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なんか、突発的路上ライブみたい。

 例によって、少し名称変えてます。

こんにちは、リョナ子です。


 この日は仕事休みで。


 本屋に行った帰りだったの。


「うがああああああああああああああああああああああ」


 通り慣れた道すがら。


 刃渡り数十センチ、それも両手に二本。


 リュックを背負った男性がそれを振り回し暴れていた。


「あわわわわわわ」


 いつもの日常。


 こうして壊れる。


 がらりと変わる景色は。 


 認識をどこかに置いてけぼりに疾走する。


「うがあがあ、殺、コロコロ、頃殺転、ころあああああああああああああ」


「あわわわわわ」


 広い二車線の車道を挟んだ歩道。


 我武者羅に刃物を振り回す男。


 休日、道にはそれなりに人がいた。


 僕はその内の一人で。

 

 何かしなければ。


 それすら考えられたのか。


 足はただ動かない。


 僕は拷問士で。


 それも特級。


 普段ならどんな凶悪な犯罪者相手でも気後れする事はない。


 でも、あれは駄目だ。


 あれは知性のないただの獣。


 確保しても無罪になる類い。


「きゃあああああ」「ああああああ」「うわああああああああ」


 周囲は騒然とする。


 一目散に逃げられた者はまだまし。


 僕のように腰が抜けて立ち尽くす者も、いる。


れ、蓮華ちゃんに連絡・・・・・・。


 いや、もうあの子の事だ、すでにこの状況は知ってるはず。


 なら、円、白頭巾ちゃんがここに向かってる可能性も。


 でも、間に合うとも思えない。


「うがあああああああああ、ごごおごっっ」


 焦点の合わぬ瞳がグルグル回る。


 やばい、獲物を見定めてる。


 あれが止まった瞬間。


「ああうああ、きゃあはあああああああああ」


 左、子供連れの女性に。


「いやあああああああああああああ」


 定めた。


 男が動く。


「あぁっ」


 いっそ、僕に向かってくれればいいものを。


 止める力もない。


 戦う術もない。


 僕は非力すぎる。


 でも。


 人が襲われそうな場面を見て。


 スイッチが自動で入る。


「やめろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 一生でこれほど大きな声を出した事があったろうか。


 猿もホイッスルを鳴らすと動きを止める。


 こいつはどうだ。 


同時に買ったばかりの本を投げつける。


 重いハードカバーの本は。


 男の太股にぶつかった。


「ああああ????」


 男が振り向く。


 僕を見て、顔を上げた。


 声は出さず、大きく手を振って、子連れの女性に合図を送る。


 早く、立ってと。


 早く、その場からと。


「ああああああああぁ、殺、殺、殺炉炉」


 目が合う。


 よし、僕に移った。


 さぁ、来なよ。


 言っとくけど、僕はとんでもなく弱いぞ。


 でも、悲鳴は上げない。


 最後の最後までお前を睨み付けてやる。


「ああひひひひひひいいいいいい、ぶ、ぶっ殺」


 一歩、前に。


 さらに、一歩。


 歩幅がだんだん狭まって。


 スピードがどんどん増していく。


 数秒後。

 

 僕は滅多刺し。


 薄い肉から血が飛び散って。


 太い血管からはあふれ出る。



 そんな未来を書き換えたのは。


  

 僕の前が暗くなる。


 誰かが割り込んだ。


 僕と、男の間に。


「なんだべしたぁ、あの男はぁ」


 オレンジ色の髪が靡き輝く。


 背負うのは黒いギターケース。


「通り魔ですかね?」


 すぐ近くには、青と黄色に色分けされたツインテール。


 いや、それだけではない。


 僕を囲むように数十人の少女が後ろに付いていた。  


「か、歌音さん?」


「おー、奇遇だべ」


 遮るは、特級拷問士の一人。


 心響の歌音さん。


「今度大きな合同ライブがあってよ、そのリハ帰りだったべ」


 ということは、他の女の子は、メンバーやその参加バンド達。


「とりあえず、あれ止めっぺよ」


 歌音さんが首を横にコキコキ。


「みんな、ギター、ベース」


「はいです」


 歌音さんの一言、その場で同じようにギターやベースを背負っていた少女達がそれを肩から降ろした。


 チャックを外され、色とりどりのギターやベースが姿を見せる。


「さぁ奏でるべ」


 歌音さんが駆ける。


「ンが亜あぁ??? ああがああああああああああっ」


 男も向かってくる。


 歌音さんは丸腰。


 対して相手は刃物が二本。


 圧倒的不利な状況で。


 歌音さんが吠える。


「デレキャスターぁあ!」


「はいっ!」


 何かを口にする。


 それに応じて、ギターが投げ込まれた。


 歌音さんは走りながらそれを受け取ると。


 思いっきり、相手の腕に叩き込む。


「ああぐああああああああああああああ」


「次、SJっ!」


「はいっ!」


 また飛んでいくギターだかベース。


 後ろ向きで受け取る歌音さん。


 そのまま、振り下ろす。


「次、ジャズマステーっ!」


「はいっ!」


 空中を滑空するギター。


 吸い込まれるように歌音さんの右手、左手に。


「レッケンバッカーっ!」

「はいっ!」


「サンダーハートっ!」

「はいっ!」

 

 腹、足、腕、どんどん打ち込まれていく。


「うがあぁ」

「あぎゃああ」

「ひひゃああああ」


 その度、上がる男の音色。


「す、すごい、けど、楽器はミュージシャンの命じゃ・・・・・・」


「大丈夫です。あの歌音カスタムの数々は、激しい演奏にも堪えられるようかなり強化されてますので、あの程度では傷一つ付きません。まぁ調整はするでしょうけど」

 

 そう語るは、僕の近くにいた青と黄色のツインテールちゃん。よくよく見ると髪とは逆だけど瞳も青と黄色のオッドアイだね。


「ベアっちゃんっ! ENP ホライズンっ!」


「かしこまりました」


 その子も自分のギターを手にして。


 野球の投手さながら垂直に歌音さんに投げつけた。


 凄い勢いで向かって来たギターを歌音さんは華麗に受け取ると。


「どだっ!」


 下から顎目掛けて打ち上げる。


「フィナーレだべっ!」


 そして最後に。


 肩のケースが流れる。


 素早くチャックを外すと。


 中から覗くネックを握った。


 鮮やかなオレンジ色のギターが。


 まるで抜刀されたかのように。


 男の顔を吹っ飛ばした。


「ストライドバーグっ! 歌音モデルだべっ!」


 歯と血、涎を飛び散らせ床は地面に滑りこんだ。


 完全に動かなくなった男を尻目に。


「アンコールはいらねぇべっ」


 ギターを鳴らした。


 

「また、暴れるかもしれません。腕折っておきましょう」


 あれ、いつの間にか、隣にいたツインテールが男の傍に。


 少女はそういうと、男の手を持ち上げ、足を押しつけ。


「きひ」


 周囲に低音が響いた。


 

 という事で。


 歌音さん達のお陰で、怪我人は一人も出ませんでした。


 男はその後措置入院することになったけど。


 実際、どうなんだろうね。


あの場には他にも大勢いたけど。


 確実に、弱い者を狙っていた。


 子連れの女性。


 そして、僕。


 世の中には、犯罪を犯してもこうして裁かれない者もいる。


 このような人達が犯した罪はどこへ行くのだろうか。


 そして、被害にあった人達の気持ちも。



 ちなみに歌音さんのバンドは殺戮女郎蜘蛛だそうです。

最近、加入した外人が凄いテクニックらしく。


 皆から殺戮のベアトリスと呼ばれているとか。

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