なんか、とんでも執行みたい。
超どうでもいいふざけすぎ回。本編じゃありえない執行です。
それは遙かなる未来。
ここに一人の拷問士と呼ばれる少女がいた。
「はい、次の罪人ー」
狭い室内、その壁の一面に広がる大きなモニター。
彼女はその画面に向かってそう語りかけた。
「カシコマリマシタ」
機械の音声がそれに答える。
次の瞬間、モニターが情報を映し出す。
罪人の顔、年齢、身体的な特徴、そして罪状などのデータ。
「ふむふむ、人型アンドロイドへの虐待破壊でレベル5だね」
この時代の犯罪率は0.数%。
それもそのはず、今や、人々は個別管理され行動が監視されている。
人の行動はつねに記録され、制限されていた。
「えっと、この人の執行は・・・・・・」
人が人を裁く時代も終わって久しい。
AIによる完全なる司法制度の前には弁護士や検察、裁判官など必要ないのだ。
膨大な過去の判例を瞬時に読み込み、その罪にあった最適な判決を下す。
「隕石の刑に処す」
そういうわけで、この少女の拷問士という職業もとっくに廃れていた。
この名称は昔の名残、彼女の仕事は最終確認と、ただボタンを押すだけ。
「ゴウモンシニヨルサイシュウチェックヲカクニンシマシタ。コレヨリシッコウヲカイシシマス」
ここからでは見えないが執行を受ける罪人が隔離されている施設から消えた。
モニターが切り替える。
罪人が強制的に飛ばされた場所の映像へと切り替わった。
「な、何する気だ、おい、助けてくれー」
端が見えないだだっ広い荒野、そのど真ん中で叫んでいる男。
男は周囲をキョロキョロ慌てた様子で見回すも、そこには何もない。
しかし、すぐに異変に気付く事になる。
それにより自然と天を見上げる男。
「あ、あ、あ、な、なんだあれ」
大きな岩の塊が男目掛けて降ってきたのだ。
空の色が変わり出す。
輝きは距離が近づくにつれどんどん増していく。
「あ、は、早く、逃げ・・・・・・」
無駄な足掻き、しかし、男はその場から離れようと必至に足を出した。
「・・・・・・ぎゃあ」
それを見越してか、男の足に架けてあった輪っかが激しい電流を流した。
堪らず転げる男。
その間にも、空の物体は猛スピードで迫ってきていた。
このまま、男は隕石に押し潰されて死ぬのか。
答えは否。
今、この迫ってくる塊の速度は時速四万以上。
それは大気を圧縮し、その空気は熱を帯びる。
その熱は快適だった周囲の気温を一変させ、一気に1600度へと急上昇する。
しかし、この温度でも発火するまでの時間は与えられない。
短い時間の中、体はガスになることもなく、隕石が衝突する前に炭に変わる。
数秒後、部屋のモニターにひどいノイズが入った。
「どうやら無事直撃したみたいだね。事後を確認するまでもないけど、しばらく経ったら見てみよう」
ひとまず執行終了。
犯罪は減ったとはいえ、特定の年に数回はこうして執行作業がある。
本日の少女の仕事はまだ残っていた。
「はい、ちゃっちゃっと次にいこうか」
少女の声に画面が反応。
次への罪人の情報が映し出された。
「次は、自分の娘を撮影し画像を所持したとして児童ポルノ所持違反でレベル4。執行方法は・・・・・・」
選択された罪が少女の目に入る。
「粒子加速器の中にぶん投げるの刑」
少女が文字をなぞるように口にしてボタンを押す。
それに執行管理AIが答える。
「ゴウモンシニヨルサイシュウチェックヲカクニンシマシタ。コレヨリシッコウヲカイシシマス」
これも罪人が隔離されている施設から瞬間移動。
昔使われていて今は執行用に改良された量子加速器の中へと運ばれる。
この加速器は今では大したことはないが、当時最高の出力をもっていたもの。
