ういうい、またイベントなのだ。
ういうい、円なのだ。
それは数週間前の事。
「おや、円さん、また犯罪者クラブからイベント開催のお知らせが来てますよ?」
レンレンの仕事場兼住居で漫画を読んでいた私にそう声がかかった。
ソファに体を預けて、本からは目を離さず、私は適当に返す。
「うあ~? 全く興味ないの、だ。どうせ賞金が出るくらい、だ。私には間に合ってる、のだ」
犯罪者クラブのイベントは、いわば金持ちの道楽。ここのイベント賞金は破格だが、その分リスクも大きい。普通に死ぬのだ。
「そうですね、イベント攻略報酬は3千万です。あ、でも、副賞もありますよ」
「ん、副賞~?」
三千万、私の命はそんなに安くないのだ。どうせ、副賞も大したものでは・・・・・・。
「お、副賞の一つ。これはなんと、ドールコレクターのナイフですって」
「な、なんだってぇえええええええええええええ!?」
それを聞いた私は漫画を放り投げ、ソファから飛び起きたのだ。
こうして、私はイベントに参加する事に。
今回のルールはこうだ。
参加資格。犯罪者クラブのメンバー。クラスは問わず。
ただし、タッグ、コンビで活動している犯罪者に限る。
「ようは、二人組で参加しろって事、なの、だ」
ここは、犯罪者クラブが所有する小島の一つ。
イベントや選考など、色々使われている場所だ。
「で、お姉ちゃん、今回はなにをすればいいの?」
お相手は白頭巾に頼んだのだ。レンレンでも良かったが、あいつは自分の興味がないことには石のように動かないのだ。
「私もよく分からないが、なんでもコンビの信頼性を試すような内容だった、のだ」
詳しくは現地で説明するとの事。
会場についた私達。その時にはもう他の参加者がわんさかいたのだ。
ちょっとした遊園地くらいの敷地に、いくつもの建物が点在していて、私達が入ったのは入り口に近いその内の一つ。
「あれは・・・・・・切り裂き・・・・・・」
「あの、ドールコレクターの・・・・・・」
「じゃあ、隣はレッドドット・・・・・・」
会場内がざわつく。私達の顔は知らなくてもその風貌で分かったか。
金髪、歯はギザギザ、眠そうな目、そして赤と青のストライプドレス。
白いレインコートの通称白頭巾。
こんな格好の二人組は私達くらい、だ。
全部で200人くらいか。ざっと見た所顔見知りはいない。もしかして、バールと目玉が参加してるかと思ったが、そもそもあいつらに出る意味はないか。
「お集まりの皆様、ようこそお越し下さいました。今回はコンビ限定って事で、大いに張り切っていきまっしょっいっ!」
進行役の銀縁眼鏡の女が、ハイテンションで叫んだ。
周りの参加者達も、オーと歓声を上げた。なかなかノリがいいのだ。
「では、今回のルールを説明しましょう。参加者の皆様には、コンビ愛を示して頂きますっ! どれだけ相手を信用できるか、しているかっ! それを試すゲームでございますっ!」
またオーという歓声。
「つきましては、二人の内、どちらかを試す方、そしてもう片方を試される方に別れていただきます」
うあ? どう言うことなの、だ。
「まぁ、とりあえず、やってみれば分かりますっ! あ、後、普通に死ぬかもしれませんのでそこら辺はご了承くださいませっ!」
やってみれば分かるて。トランプか。
そして、さらっと死ぬかもしれませんいうとるで、なのだ。
「さぁ、皆さん、第一会場に向かいましょうっ!」
まだよく理解してないまま、進行役について行くことに。
第一会場に入る前に、それぞれのコンビにはチャンネルが違う通信機が渡された。お互い耳にかけてやり取りをする感じらしい。
「はい、もうここで、指示役と、実行役に別れて頂きます。これから試練を与えますので、指示役は的確な判断を、そして実行役はその指示に従ってください。一応、一回だけパスが用意されております。これは無理だと思った時にお使いくださいっ!」
ここに来てもまだ完全にルールを把握してないが。
「どうする、白頭巾、お前の好きな方にするのだ」
