ういうい、逃げるの、だ(殺人鬼決定戦 其の十)
ういうい、円なの、だ。
今の状況は一言でいえば無茶苦茶。
そう無茶苦茶なの、だ。
ここでレンレン、殺人鬼連合が介入。
さらに蛇師匠まで。
「さーて、さっさとターゲットを始末して帰ろうかなー」
蛇師匠の標的、それは私の隣にいる種なの、だ。
種は元葵シスターズの汚れ役として相当の修羅場は潜ってきたはずだが。
それでも蛇師匠を相手にするには圧倒的に力不足。
例え抵抗しても一瞬でやられるの、だ。
「・・・・・・・・・・・・」
だが、それでも別に種がどうなろうが私にはどうでもいい事。
ここで、殺されようが私には一切関係ない。
ない、はずなのに。
〈円ちゃん、この子は今後必要になるよぉ〉
そう囁く姉御の声が頭から離れない。
姉御の言う事に間違いはない。
姉御の言う事は全て正しい。
それが、例え、幻聴だったと、しても。
「・・・・・・種、逃げるの、だ」
私はとても自然に種を庇うように前に出ていた。
「・・・・・・ん~、どういうつもりだい、円」
蛇師匠の疑問の投げかけ。
明らかに空気が変わった。
「円、もしかと思うけど、その子を庇うっていうじゃないだろうね? この私からー」
声が重い。
兎の仮面で表情は見えないのに。
まさに蛇に睨まれているかのよう。
狂気とは別の恐怖。単純な死の恐怖。
「円ちゃん、あれはやばいね。多分ここにいる誰もあの人には勝てない。それに加えて殺人鬼連合、しいては深緑深層まで影に潜んでる。そんな状況で貴方はなにをしようとしてる?」
背中からも声。種の声。
「円ー。私はプロだ。そこに私情は挟まない。邪魔するなら例え弟子でも容赦なく消すけど?」
言われなくてもそんな事私が一番よく知ってるのだ。
「種、逃げるの、だ」
分からない、でも姉御がこいつを生かせと言った。
私の優先順位は今も昔も姉御が一番なの、だ。
「逃げる? さっきも言ったけど、敵はわんさか、どれも一級品。この状況で果たして逃げられるのかなー」
種単体では不可能なの、だ。
「・・・・・・なら私もついて行くの、だ」
蛇師匠はまだ動かない。
この時、種はどんな顔をしていたか、私には見えない。
ただ。
「・・・・・・円ちゃん。今の状況本当に分かってる? 二人でも逃げ切れないよ。この人達を敵に回せば絶対死ぬ、それでも・・・・・・」
声の質が僅かに変わった、気がした。
「それでも、私を連れ出してくれるのかな?」
横から手が差し出される。
「姉御がお前を生かせと言った。だから私はそれに従う、のだ」
その手をしっかり握る。
「円ぁ、もうそろそろいいかなー?」
蛇師匠の殺気が部屋中に広がった。
それはまさに死。
「さぁ、行くの、だ」
呟く。
それは決意の証。
「おい、ゾフィアベーゼ、まさか、このままやられっぱなしなの、かっ!? さっきの威勢はどうしたの、だっ!」
すでに立ち上がっていたゾフィアに向かって叫ぶ。
「・・・・・・分かりやすい挑発だな。しかし、いいだろう、乗ってやる、私にも面子があるのでな」
すでに足が少し震えている。それでも彼女は立ち上がり。
「そういう事なので、悪いがもう少し遊んではくれまいか?」
羽織る軍服を投げ払った。
続けざまにニルヴァーナにも声を投げる。
「ニルヴァーナ、お前のお目当てはそこにいるのだっ! 見せてみろ、お前の愛とやらを、例え、手足がなくなってもキラキラに辿り着けっ」
「あぁ、シストきゅん、シスト、シスト、私の、シスト、シスト、シスト、シシュチョ」
こっちは別に何もしなくても良かったみたい、だ。
[あらあらー、円さん、どういうつもりですかぁ~。いくらなんでもお痛が過ぎますよぉ。そんな事されたら、いくら温厚な私でも許しませんよぉー]
そしてスピーカー。レンレン。
「最初に邪魔したのはレンレンなの、だ。こっからは私の好きにさせてもらう」
「ふふ、深緑深層そういう事みたいだよ。だから私達は逃げるね♪ 捕まえられるものなら捕まえてみて」
種も一緒にスピーカーを見上げる。
[なるほど、鬼ごっこですかぁ。良いですよぉ。でも私達から逃げられますかー?]
