ういうい、最終ステージなの、だ(殺人鬼決定戦 其の七)
扉を開けると、一気に光が溢れた。
眩しさに思わず目を細める。
目が慣れて。
そこは広すぎる室内。
数人の人影。
「・・・・・・・・・」
皆無言。
予想通りの面子がそこにはいた。
ゾディアックファミリー、ニルヴァーナを含む三人。
ゾフィアベーゼ要するミドガルドシュランゲ、三名。
残りは他の参加者だろうか、これも合わせて三人。
そして、私達も三人。
「うくく、良い感じで残ったみたい、だ」
先に口を開く。
ポイント的に最終的な人数はこれ位とは思っていたが。
「切り裂き円、よくぞ生きてここまで来た、お前は私が殺す」
「いやいや、この嘘つきは僕が殺すんだよ」
ゾフィアとニルヴァーナが私を見据える。
「・・・・・・もういいじゃん、面倒だし、全員で殺し合おうよ」
ここで叶夜が気怠そうに前へ。
「そうだねぇ、全員参加のバトルロイヤル、いいんじゃない?」
さらに横から種も前進。
「・・・・・・お前ら、なんだ、切り裂き円の関係者か?」
「僕も気になるなぁ、仲間ってならお前らも同罪だ」
二人の殺気が、私だけに向けられていたものが、広がりだす。
「ん、僕は叶夜、殺人鬼連合所属の殺人鬼だよ」
「私はー、葵シスターズの一人、種ちゃんです」
二人が名乗って、それに二人が反応する。
「殺人鬼連合・・・・・・」
「葵? シスターズ・・・・・・」
姉御の名前にゾフィアが、殺人鬼連合にニルヴァーナが。
否、両方にか。
「・・・・・・マーダーブリゲードという大規模な殺人集団があった。それを数年前に潰したのが殺人鬼連合と聞いている」
ゾフィアが目を瞑り語り出す。
「あそこの頭、アリア・アクアマリンは相当頭がいかれていたらしい、だが、あそこの脅威はそこではない、アリアの護衛でもあった元特殊部隊のクリメント。あれは化け物だ、私は同業からやつとは戦うな、出くわしたら全力で逃げろを言われていた、それをただの殺人鬼風情が倒せたとは到底思えん」
クリメント、あぁ、あの渋いおじさんか。確かにあの風格はただ者ではないと当時の私ですら感じていたの、だ。
「マーダーブリゲードを潰したのは確かに殺人鬼連合だね。まぁ僕はいなかったけど。そして、表ではそうなってるけど、本当はもう一つの組織が関わり共闘してた」
「それが、昆虫採集部。深緑深層、葵姉様、そしてそこの円ちゃんで構成された国家機関。何を隠そう、アリア・アクアマリンを殺ったのは、この円ちゃんだよ」
アリア・アクアマリン。あの狂気は計り知れず、実際私が倒したといってもよく覚えていない。なんせ無我夢中だった。
「じゃあクリメントをやったのは誰だ? 当時の私では無理だろうが、今の私なら奴にも負けまい。今となっては叶わぬが、代わりにクリメントを倒したやつと是非手合わせしたいものだ」
そう言い不敵に笑うゾフィア。その言動には自信に満ちている。まるで誰かさんみたいなの、だ。
「倒したのは私の師匠なのだ、残念だが、お前じゃ足下にも及ばないの、だ」
実際には殺人鬼連合側の赤い奴と二人がかりだったらしいが。
どうせ、どっちか片方だけでも余裕だったのだ。
「ほう、お前のマスターか、なら、お前を八つ裂きにすれば敵討ちにでも出てくるか?」
ゾフィアの私に対する目つきがさらに鋭くなる。
「私が死のうが生きようが師匠はなにも思わないの、だ。そして、お前ごときに私はやれないの、だ」
ナイフを構える。
ゾフィアが不気味に笑った。
正直、こいつの力は未知数。
姉御ならこういうだろう。
〈円ちゃん、戦っては駄目だよぉ。手の内を知らない相手とは・・・・・・〉
思った通りの言葉が耳に入ってくる。
「殺人鬼連合の小僧に賛成だ、ここにいる全員で殺し合って最後に立ってた奴が勝者、異論は?」
ゾフィアが吠えた。
誰も肯定も否定もないまま。
全員が戦闘態勢を取っていた。
狙いは私、なのだ。
ミドガルド、ゾフィアは私を、他はサポート、叶夜か種か。隣の参加者にも気を配る。
ニルヴァーナも私。残りの幹部はどう動く。これも援護か、他を当たるか。
種や叶夜は。
私を狙う可能性もゼロではない。
全方向に注意を向け、なにがどう展開しても反応できるように。
その中で、ゾフィアベーゼを一番に。
それが彼女との差か。
相手は私だけを見て、私だけを狙い、視界は狭まり映るのは。
「・・・・・・っ!?」
予想の数倍速い。
あっという間に距離は詰められ。
ゾフィアの拳が、一、二、認識すら置き去りにされ。
私の反応が遅れる。
ただ痛み。どこを打たれたかすら分からない。
続く、止まらず。
「がぁあ」
腹部に鈍痛。
間髪いれずに顔面に大きな衝撃。
私は後方へ大きく飛ばされる。
最後が大ぶりだったのが間一髪助かった。
僅かな溜めが、私を逃がす。
自ら後方へと距離を取ろうとしたのが幸いし、顔への蹴りをまともにうけずに済んだ。
それでも掠めただけなのに、脳がゆらゆら揺れる。
ゾフィアの追撃が来る。
それは分かっていても体が言う事をきかない。
防御、回避、どの命令も受け付けない。
棒立ち。
絶対絶命な状況で。
ゾフィアの拳が目の前で急に止まったのは。
[皆様お待たせしましたぁー、これより最終ステージの課題を発表しますー]
広い場内にアナウンスが流れたから。
私は笑う膝を曲げ、尻から地面に倒れた。
見誤ったの、だ。
なぜ読み取れなかった。こいつの言動には真の自信に満ちていた。
それは上辺だけではなく、根拠があって成り立つもの。
一切の甘えなく、ひたすら己を磨き上げてきた上で放たれるもの。
結果をつねに残し、一つ一つ積み上げてきたもの。
それは自分にしか分からず、ゆえに自分にしか口にできないもの。
こいつは紛れもなく強者なの、だ。
「プププ、円ちゃん、かっこわるーい」
「ありがと、切り裂き円。あんたのお陰であいつの力量が分かったよ」
叶夜と種は最初の位置から動いていない。
協力、サポート、そんな考えはまるでない。私は二人に人柱にされたか。
「プププ、普通、ここでも運営からなんかしらの指示があると思うでしょうー」
「冗談で言ったのに、みんな先走りすぎだよ」
こいつら。
やはり、この二人を苦労して連れてきたのは失敗だったか。
いや。
ミドガルドは仲間がゾフィアを守る陣形をとっており。
気付けばゾディアックのニルヴァーナがすぐ近くにいた。
幹部だろうか、他の奴らがうまく壁になっている。
どちらにせよ、放送がなければ私は殺されていた。
叶夜と種。この二人を、うまく使いこなせなければ。
私は勝てない。
ここで死ぬだけ。
風邪なかなか治りませぬ。