一周約27キロの円形のトンネルの中で、陽子を0.99999999cにまで加速させ正面衝突させられる。中は約1000億個の陽子が束になって流れていて、これを光速に近い速度まで加速する事により途轍もない量のエネルギーを持つことになる。
「これはとにかく凄いエネルギーだ。詳しく説明するととんでもなく長くなるからはしょるけど、とにかく凄いエネルギーなんだよ、これ」
モニター前で少女が呟く。現場はカーボンファイバーの出口に当たる音や、ビームダンプなどの要因で凄い音を発しているが、ここでは聞こえない。
男は例によって全く動けない状態で放置。
そんなこんなで、2秒間で3000発近い陽子ビームが男を襲ったのだった。
高速の粒子は強い放射能を持つ。だが、原子レベルでみれば人間の体などスカスカ。ほとんどは当たる事なくすり抜ける。それでも少しでも当たればそれは死に直結する。
陽子ビームを受けると透過性の強い中性子が発生し体を駆け巡り全身が被爆する。
チェレンコフ放射により罪人の視界が青く広がる。陽子のエネルギーで体だけが熱せられ、胃を通過することで吐き気を起こさる。皮膚には火傷、呼吸困難、そして意識が無くなる。
「まぁ、結果としては大がかりな割りにそんなに派手な事にはならないんだけどね」
いづれにせよ、男の白血球はゼロに等しくなり、免疫系が働かなくなる。臓器の損傷は修復不可能。男は苦しみながら数週間で死に至る。
しかし、それは昔だったらの話。今は、途中からの治療で元の生活に戻れるほど回復する。
「さて、今日はもう一件やっちゃおうか」
「カシコマリマシタ」
本日三件目。
彼女の前に映し出された罪人は。
「人を殺す描写を書いた作家だって。不適切描写違反でレベルは5。はえー、まだこんな人いるんだねぇ」
この時代、暴力的な表現、性的な表現は激しく規制されていた。
ミステリー、ホラー、サスペンスなどの映画、小説は勿論の事、はてやアン〇〇マンや、プリ〇〇アなんてアニメもとっくの昔に対象になっていた。
「この前、パンチラを書いた破廉恥変態漫画家を執行したけど、今日のも酷すぎる。なんてバイオレンスなんだ。まるで昔の人間の野蛮的な感性だっ」
少女はこの執行制度の事は完全に棚に上げて怒りに燃えていた。
「ブラックホールの中にぶん投げる刑に処すっ」
そう宣言、瞬間、罪人はブラックホールの中へ。
これは究極の島流し刑。
なんせ二度と戻ってこれないから。
このブラックホール内は水素がほとんどない純粋な真空。
まず、事象の地平線まで高速に近いスピードで落ちていく。
中では罪人の体が引き延ばされる。
重力源の距離で重力の加速度は異なる。その差により潮汐力が生まれる。
最初は、体の柔らかい部分、お腹辺りから下半身がちぎれる。
しかし、まだ重要な臓器は残っているので死ぬまでには至らない。
あくまでその瞬間だけ。
中心に近づくにつれて潮汐力は大きくなる。
なので、罪人の体はどんどん細切りに引き裂かれていく。
やがて特異点に向かうのは罪人の頭部だけになり、それも次第に伸ばされ締め付けられ粉々に。
これらは一瞬の出来事で、もし観測していたなら罪人は消えたように映る。
最終的に罪人の体は重力により分子レベルまでバラバラになり、原子となって特異点を目指していく。
「はぁ、これでお仕事お終い」
少女は一息ついて、体を伸ばした。
「コーヒーお願い」
独り言にようにそう口にすると。
テーブルに湯気が立ちこめるカップが出現した。
それを口にして。
「次の出勤日は、14年後か。次は何人いることやら・・・・・・」
14年後。人の寿命が劇的に延びた現代では、それほど先の事ではない。
年々減っているとはいえ、犯罪者がいる限り彼女は働き続ける。
ただ、ボタンを押すだけだとしても。
サッカーの時間に間に合った。