随分余裕なの、だ。
それも当然、か。
ゾフィアをたきつけたとはいえ、あの状態で蛇師匠と戦っても数分持つかどう、か。
ニルヴァーナの方は正気を失い、尚且つシストに辿り着くまでには。
「おらぁあああああああああ、止まれや、なにおねにー様に近づいてんだぁ、あぁ?」
「そうそう、うちのリーダーに求愛したけりゃまずアタシらに挨拶しな」
バールと目玉ががっちり前を塞いでる。
加えて、もう一人。
「・・・・・・大丈夫、僕は邪魔はしない。少しの間だったけど中々楽しめたよ。逃げるなら早く逃げな。今ならまだお姉ちゃんから次の命令は出ていない」
叶夜はそういってスマホを弄りだした。
「・・・・・・悪いの、だ。もし今度があったら一緒にゲームをする、のだ」
こうして、私達は踵を返す。
「ふふ、ちょっと、待って。ねぇ貴方達、聞いてたよね。どっちにも加勢してバランス良くね、なかなか大変だろうけど出来るだけ時間を稼いでねー」
種が誰かにそう言った。
ここで、今まで全く動かなかった他の参加者達が動き出す。
「ふふ、あれ私と同じ葵シスターズだよ。私だって隠し球は用意してた。でも少し足りなかったかも」
そうかあの三人は、種と同様に姉御が死んでから抜けたメンバーだったの、か。
「彼女達も見たはず。だから、多分私というより円ちゃん、貴方を守る」
種の言ってる事はよく分からんが、とにかく味方なの、だ。
こうして、私はまた第二ステージへと戻る。
手はしっかり握られていた。
出戻った部屋は血の臭いで充満してる。
キラキラ達は私達を見逃してくれた。
ただ横を通り過ぎるときキラキラは一言こういったの、だ。
「その子は僕達の敵です。でも円さんには手を出せません。差し引きゼロで今は見逃しましょう。でも、それはあくまで僕達です。せいぜい出くわさない事を祈ってますよ」
殺人鬼連合以外で殺人鬼連合側の人間。
それは二人。
「一刻も早くここを抜けるの、だ!」
先ほどの話だと、このステージに残党狩りで殺人鬼連合、そしてその二人がいる。
「そいつらに会ったら最後なの、だ」
そうはいっても今、運営はレンレンが完全に乗っ取ってる。
部屋にどんな機能があるか分からない。レンレンが全て操作できるかもしれない。
「施錠されてたらアウトだけど。深緑深層は鬼ごっこと言った。だから大丈夫かなー」
レンレンなら関係なしにやりそうだが。
協力関係の殺人鬼連合がここにいるならあまり無茶はしないはず。
レンレンの性格からやるとするなら、それは。
「誘導なのだ」
各部屋の状況は一目瞭然。
音声を飛ばして絶対ぶつけてくるの、だ。
ここで足止めされる訳にはいかない。
蛇師匠が追ってくる。
それは多分すぐなの、だ。
でも、分かっていてもどうしようもなく。
「あらぁ、やっと会えたわぁ~」
「・・・・・・・・・・・・」
いくつかの部屋、血だまりで靴を濡らし、屍を越えてついた先。
「最悪なの、だ」
「・・・・・・隣は血色だね」
私達の前に立ちふさがったのは。
キラキラとバールの母親。
史上最高レベルのレベルブレイカー、ヴァセライーター。
隣は、多分蛇師匠と唯一まともに戦える相手、国家暗部の通称血色。
「私ね~、もう楽しくて楽しく、もう考えるのやめたのよぉ~」
「・・・・・・・・・・・・」
