ういうい、嵐が来るの、だ。(対、リスト編)
洋室には四人の人影。
椅子に座る初老の男。
その横に付き従えるように立つ二人。
男の前、広い机には本が大量に積み上げられており。
背面の壁一面には本棚、そこにもびっしりと本が詰まっていた。
「それで、ご要望の品はなんでございましょう?」
初老の男が少し離れた対面に座る男に声をかける。
「はい、少女を2人、誰でも・・・・・・いや、欲をいえば要望は細かくございます。ですが本当でしょうか、どんな人間でも注文すれば手に入るというのは」
身なりと恰幅がとてもいい男が問いかける。
「勿論でございます。代価さえ支払って下されば男、女、年齢、人種、家柄、身長、体重、果てや政治家、スター、モデル、生きてさえいえば何でもご要望にお応え致します」
「おぉ」
「そうですね、ダリアン候は当店のご利用は初めてでございました。カテゴリーは人間。その場合簡単に説明させていただくと、代価はコイン。コイン一枚の代金はまた別でございます。一枚でもとても破格ですが、枚数で注文内容が変わります。一枚で指名無し、生死問わず、二枚で指名あり、生死は選べます。三枚で誰でもどんな状態でも構いません、最高で三枚ですが・・・・・・品物によってさらに、なんて事もあるかもしれません」
「なるほど」
「ダリアン候のご要望は二人の少女、ですので最低でも二枚。もし、そこにどちらにも生きたままで、年齢、人種、髪の色などの追加があれば四枚。そこからは調達難度で枚数が増えてしまいます」
「ふむ、私が欲しいのは、まだ花の咲いてない乙女、できれば双子がいいですね。家柄は高い方がいい。肌は白く、目は青く、髪は金、健康状態は良好で元気であればあるほどいい。その方が都合がいいのです」
「かしこまりました。ではすぐ照合してみましょう」
そう言うと、初老の男は机の引きだしから端末を取り出した。
「昔はですね、それらの本からいちいち探してましたが、今はこれです。とても楽になりました」
ページを一枚捲るのも一苦労しそうな大型本には目もくれず、初老の男は端末を操作する。
「・・・・・・見つかりました。ブルーブラッド、歳は11歳、双子の姉妹。肌は雪のように白く、髪は金で、目は青い。如何でしょう、写真をご覧下さい」
「おお、おぅ、素晴らしい。これは、これはいい」
「お気に召しましたか。こちらはそうですね、本来ならばコインは六枚。しかしながら私とダリアン候、これからの友情に、ここは四枚で」
「よろしいのですか?」
「勿論でございます。また何かありましたら当店をご贔屓に。商品はすぐに用意させましょう」
初老の男は満面の笑みでそう答える。
いつもと同じ。
お客は神なのだ。
神は去り。
部屋に男達だけが残った。
「新規の客は好色家の変態か。紹介者はグレイスター、スラニス、納得だな」
「ですが、金払いはとても良さそうです、サーリズ閣下」
「商品は今週中には届くでしょう。一体、候がどんな遊びをする事か」
横に立つ男がそう口にするが、初老の男には興味がない。
「どんな扱いをするか、そんな事はどうでもいい。腹を割こうが、手足を千切ろうが、買った者の自由だろう」
初老の男が椅子から立ち上がる。
とても長身。
歳こそとってはいるが、背筋はピンと張り、肉体には衰えが見られない。
後ろに流した白い髪、短い整えられた白い髭、黒いスーツは元から体の一部のようによく似合う。
「そういえば、そのグレイスター候ですが、新たに六人ほど入り用と・・・・・・」
「そうか、なら早急に用意してやれ。またトールム川に首のない死体が浮かぶな、いや腹の中身か」
「あぁ、それと、神の爪先からも例の商品をと・・・・・・」
