また今年もこの日がきたの、だ。
命日記念的なもの。
その日は朝から雨が降っていた。
黒いスーツ、黒いネクタイをつけ。
私は、ある場所へと。
「姉御、今年も来たの、だ」
傘を差し、私は一人。
いくつかの墓標に混じり、ひっそりと置かれていたのは。
姉御の小さな墓。
供えや、手向けの花は一つもなく。
ただ、寂しく、ただ、そこにあるだけの。
「・・・・・・ここに来るのは、毎回、私、だけ、なのだ」
そう、姉御は結局は犯罪者。本来レベルブレイカーのような者は身内もなく、いたとしてもその関係性は極力拒否するだろう。供養されたというだけで破格の恩恵を受けたのだ。
そんな訳で、この場所を知ってる者はごく僅か、それでも。
レンレン、そしてちゃんリョナさんは立場上、ここに来るのは躊躇われる。
犯罪者を捕まえる者、そして裁く者として来てはいけないのだ。
それは私も理解しているはずなのだが。
やはり、心の中では・・・・・・。
「姉御、すまんのだ。花は私の分だけで、少し物足りないかもしれないが・・・・・・」
墓に花を置いた。
本当はもっと華やかにしたいけど、私が一人でいっぱいにするのは意味が違うから。
手を合わせて、一言二言会話する。
立ち上がり。
「・・・・・・じゃあ、また、来るのだ」
私が帰ったら姉御は寂しいと思ってくれるだろうか。
でも、長居すると、今度は私が離れられなくなる。
来た道は引き返さない、ここは入り口と出口が別にあるからこのまま奥に進む。
後ろ髪を引かれながら、足を進める。
そこで。
僅かな気配。
私はとっさに他の墓の影に隠れた。
なぜかは分からない。
でも、この時期にここに来る者はいままで私以外見た事は無かったから。
周囲と溶け込むように身を隠しながら覗き込む。
そこには。
「・・・・・・円さん、来たみたいですね」
傘を差す、白いワンピースの女。
(レンレン、なのだ)
私が初めて誘ったときレンレンはこんな事を言っていた。
「ドールコレクターのお墓参り? そんなの私が行ける訳ないじゃないですかぁ。私は犯罪者キラーですよ。例え一時的に協力関係にあったとはいえ、立場的にそんな事できるわけありません」
そうきっぱり冷たい態度で断っていたのに。
レンレンも持ってきた花を置いた。
私と同じようにしゃがんで手を合わせたのち立ち上げる。
「・・・・・・円さんの事を報告しておきましょうか。貴方の妹はとても優秀です。流石貴方が見込んだだけの事はありますね。本人に言うと調子にのるので黙ってますが、よく働いてくれてます。逆に貴方と一緒にやっていた頃は大変でした。貴方はすぐ私の裏をかこうとするし、こちらの指示を無視して勝手に動いたり、なので正直敵よりも貴方の方が厄介で、つねに見ていなければなりませんでした。・・・・・・でもそれはそれで楽しかった。貴方の思考を読むのは難しくも心躍ってたのです。なので今は少し物足りません。貴方という最大の好敵手を失って、なんだか心に穴が開いたようです」
レンレンは寂しそうな横顔を見せていた。
そんな風に思っていたの、か。私の前ではつねに余裕な表情で感情はなかなか表に出さないレンレンが。
「私はこれからまだまだ上に行きます。もう誰も追いつけない程高く。その時、言いますよ。私には唯一勝てなかった者がいたと、それはドールコレクターと呼ばれた殺人鬼だったと。それだと相対的に貴方の評価も上がってしまいますね、でもしょうがないです、もう私はこの先貴方にはどう頑張っても勝てないのだから・・・・・・」
ここでレンレンが振り向いた。
それを察して直前で身を潜める。
レンレンは最後にここに来た事は円さんには内緒ですよ、とそう言って去っていった。
雨は小雨に変わっていた。
そして、私はまた別の気配を察する。
今度は複数。
あれは・・・・・・。
「こんにちは。お久しぶりですね」
「よぉ、来てやったぜ」