相変わらずカリバは包丁をクルクル回し、血色は一言喋ることはない。
一分でも止まる訳にはいかない。
最悪、私はここに残り種を先に行かせる、か。
「ここで終わりかな?」
種も相手が誰なのかよく知ってる、だが、まだ最強のカードが残ってる、のだ。
「姉御は言った。人は一人では何もできない。だから利用できるものはなんでも利用するって」
言葉は違うが、要は誰かの助けは必要って事だ。あの完璧な姉御でさえそう思っていたのだ。
スマホを手にし、ある番号にかける。
これで私達の運命は決まる。
頼む、出てくれ、出て下さい、なの、だ。
[・・・・・・はい]
出た。出てくれた。
これで希望が生まれた。
「あ、あ、円なの、だ、です。急でごめんな、のだ、ですが・・・・・・」
短い会話。
そして。
「おい、ヴァセライーター。取引なの、だ」
スマホを投げつける。
「あはぁ~? なんのつもり~?」
「いいから、話すの、だ」
「ん~? もしもし、誰かしらぁ~?」
カリバの細い目が少し開いた。
そんな時さらに状況が悪化する事になる。
後ろの扉が開く。
「切り裂きぃぃぃ」
軍服を纏った金髪の女。ミドガルドのシュミット。
コイツはコイツで不意打ちじゃなきゃ楽には倒せない。
ちぃ、やっぱりきっちり殺しとけば良かったの、だ。
まずい、まずいの、だ。退路の一つがまた減る。
ここでもたつくとさらに最悪な災厄が迫ってくる。
早く、早く。
だが、もう私には分かった。
もうすぐそこまで来ている。
髪がざわつく。鳥肌がぽつりぽつりと浮き上がる。
数秒後、また扉が解放された。
「追いついた」
それは体中が血で染まった蛇師匠だった。
「円、最後のチャンスだよ。その手を離してこっちに来な。今なら腕の一本くらいで許してあげるから」
蛇師匠。なんだかんだで優しい人なの、だ。
でも、この手は離さない。
さらにきつく握る。
「・・・・・・そうか、残念だ。お前は見込みがあった、いつか私を越えただろうに」
蛇師匠が一歩踏み出す。
それは死へのカウントダウン。
その針を止めたのは。
「切り裂きちゃん、交渉成立よぉ~、さぁ通りなさい」
ヴィセライーターが私のスマホを投げ返した。
「うふふ、今から楽しみだわぁ~、どんなお持てなしをしようかしらぁ~」
「・・・・・・・・・・・・」
回転していた包丁がピタリと止まる。
「ん~、どういう事? まさかあんた達も円につく気?」
「そうよぉ~、その子は先約有りみたい、だから手を出させないわぁ~」
「・・・・・・・・・・・・」
この隙にヴァセライーターの後ろの扉から次の部屋へと走る。
通話の相手とはまだ繋がっている。
「あ、ありがとう、なのだ、ですっ!」
その相手に全力でお礼を言った。
後は外へ出て、待機されてるヘリをパイロットごと乗っ取れば逃げ切れる。
鬼ごっこは私達の勝ちなの、だ。
最強のカード。
レンレンもキラキラもヴァセライーターもバールも目玉も、そして姉御さえも切れる最強カード。
お礼を言った時、彼女はこう言ったの、だ。
「よく分からないけど、君には死んでもらっては困るよ。だって約束したんだ。君の執行は僕がやるって。葵ちゃんとの約束、僕は絶対守る、だって彼女は・・・・・・」
涙が流れる。
「もう僕の一部になっている」




