おや、腕が疼くみたいです。
こんにちは、蓮華です。
円さんが骨折しました。
「くそ、なんてこった、なの、だ」
当の円さんは唇を噛んで険しい表情を浮かべています。
しかし、これでは遂行中の任務に支障をきたしますねぇ。
都合良く他の人が代わりになってくれればいいのですけど。
うふふ、そううまい事あるわけありませんか。
◇
ご機嫌よう、種です。
今日は髪を切ろうかと思ってるの。
いつもとは別の所。
美容師は一人だけの完全予約制。
銀色のお洒落な建物。
中に入ると、女性が一人、私を迎えてくれた。
「予約した雨宮ですが~」
「・・・・・・あ、いらっしゃいませ」
私は普通の女子。
私は普通の女子。
言い聞かせるの。
自分に自分で嘘をつく。
姉様のようにうまくはいかないだろうけど。
「こちらにどうぞ~」
なんとか騙せた。
相手も。
そして自分も。
細い身体、長い髪、流行の洋服。
一見、特におかしい箇所は見当たらない女性。
でも、分かるんだなぁ。
足の先。その地面から赤く咲き誇る彼岸花。
幾つも、幾つも、周りから伸びている。
姉様からは周囲を覆い尽くすほどのネモフィラが見えた。
それはとても綺麗で美しく。
中央で佇む姉様をより一層引き立てる。
「今日はどのような感じになさいます?」
美容師の声で我に返る。
「あ、そうですね、じゃあ・・・・・・」
適当に答える。
「では、まず流しますねー」
そういい今度は奥へ通される。
カーテンの先。
椅子に座らされ倒される。
顔にガーゼ、静かに瞳を閉じた。
水の音、鼻に通るいい香り。
この時、相手はどんな顔をしているのか。
いよいよ、開始だね。
死のシャンプーが。
最初は普通だった。
力も程よく、心地よい。
一度流すと。
また泡立てる。
二回目もそれほど変わらない。
再び流すと。
また泡立てる。
繰り返される。
力もどんどん強くなっていく。
何回目だろうか。
相手の息づかいが荒くなって。
指の動きがまるでタコのようにグニャグニャ。
相手は夢中。
一心不乱。
ここで声をかけたりすれば。
無防備な私は何をされる事か。
ふと思う。
今考えればこの状態はとても危険。
視界は真っ暗で。
殺す気になればいつでも殺せる。
この人は、美容師になりたくてこの職業についたのではない。
人を簡単に殺すためになったのだ。
腰のハサミがいつ襲ってくるのか。
それは分からない。
でも、確実に分かるのは。
私がハサミを使う時。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ」
鋭いハサミが太股に突き刺さる。
それは勿論、私のではない。
「な、なななああああ!???」
驚くのは無理もないよね。
私はゆっくり椅子から身を起こす。
刺さった箇所から血が布にじわりを染みこんでいく。
「少し前、ここにモデルの子が来なかったかな? 長年夢を追いかけ、漸く近々大きなコレクションに出ることになったというのに突如失踪した」
立ち上がりもう一つハサミを取り出す。
「他にも色々聞かせてね。美容師はこれを仕事で使うけど、私は・・・・・・」
馬鹿と鋏は使いようって言葉があるけれど。
「人を切り刻むために使うの」
これの切れ味はどうでしょう、すぐに分かる思うよ。
◇
こんばんは、蓮華です。
円さんが骨折しました。
「く、腕が、右腕が疼くのだ・・・・・・」
そしてギブスをさすって何か言ってます。
円さんが骨を折った理由ですが。
この子の身体能力はかなり高い。
こと戦闘でもよほどの敵が相手じゃなければこんな大怪我はしません。
私が知るかぎりそれが可能なのはぱっと思いつくかぎり、蛇苺さん、瑞雀さん、そしてミドガルドシュランゲのゾフィアさんくらいでしょうか。
でも、円さんにこんな大怪我をさせたのはこの人達ではありません。
ただの女子高生です。
数日前。
円さんは急に自転車に乗るのだっ! と言ってロードバイクを買いました。
リョナ子さんが乗っていたのを見て格好いいと思ったのでしょう。
でも、円さんは今までママチャリにも乗ったことなかったんですねぇ。
それでも天才的な適応力で瞬時に乗りこなしたのですが。
購入して三日目。
自転車でここに向かう途中でした。
前から来たのは、通学中の女子高生。
円さんと鉢合わせます。
お互いスピードはそんなに出てなかったのですが。
円さんが右に避けました。
相手も同じ方向に避けます。
円さんがそれをみて逆にハンドルを切ります。
相手も同様に逆に。
「え?」
「え?」
フェイント合戦が始まった瞬間でした。
右に左に。
左に右に。
ブレーキをかければいいのに。
どっちもかけずに。
ハンドルだけを動かし続け。
その結果。
「あぎゃああ」
「きゃあああ」
正面衝突です。
幸いな事に、相手の女子高生は掠り傷程度で済みましたが。
円さんは無駄に動きがいいのが災いして買ったばかりの自転車を庇って倒れたせいで骨折しました。
「ちぃ! 鎮まれ、今宵はまだその時では、ない、のだっ」
はぁ。まだやってますよ。
横目で円さんを見ます。
綺麗に折れましたし、円さんの驚異的な回復力があればすぐ治るでしょうが、今しばらくは激しい任務はできなそうですね。
誰か円さんの代わりに動いてくれる人がいればいいのですが。
うふふ、そんな都合のいい事が、ありませんよ、ね。
◇
種ちゃんです。
夜も更けてきたけど。
まだ、私の仕事は終わってないの。
「やめてぇえ!! 本当にこれ以上はなにも知らないのぉおお」
相手の瞼にハサミを近づける。
「そうなんだぁ」
チョッキン。
「いやああああああああああああああ」
切れた上瞼がハサミに張り付く。
「ちゃんと私の目を見て、じゃないともう片方も・・・・・・」
「ああ、あ、ほ、本当なの、私は、事務所の関係、者を名乗る人から・・・・・・あぁあ」
この人、仲間は知らないというの。
おかしいね。
円ちゃん側の情報を見る限り、今回の輩は6人いるはず。
この人ブラッドヘアーに、靴狩り、レディワースト、軍隊蟻、そして鎌道魔。
これで五人。
殺人鬼連合も鎌道魔から情報は聞き出せていない。
幻の六人目か。
やはりこの一件、妙にひっかかる部分が多いね。
「・・・・・・さて、これを殺人鬼連合のシストくんならどう見るかな?」
もしも、私が朧気に見えてるビジョンと同じなら。
ハサミをブラッドヘアーの下唇にあてがう。
「え、え、や、嘘、や、やめて、本当よ、私、これ以上はなに・・・・・・」
チョッキン。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
喉の奥から絞り出される絶叫。
シャンプークロスがいい感じ。
いくら血が飛び散ろうが洋服は汚れないから。