どちらが今のとこ適材適所か分からないのだ。
「う~ん、じゃあ、お姉ちゃんが指示役で、私が実行役になるよ」
「そうか・・・・・・、分かったのだ」
正直、どちらも自分がやりたいくらいだ。的確な指示を私が出したとしてそれを白頭巾が実行できるか。指示が無理難題だった場合、それをこなせるか少々不安ではある。
逆に私の指示が間違っていた場合も、その責任は自分に圧しかかる、白頭巾を危険にさらしてしまう。
これが姉御だったら。私はどちらを任せても安心しただろう。
姉御の指示が間違うわけがなく、姉御が実行できない事は一つもない。
これは白頭巾に失礼か。また私は少し弱気になっていたようだ。
あいつは優秀。そして自分もその姉御の妹なの、だ。
今は、自分も白頭巾も信用する、べきか。
「さぁ、早速始めてみまっしょっいっ!」
私達は、参加者全員が入っても余りある広いスペースに連れてこられた。
中央はガラスで区切られており、指示役と実行役に離された、のだ。
さて、なにをさせられる事やら。
「では、最初の試練ですっ! 今から、実行役がいるスペースの壁から火炎放射器がいくつも出てきます。このままではみんな丸焼きだぁあああああああ、じゃあ、どうするかっ!? そこにあるいくつかの素材で身を守れっ! それを選ぶのは、そっちの指示役だぁあああああああああ!」
あっちの隅に箱がいくつか置いてある。
それぞれの箱には素材の名前が。
箱1、合成繊維。
箱2、あらかじめ水を吸った紙おむつ。
箱3、アルミホイル。
箱4,これも水でたっぷり浸したバスタオル。
「さぁ、指示役は選んでくださいっ! 実行役はそれを実行してください、お互い自信がない場合はいきなりパスするのもオーケーですっ! ただし指示役の選択は絶対です。例え自分が違うと思ってもそれに従ってください。全ての会話はこちらで把握しております。さぁ、いまから10分後に火炎が5分間容赦なく皆様に襲いかかりますっ!」
あちらの壁や天井から、いっぱい火炎放射器が出てきたのだ。
あれが一斉に火を噴いたら、中の参加者は一溜まりもないだろう。
「白頭巾、紙おむつなのだ。それを体中、隙間ないくらいに取り付ける、のだっ!」
火炎放射の炎は1093度に達する。それが直接素材を焼き付けたとき。
それに堪えられるのは、私の選んだ、水をたっぷり吸った紙おむつだけ。
「わかった」
白頭巾が急いで、体に紙おむつを装着していく。テープ式のやつだからなんとかうまく貼り付けるの、だ。一応、スタッフも何人か中にいてサポートしてくれていた。
「はい、五分経ちましたっ! それではファイヤーっ!」
何組かがパスをしたが、ほとんどの参加者が指示役の選んだ素材を身につけた。
そして、ガラスの向こう側が炎で真っ赤に染まったのだ。
「あがあああああああきゃああああああああああああああ」
「あ、ああう゛ぁああああああああぶあぶあずにゃああああああ」
おぅ、早速何人かが火だるまになって悲鳴を上げているのだ。
不正解を引いた者の火だるまダンスを5分間見た後に放射が収まる。
「は~い、お疲れ様でした~、さて、生き残ったのは・・・・・・」
銀縁眼鏡の女が外から確認する。
「おっと、残ったのはパスも含め33人。ここで一気に三分の一まで減りましたぁ!」
濡れたバスタオルやアルミホイルを選んだ奴が多かったみたいだ。
たしかに水を含んだバスタオルもある程度なら防げるが、あの火力では一切無駄なのだ。
アルミホイルの方は全く無意味。
紙おむつには高分子ポリマーが使われている。この素材は親水性があり、水を沢山吸収する。ゼリー状の粒となり、その何千ものゼリーの粒が炎の熱を奪う。高分子ポリマーは自重の800倍の水を含むことができる。白頭巾は水の防壁に守られていたってことなのだ。
「さぁ、どんどん行きましょうっ! 次の会場にご案内しまーすっ!」
実行役を失った参加者はここで失格。
正解したメンバーとパスしたコンビだけが次のステージに。
「さぁ、次はこれだぁあああああああああ!」