「本当しょうが無くだけど」
キラキラ、バール、目玉。
殺人鬼連合。
なんであいつらが。
それぞれの手には花が抱かれている。
てことは。
「どうせ、ここに来るのは切り裂きさん位でしょう」
「あいつだけじゃ物足りないだろうからな」
「ん、あいつ、二つも花置いていったのか」
そう言いながら、三人は花を墓標の前に差し出す。
「貴方は僕達の敵でしたが・・・・・・」
「同じ殺人鬼としては一目置くしか無かった」
「アタシなんか相当痛い目にあったけど・・・・・・」
あいつら。
シスト達の頭が下がる。
そして。
「そんな貴方に敬意をこめて・・・・・・」
目を瞑り手を合わせながら。
「ドールコレクターにっ」
「ドールコレクターにっ」
「ドールコレクターにっ」
三人が姉御の名を呼び、祈りを捧げてくれた。
その瞬間、熱い感情がわき起こってくる。
あいつら、姉御に散々辛酸を飲まされたはずなのに。
殺人鬼、ドールコレクターとしての姉御を認めていてくれた。
「では、僕達はこれで、あぁ、あの約束はちゃんと守るのでご安心ください」
「今のあいつはもうお前の後を追うだけの頃とは違うから、大丈夫だろうが・・・・・・」
「それでも、あんたの忘れ形見はアタシらがちゃんと見ていてあげるよ」
約束ってなんなのだ。
それはそうと、あいつら。
ぐっ、別に嬉しくないの、だ。見ているとか、余計なお世話なの、だ。
想いとは別に、今度は目頭が熱くなってきた。
三人が去る頃には、雨も完全に止んでいたのだ。
少し、高ぶっていた心を落ち着かせて、私も帰ろうと。
そう思った時だった。
新たな気配が生まれる。
その人は、畳んだ傘と、そして花を持って。
「やぁ、葵ちゃん」
まさか、一番来て欲しかったけど、一番来ないと思っていた人が。
それを見た瞬間、私の視界は滲んでいたのだ。
「本当はね。来ちゃ駄目だって、僕が来るのはおかしいって、そう思ってたけど・・・・・・」
その人は、花を供えながら。
「今日の僕はただの一人の人間で、君もその一般人の友人・・・・・・って事でいいよね」
雲の切れ間から光りが差し始める。
あぁ、姉御、嬉しい、のか。
喜んでいる、のか。
「君の妹は蓮華ちゃんの下で随分頑張ってるみたいだ。そんなだから僕も大忙しさ。あの子は・・・多分、僕を恨んでいるだろうね。あの子から大切な者を奪った僕を。でもそれが僕の仕事で、あの時も随分苦労したんだよ。君のようなビックネームの執行は拷問士としても大きな功績になるからね。だから他の拷問士が皆手を上げた、元々僕が担当だったってのにね。でも、僕は頑なにそれを拒否した。君は僕の担当だ、最後まできっちりやる必要があるって。それに君はそれを望んでいたから。先輩達の圧力も全部押しのけて、僕が執行した。それが僕のできる最大の君への恩返し。そう思ってた。君は僕にとって色んな意味で特別で・・・・・・執行の時は口には出さなかったけど・・・・・・」
ここでちゃんリョナさんが立ち上がった。
「君の事は大嫌いだった・・・・・・」
雲がさっと開け青空が広がっていく。
「でもね・・・・・・」
太陽の光が周囲を照らして。
「嫌いじゃなかった」
横顔が微笑んでいるように見えた、それは気のせいでは。
私は、隠れながらも、ちゃんリョナさんに向かって頭を下げた。
それにより涙がぽたりぽたりと地面に落ちた。
ありがとう、なの、だ。
姉御を、見ていてくれて。
姉御の願いを叶えてくれて。
空は晴れ渡り。
姉御の墓標には。
「はは、姉御、花がいっぱいなの、だ」
再び、私は、姉御の所へ。
私はいつも一番最初にきてすぐ帰ってたから知らなかったの、だ。
いつもはただただ静寂と私のすすり泣く声だけがそこにはあった。
でも、今は花に囲まれ、私の表情もとても穏やかで。
姉御はもういない。
でも、私の中だけじゃなく。
まだ、消えずに残っていた。
血が、血が足りない。。