「神の爪先・・・・・・あの趣味のいいゲームの主催者達か。なんの景品か知らんがあそこはいいお得意様だ、要望には精一杯応えてやれ」
「はい、今回の優勝者はとても面倒な物を。そもそも人なのか物なのか・・・・・・」
◆
トームズ川にはよく死体が浮かぶ。
通称、投げ捨て場。
今日も死体が流れる。
小さな二つの死体。
髪は金。
手足の指は全て無く。
体は痣だらけ。
歯もなく。
耳もなく。
目は片方だけ、サファイヤのような瞳。
二つの死体はよく似ていた。
◆
生死を問わず。
それはとても簡単。
背後から近づき。
髪を掴んで。
首をかっ切る。
調達人、喉裂きチョリスは考える。
今日の仕事は楽だった。
商品の周りには誰もいない。
必要とあれば近くの者は全員殺す。
今日の仕事は退屈だった。
商品の周りには誰もいない。
必要なければ喉以外も切れる。
口からゴボゴボと溢れる血を見て、相手の目を見て。
◆
客は様々。
単純に子が欲しい者。
中身が必要な者。
そして。
「も、もぅ、殺し、て、くだ・・・・・・さい」
蚊の鳴く声が室内の床に吸い込まれていく。
「なに? 聞こえないぞ。もっと大きな声でぇえっ!」
頬をつねり、口に刃物を差し込む。
「きゃあぁあああああああああああああああ」
切り開く。口が裂ける。
「おー、やればできる。それとも口を大きくしたからか?」
ただ笑いたいだけの者。
◆
基本はそうだが、調達するのは人だけではない。
客が望めば対価しだいで何でも手に入れる。
絵画、宝石、武器、土地、何でもだ。
組織の名は通称リスト。
頭目サーリスは神を信じる。
選択は自分で選んではいない。
いつも問いかける。
一つでも間違えれば今自分は生きていない。
人は死んだら終わり。生き返れない、やり直せない。
そんな都合のいい話はないのだから、一度しかない選択肢はとても重要。
例えその時正解でも。
後からそれが仇となる場合もある。
蝶の羽ばたきが、未来に影響する。
だから神に委ねる。
間違えないよう。
そして今、自分は生きている。
だから神を信じ続ける。
「ご所望は人形とは。依頼人の優勝者はお人形遊びでもするつもりか?」
「いえ閣下、今回のはただの人形ではございません」
「ええ、人の形を模した物。人の体で作った人形。写真をご覧下さい、これを見れば閣下もご納得するかと」
写真を見たサーリスは目を見開く。
「ほう・・・・・・」
自然に声が漏れる。
まずはその美しさに息を飲み。
そしてこれを作った者がいることに感嘆の声を上げたのだ。
こんな感動は久しぶりだった。
それはサーリスが10の時、自分を犯そうとした養父の腹の中身を見た時以来。
「見事だ。私には分かるぞ。この人形、全てが計算されている。歯の一つを見ても歪みがない。瞳だけがないが、これを作った者は神か悪魔か」
「話ではたった一人でこれをと・・・・・・」
写真でこれ、直に見たらこの瞳にどう映り、脳はどう感じるのか。
見た者には呪いがかかる。
正常な者は狂い、狂っている者はさらに狂う。
サーリスも例外では無かった。
◇
ういうい、円なの、だ。
「くちゅんっ!」
「なになに、風邪かな、お姉ちゃん」
白頭巾とレンレンの元に返る途中だったのだ。
「いや、そんな訳ないの、だ」
「そうだね、お姉ちゃん、頭いいけど馬鹿だし」
「そうなの、だ。私は頭はいいが・・・・・・」
「・・・・・・お姉ちゃん?」
いつもなら白頭巾の軽口に付き合うのだが。
「なんだか嫌な風が吹いてるの、だ」
悪寒がする。
ノイズが走り。
血で染まった両手が見える。
これは誰の血か。
どこかの誰かか。
それとも。
いつものようにその後の展開まるで考えてません。




