付けられていたらこうもなるだろう。


「二人ともますます美形になって。やっぱり私の孫だね~、二人とも若い頃の私にそっくりだ」


 今は随分ふくよかになったが昔は確かに美しかったみたい。


「それで、ここには顔を見せにきただけじゃないだろう? お小遣いでも欲しいのかい?」


 お祖母様の目が変わった。


「ええ、お金ではありませんが。少々、おねだりに来ました」


 あちらの戦力が想像を上回った。


 すでにマキナ叔母様には協力を仰いだが、それでもまだ完璧ではない。


「・・・・・・先日馬鹿娘のカリバも頼みに来たけど追い返した。ガキの遊びに付き合う気はないとね」


 そう、母さん直々にお祖母様の元に来たけど門前払い。


 お祖母様は娘達にはとても厳しいのだ。


 でも、僕達、孫には。


「いいだろう。トリムを使いな。確か、某国で捕まってるはず」


その名を聞いた僕とタシイの顔色が変わった。


 トリム伯母さん。三姉妹の中の一番下。


外国で派手に暴れて懲役864年で服役中。


 お祖母様はそんな娘を助ける訳でもなくこれまで放置していた。

でも気持ちはわかるよ。なんせトリム伯母さんは……。


「すぐに手配してあげるから迎えにいきな」


「ありがとうございます」


正直人選の変更を要求したい所だけど、お祖母様が言ったことに口出しはできない。


 こうして数日後に僕達は不安と少しの後悔を抱きながらトリム伯母様を迎えに行くことになる。


 その条件として僕達は数日間泊まり込みでお祖母様の話相手をさせられたのだった。


 目黒ちゃんにはその間ゆっくりしてもらいました。



      ◇



 そこはもう檻ですらない。


 立つスペースしかないほど狭い鉄籠。


「囚人56789番、出ろっ!」


 目隠しをされていた女に声をかけられた。


 そこには音もなく、光もなく、なにもかも遮断された世界。


 猿ぐつわからは声も出すことは出来ず。


 僅かに首を傾けた。


 人の声を聞くのは何年ぶりか。


 もはや時間の感覚すらない。


 体は汚れ痩せ細り、髪は伸ばしっぱなしで顔すら覆う。


 その後、女の拘束は解かれていく。


 五感が解放されていく。


 なぜ自分が。


「・・・・・・ババアが、な、にか、した、か」


声はうまく出ないが。

 それ以外は考えられない。


 となると厄介な事を押しつけられるのかと。


 あれよあれよと外に出された。


 女はいきなり自由を得た。


 服もそのまま。


 放つ異臭が外の空気と混じる。


 立ち尽くす。


 考える


 それからどうすればいい。


(ババアが関わったならそのうち迎えに来るだろう)


 やることはいっぱいある。


 髪をなんとかしたい。


 体を洗いたい。


 服も新調しなければ。


 だが女の最優先は別にあった。


 少し歩いて。


 一番近くの人間。


 ゆっくり近づいて行く。


 通りすがりの女性。


 ボロボロの女に気づき奇異の目を向けた。


 目が合った瞬間、相手は動きを止めた。


 女の指が首に食い込む。


「あっ、あがあっ」


 女性は必死にその腕を振り払おうとするがびくともしない。


 骨と皮のような腕に力がこもる。


「静かに」


 女はさっき拾った石を握り女性の頭に向かって激しく殴りつけた。


「シー、シー、シー」


 何度も殴る。


 きつく首を圧迫する。


 死は同時に襲いかかる。


 刑務所を出てものの数分。


 周囲にはまばらとはいえ人がいる。


 当然騒ぎにもなった。


 だが女の手は止まらない。


 血だらけになった女性をようやく離した時には人集りが出来ていた。


 女のあまりの奇行に誰も助けようとせずただ見ているだけ。


 無慈悲とも思える行為だが。


 それも仕方が無い。


 皆、感づいていたのだ。


 ここで下手に介入すれば。


 次は自分がああなると。


「ん」


 そんな中、一台の車が人垣を掻き分け侵入してきた。


 女の前で止まるとドアが開く。


「お迎えにあがりました」


「あぁ、やっぱり、ババア関連」


 溜息一つ。肩を落とし血だらけの女は大人しく車に乗り込んだ。


 

     ◇


 ういうい、円なの、だ。   


 キラキラが動いたの。


「上から見られない場所が何カ所もある」


 キラキラの行動範囲には雲美のスカイアイでも捕捉できない場所も多い。


「逆にそこが拠点、分かりやすい。しかし、それはあちらも承知の上」


「ならば囮、もしくは罠、か」


 迂闊にこちらから攻め込めない。


「とはいえ後手に回るのは得策ではないよ」


 隣の種がそう口にする。


 私も同感なの、だ。


「そして、もう一つ。片目の確保も同時にやらなきゃ」


 片目の確保。


 一つは姉御。


これに関してはもう目処はたっておる。


 そしてもう一つは。


 ちゃんリョナさん。 


これが問題なの、だ。


「実は簡単だと思って私取りに行ったんだよー」


「なっ、勝手に、かっ!?」


 私に報告もなく種は勝手にちゃんリョナさんの元へ。


「・・・・・・でも、駄目だったよ。周囲にとても強い気配がいっぱい漂ってた。ありゃ簡単にはいかないね」


「そ、そうか、なの、だ」


 正直ほっとしてしまったの、だ。


「・・・・・・円ちゃん、もしかして今安堵した?」


「そ、そんな事はないの、だ」


「・・・・・・ならいいんだけど。あれは何がなんでも手に入れなきゃだよ。じゃなきゃ・・・・・・」


 種のふざけた顔が真顔に変わる。


「姉様が悲しむ。揃わなきゃ意味がない。できなかったら私達は役立たず。全員死んでお詫びしなきゃならない。ううん、出来ないなんてそんな事は絶対駄目。それは姉様への裏切り、決して許されない行為」


「そ、そう、なの、だ」


 種は急にガチ種になるから油断ならないの、だ。


 しかし、その種が手を出せないほど強い気配が多数。


 まぁ、心当たりがないわけでもないの、だ。      



    ◇


 女の手がさらに血で染まる。


 運転席にはぐったりと首を垂れる男。


「あ~あ、どうしよう」


 つい手にかけてしまった。


 無防備で女の前にいたばかりに。


 発進して数分の出来事。


「また迎え来るかな」


 すでに息絶えた男の顔に目隠しするような形で後ろから手を回す。


 左右から中指で男の眼球を押し込む。


「早く、お風呂、入りたい」


 めり込んだ指。


 ブシュっと何かが弾けた。

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