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ういうい、どうすればいい、のだ(殺人鬼決定戦 其の九)

 ういうい、円なの、だ。


私に向かい、私を襲う。


 ニルヴァーナの刃。


 受け止めたのは、天宮 種。


「ニルヴァーナちゃん、それはルール違反でしょー」


「あ? 邪魔するなよ、小娘」


 人の皮で作られたマスク。


 隙間から覗く瞳は血走って。


 その視線、まっすぐ向けられる種。


 ワールドクラスの狂人のそれ。


 全力の狂気。


 頭がぐらつく、吐き気を催す、そんな悪意を一身に受けて。


 それでも。


「え~無理ぃ。なんで、この種ちゃん、三下の言う事聞かなきゃならない?」


 ナイフ、それを挟み込むハサミ。


「・・・・・・そうぁか、いいよ、お前もだ、お前も、お前も、お前も、お前もぉおおおおおおおおお、今から僕達の標的だぁああああああ」


「ん? 有名な殺人鬼集団ゾディアックファミリーが私を標的にしてくれるの? ふ~ん、それは光栄だよー・・・・・・」


 重なる銀は右に左に。


「なんて、言うと思った~?」


 目は細く、口角はネチャリと上がる。


「おいっ! もうゲームは終わりだっ、待機させてるメンバーを呼び出せっ!」


 ニルヴァーナの怒りはさらに膨張、大声で叫んだ。


 やはり、前のステージに仲間を残して置いてるの、だ。


 この場にいたゾディファミのメンバーがその声を受け慌てて懐に手を伸ばすが。


「それはそれで正しくもあるが、私は好まんな」


 背後から強烈な一撃。


 自分の身長を超すほど上がったつま先が、相手の顔面を捉えた。


 瞬時に消え去るゾディファミメンバーの姿。


 誰よりも早く、誰よりも強力な攻撃。


 吹っ飛んだ事により見えるその姿。


 軍服を羽織り、揺らす、ゾフィアベーゼ。


[やれやれ、困りますねぇ。皆さん、こちらの指示にない事はしないでもらいますか~]


 機械的なアナウンスが流れる。


「ふん、元よりルールなんて知った事じゃない。最初からこうするつもりだったんだ。だからね、こちらが連絡しなくても時間が立てばうちのメンバーがここに押し寄せる、もう終わりだよ、全員ね」


 ニルヴァーナは端からゲームをまともにするつもりはなかった。


 こいつの当初の目的はキラキラ(シスト)に会うこと。


 そして、それが私の殺害に変わったの、だ。


 そう、この殺人鬼決定戦。


 ニルヴァーナも。


 ゾフィアベーゼも。


 叶夜も。


 天宮 種も。


 誰も本来とは違う目的で参加していた。


 そして、それは・・・・・・。


 最終ステージに入った扉が開く。


 そこから待機していたゾディアックファミリーの連中が押し寄せてくる。


 いや。


 ニルヴァーナの目がさらに見開かれる。


 全身が痙攣したように震え出す。 


 ゾディアックファミリーの代わりにその場に入ってきたのは。


「シ、シスト・・・・・・きゅん??」


 右に九相図。

 左に眼球アルバムを引き連れた。


 紛れもないキラキラ本人だった。


「あぁ、残念ですけど、お仲間は来ませんよ」


 いつもの笑顔で。

 

 そう、彼は? いつもと同じスマイルでそう言うの、だ。


「全員、殺しました」


と。



 場にそぐわぬエプロン姿で。


 両手には料理用の包丁。

 

 それを狂狂回して。


「子供を守るのは、親の役目よねぇ~」


 その細すぎる目には誰も抗えない。


 見られた瞬間、息が止まる。


 同じ生き物とは到底思えず。


 切られた事も。


 刺された事も。


 裂かれた事も。


 何もかも気付くのは最後。


 場にそぐわぬエプロンはどんどん染まる。


 赤く、臓物色へと。



「シ、シ、シストきゅ、シスト、あぁ会いたかった、夢に見た、君と歩く、君を抱きしめ、君にキスを、君を、君を、君を、切り刻む」


 ニルヴァーナが渦巻いて吸い込まれる。


 歩いて、歩いて。

 

「なるほどぉ、そういう事かー」


 種も気付いた、か。


 スピーカーの方に顔を向ける。


「いつから入れ替わってたのかなぁ。・・・・・・深緑深層」


 実は私も知らなかった、のだ。


 違和感は、このステージに入ってから。


 余りに私達にとって有利な指示だった、のだ。


 そして、あの何処かで聞いた事のあるしゃべり方。


 そうか、私すら欺したか。


「・・・・・・ね、やっぱりあの子は駄目。だからだよ、姉様が私を残した」


 種が小さな声で呟いた。


「ん、どういう事だ? これもゲームの一環か?」


 状況を読み取れないゾフィアベーゼが問いかける。


 つまり、レンレンにとって、こいつらもターゲットだった訳だが。


「やぁ、円、生きてるー?」


 いつの間にこの場にいた。


 声がする方に目を向けると。


「蛇師匠っ!?」


 やはりこの人は別格なの、だ。


 全く気配を感じなかった。


 蛇師匠は私の師匠ではあるが、依頼主はレンレン。


 つまり、ここにいる理由は一つ。


「ほう? お前か。あの化け物を倒したってやつは」


 ゾフィアの疑問は興味へと。


「え、なになに、君誰だい?」


 聞き返すが、ゾフィアはすでに踏み込んでおり。


 その距離は刹那で詰まる。


 強者と向き合うと体が本能的に動くのか。


 即座に相手の力量を計り、脅威と感じとり、いの一番で排除しようとする。


 その判断は間違いではない。


 間違いではないのだが。


 広い室内、なおも全体に響く大きな音。


 今回は相手が悪すぎるの、だ。


 ゾフィアの体が回転しながらすごい勢いで吹っ飛んだのだ。


 地面に落ちるもまだもみくちゃに回り。


 壁に激突して漸く止まった。


「・・・・・・ば、馬鹿な。今の私は、あの老兵クリメントにも劣らぬ、はず・・・・・・」


 なんか言ってるゾフィアを蛇師匠は首をコキコキさせながら見つめる。


「ん、クリメント? あぁ、あのおじさんかー。確かに強かったけど、あれから何年経ってると思ってるんだよー。人は日々成長するんだよ、私があの頃のままな訳ないじゃない」


 蛇師匠はあの頃でも充分化け物じみてたの、だ。


 それでも、慢心せず、歩みを決して止めず、毎日ひたすら己を磨いてきたのを、私はよく知ってるの、だ。


「まぁ、いいや。私のターゲットは別にいる」


 蛇師匠が動いた。


「まー、深緑深層と殺人鬼連合が繋がってれば、そうなるよねぇ」


 種が手に持つハサミをチョキチョキ。


 レンレンは最初からこの大会に面倒な者達を全員集めて一気に排除するつもりだったの、だ。


 その中には、勿論、自分に喧嘩をうった種も含まれる。


〈円ちゃん、この子は今後必要になってくるよぉ。蓮華ちゃんは私が唯一認めた好敵手、対抗するには円ちゃんだけの切り札が必要なんだよぉ〉


 私の中で。


 姉御の声がそう囁く。

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