今度も同じような建物。中央も同じガラスで割かれ。
参加者の前にあるのは、熱されたフライパン。すぐ近くには水の入ったバケツ。
「さて、このフライパンの中の液体は溶けた鉛でございます。温度はなんと370度! 中に鉄の玉が入っております。それを今から取り出して、このバケツの中にいれてくださいっ!」
進行役の女がそう叫ぶと、さすがに参加者達に動揺が広がる。
「え、素手で?」「ど、道具あるんだろ?」「いや、無理だろ」
実行役が騒ぎ出す。こちらを向いて指示役に手を振って拒否する者も多数。
「勿論、素手ででございます。道具はございませんっ! さぁ、ここでパスしても構いませんっ! さぁ、指示役はご決断をっ!」
白頭巾がこちらを見た。その顔に不安な様子はない。
「どうする、お姉ちゃん。お姉ちゃんがやれというなら私はやるけど」
そのまま手をいれたら、手はからっと焼き上がるだろう。
「白頭巾、やるのだ」
他の参加者は、これを度胸試しや忠誠心などを試す試験と思ってる者もいるだろう。
だが、ちゃんと理屈がわかればなにも問題ではない。
「ただし、私のいう通りにやるの、だ」
「わかった」
この2次試験、結局参加したコンビは10組。残りはパスした。
「では、同時に行いますっ! いざ、手を入れてボールをバケツへっ!」
掛け声と共に、実行役の手が370度の鉛の中へと。
「ひゃがあああああああああああああああ」
「あぶそれーあああああぎいっっっっ」
入れた瞬間、叫喚が起こった。
6人ほどが、ボールを取るどころではなくすぐに手を出した。急いで水の入ったバケツに手を突っこむ。だけど、一瞬でもつけた指はもう酷い状態なのだ。
そして白頭巾は。
声一つあげずに熱された鉛の中から鉄球を素早く取り出し、バケツの中へ。
よし。クリアなのだ。
白頭巾は涼しい顔をしているが、これは別に我慢しているとか不感症とかいう訳ではないのだ。
水の沸点は100度、対して液体鉛の熱はその三倍。
では、なぜそんなものに手を入れて平気だったのか。
それはライデンフロスト現象によるもの、なのだ。
手を水につけると水の膜ができる。水の膜は鉛にいれた瞬間に蒸発、その後気体になって熱の伝道を阻害する。つまり気体の手袋が鉛の熱から守ってくれたのだ。
私はそれを踏まえて、最初に白頭巾の手をバケツの水に浸すように指示しておいたのだ。
これをクリアしたのは5人。
パスしたメンバーも含め、残り28組。
次の会場もほぼ同じ。
このステージの実行役はお辞儀をするように90度体を曲げられた状態で固定され縛られたのだ。
顔は地面を見るような姿勢。その下にあるのは。
「さて、実行役の皆様の顔の下にありますのは、45キロある金床です。これには少し窪みがありまして、ここに火薬を少量入れます、まずはご覧下さいっ!」
スタッフが参加者の前にある金床の窪みに火薬を入れていく。そしてすぐに火をつけると目の前で爆発。ただその規模は非常に小さく、目の前で爆発した実行役も少し驚いたくらいで済んだ。
「さぁ、ここからが本番ですっ! 火薬は今と同量、しかし、その上に同じ大きさの金床を載せて爆発させますっ! さぁその場合どうなるかぁー、指示役は提案してくださいっ!」
一度パスすれば残りは全部参加しなければならない。
ここまでほとんどのコンビは一回だけのパスを使っている。
なので、まだ進む気ならこれはやるしかない。
だが、私は。
「白頭巾、これはパスを使うの、だ」
「わかった」
白頭巾がスタッフにその旨を伝えると、拘束が解かれた。
だが、ほとんどの実行役はそのまま。
最初の爆発が微々たるものだったから、爆発させても大した事は起こらない、そう思っているのか。
火薬は開放された空間ではゆっくり爆発する。
一方、閉じ込められると燃焼速度が上がり、その爆発力は一気に・・・・・・。
「さぁ、点火しますっ!」
導火線がゆっくり金床に近づいて行き。
それが到達した瞬間。
重さ45キロの金床が。
とんでもない勢いで宙に吹っ飛んだ。
