おや、メールが届いたようです。
これはいまいち。
これはまぁまぁ。
これは、なかなか綺麗。
1DKのマンションの部屋。
ところ狭しと並べられた植木鉢。
彼女はその一つ一つに声をかける。
もう少し頑張って。
貴方はもっと綺麗になれる。
微笑んで。
最上の愛を。
彼女は花へ送る。
今日も水と肥料をあげましょう、と。
彼女が取り出したのは、粉末上のなにか。
「やはり老人のでは駄目なのかな~」
袋には名前、育てている花と同じ。
「このスミレちゃんはよく咲いた方」
同じ名前の同じ花。
「また違う花を育てたい」
今度は何がいいだろう、彼女の脳には花が狂い咲く。
一面の花畑。
多くの花が脳を破って花弁を散らす。
「・・・・・・私の好きなピンクや白い、そんな花」
思い立ったら即行動。
彼女は、桃色の髪をさっと手直し。
お気に入りの服を着て。
今日もまた肥料を探しに出かけていく。
同じ名前の同じ花。
こんにちは、蓮華です。
平日の昼過ぎ。今日もまた円さんがうちの仕事場にきております。
最近は相当暑いみたいですね。
ま、私には関係ありませんけど。
そういうわけで、クーラーがガンガン効いてるここへ特に用もなく入り浸ってるのでしょう。
「姉御に手紙を出したいの、だ」
ソファに座って、彼女は真剣にそんなことを言い出しました。
「出せばいいじゃないですか」
書いてお墓にでも持っていけばいいと。
普通の感覚でそう思ったのですが、どうやら円さんは違うみたいです。
「ちゃんと本人に届くように、だっ!」
多分、昨日にでも思いついたのでしょう。
円さんは本気でドールコレクターに手紙を送りたいようでした。
「・・・・・・送ってどうするんです?」
方法はどうあれ、内容が気になります。
「・・・・・・近況を報告する、のだ。そしたら姉御も少しは安心するかも。あと、自分へも書くのだ、あの時、私が笑って姉御を見送れてたら・・・・・・」
数年経って色々思う事もあるのでしょう。
「・・・・・・ふむ、過去に手紙ですか」
それができたらどんなに楽でしょう。
未来は分からないからこそ、今を必死に生きようとするはず。
「で、どうやって送るつもりです?」
円さんも今はただのお馬鹿ではありません。
いや、お馬鹿なんですけど、知識を持ったお馬鹿になりました。
「超光速で通信するの、だっ!」
ははぁ。そういう事ですか。
「タキオンでしょうか。それなら確かにあるいはですねぇ」
タキオン、光速の10倍の速度で進む超光速粒子の事ですね。
「そうなのだっ、光速の6割程度の速度で宇宙船を飛ばして地球からタキオンでメールしてそれが届いたらまたタキオンで返信する、そうすればそれは3年前ほど過去に届くの、だっ!」
たしかに相対性理論では、時間の進みは見る人の立場で変わりますからね。
計算上は、宇宙船視点で地球の方が時間の流れは遅くなりますので、三年ほど過去に届くかもしれません。
「届くかもしれませんけど、色々問題もありますねぇ。因果律しかり、その宇宙船に乗る事しかり・・・・・・」
そして、最大の問題は。
「大前提のタキオンが存在しないって事でしょう」
タキオンはあくまで理論的に存在する可能性があるってだけです。
「そもそも特殊相対性理論で光より速く移動できるものはないとなってます。質量のあるものは光の速度を超えられないのですよ。自然界の最高速度は質量を持たない光と重力くらいです」
ちなみにニュートリノも素粒子ですが近い速度を出しますね。
「うくく、たしかにそうだが例外もあるの、だ。最初から超光速で動くものなら、相対性理論とは矛盾しないのだ。だから、まずタキオンの存在を証明してから・・・・・・」
「私はそもそも存在しないと思ってますけどねぇー」
こうして、今日もまた私は円さんのお馬鹿話に付き合っていたのですが。
ピロン、と。
私のパソコンがメールを受信したのです。
その宛て名を見て、私は驚愕しました。
「・・・・・・ドールコレクター?」
それはあらかじめ予定されていたもの、すぐに気付きました。
ドールコレクターが過去から送ってきたメール。
そこには、短い一文が。
〈私が読んだ最後のファンレター、天宮 種ちゃん〉
これはどういう事でしょう。
ドールコレクターの執行が決まった時。
大量のファンレターが送られてきました。
その届いた大部分は執行の後でしたが、一通だけ執行の前日に届いたのです。
それすなわち、ドールコレクターの事をよく理解してる者。
ファンレターは私が全て保管しています。
他人宛の手紙を読む趣味はありませんでしたのでそのままでしたが。
さっそく、私達は保管室に出向き、ファンレターを漁りました。
その中に、ありました。
雨宮 種がドールコレクターに宛てた手紙。
中身を開き確認します。
そこには、数枚に及びびっちりと書き込まれた文字、そして数枚の写真。
その写真に写っていたものは。
「これは・・・・・・人?」
胸が裂かれ、そこからいくつもの花が。
目はくり抜かれ、そこにも花。
口にも花。
花、花、花。
まるで人から芽吹いたように。
そして、その横で無垢な笑顔を見せてる一人の少女。
「・・・・・・この子が、雨宮 種さん・・・・・・でしょうか」
なぜ、今になってこの情報を私に。
隣の円さんに自然と目が移ります。
「・・・・・・そろそろ頃合いって事でしょうか」
この子が存在しているなら今、丁度円さん位か。
「円さん、ドールコレクターは貴方に宿題を残していったようです」
これは私にも、でしょうか。
他にもありそうですねぇ。宿題。
でも、今は、この子を調べてみましょう。
写真の時で、これほど純粋な凶行。
今どうなってるか考えるだけで恐ろしい。
サイドだけが異様に長い薄紅の髪を揺らして、彼女は街を練り歩く。
顔、体、性別、年齢。
それらに興味はない。
あるのは・・・・・・。
適当なお店に入る。
若い女性の店員。胸にはネームプレート。
適当に買い物をして、レジへ。
「・・・・・・橋本 茉莉花さん」
「え?」
店員は急に自分の名前を呟かれ驚いた。
「あ、ごめんなさい。ただ、茉莉花ってジャスミンの和名だなって」
「あぁ、そうなんです、よくおわかりで」
「ええ、私、花が好きなもので・・・・・・」
彼女は店員の顔をまじまじ見つめる。
そして、最後に。
絡みつくようなねちっこい笑顔でこういった。
「いい名前ですねぇ」
次に育てる花の名は。
白い、白い、ジャスミンの花。
来週は旅行にいくので更新できないかもです。