凄まじい勢いで飛び出した金床が向かったのは、実行役の顔面。
「が」「あ」
今度は悲鳴すら上がらない。
一瞬で顔が潰れたから。
垂れ下がる顔からは歯や血が落ちていく。
やれやれ、ここの運営はとことん性格が悪いのだ。
一回だけのパスはここでしか使えなかった。
他で使った時点で終わり。
ここまで残ったコンビは私達もいれて7組。
「さぁ、次が最終テストですっ!」
これもさっきと同じような会場。
中央は上、下、端の端までガラス。
「ここにいる皆様はすでにパスを使い切っております。なので、これはもう参加するか棄権するかしかございませんっ!」
ここまで来て棄権する参加者はいないのだ。
「今から、実行役の皆様を椅子に固定します。そして50口径の銃で撃とうと思います」
おいおい、どういう事なのだ。
「でもご心配いりません。ちゃんと、実行役の皆様の前には盾をご用意しました。そこで指示役の方はこの中から選んでくださいませっ!」
そういうことか。これも選択を誤れば、相棒の頭は吹き飛ぶのだ。
運ばれてきたのは。
1、厚さ6ミリのスチール板。
2、レンガ壁。
3、かなり長めに纏められた干し草。
4、これもかなり大きめの水槽。
「お姉ちゃん、どうする?」
50口径ってのは、もう人の指よりもでかい弾丸なのだ。
それを防げるのは、この中で一つ。
「水槽を選ぶの、だ」
各自選んだ盾が目の前に。
スチールを選んだのが二人。
レンガが一人。
そして水槽が4人。
銃が実行役の頭を狙って向けられた。
引き金は引かれ。
その弾丸は鋭いナイフのように。
何人かの頭を貫き、その瞬間、頭部を粉砕し周囲に肉片が飛び散った。
「白頭巾、お疲れなのだ」
生き残ったのは白頭巾と他三名。
この者達の頭は健在、銃弾は見事に途中で勢いを止めた。
水は密度が高く圧縮するのが難しい。
空気に比べ水は約800倍も密度が高く、弾の速度を落とせた。
プールの中だと体にかなりの抵抗が生まれるのと同じこと。
「皆様ぁああああああああああああああっ! おめでとうございますっ!」
進行役の声が室内に響く。
「残ったのは4組っ! なので賞金、副賞はこの4組で山分けとなりますっ!」
そうなのか。まぁ私は賞金はいらないので・・・・・・。
スタッフが指示役の私達の方に賞金と賞品を載せた台を運んできた。
私のお目当ての・・・・・・。
あった。
姉御のナイフ。
私は我先にそのナイフへと手を伸ばす。
だが、それをマイクの声が遮った。
「しかし、しかし、その限りではございませんっ!」
その声は、参加者に向けられたもので。
「別に分け合うのが嫌な方は減らせばいいのですっ! 自分一人になればこれらは全て貴方の物でぇええええええええええええええすっっ!」
やれやれ、とことん性格の悪い運営なのだ。
困った事に、他の参加者がそれを真に受けたようで。
「そ、そうだな。賞金は勿論、賞品も売れば高くなるような物ばっかだ」
「は、その通りだ、ここまできて四分の一はないぜ」
「何言ってるの、ここにあるのは全部私の物よぉおおお」
目をぎらつかせ、それぞれ得物を取り出した。
「そうなりゃ、まず最初に殺すのは・・・・・・」
「だな、ここで唯一のプラチナ会員の・・・・・・」
「いくら貴方でも三人相手じゃどうしようもないわよねっ!」
はぁ、人の欲とはどうにも醜く、それでいて不利益なのだ。
私は、三人を無視し、再びあの商品台に目を移す。
今度こそしっかり手を伸ばして。
触れた瞬間、姉御を感じた。
これはまさに姉御のナイフ。
姉御が握り、姉御が振り、姉御が刺し、姉御がいくつもの命を散らしたナイフ。
握りしめ。
振り返る。
「えっ」「あっ」「うへ」
喉を切り裂く。
一度だけ息を吐き、三回腕を振り抜いた。
三人が崩れていく。
「うくく、姉御のナイフはこの手によく馴染む」
そのまま歩いて、白頭巾の元へ。
「お姉ちゃんっ!」
あちらもこちらへ。
ガラス越しに手をつける。
二人の手が重なって。
「さぁ、帰るのだ。白頭巾、ありがとう、なのだ、お前のお陰で、これを取り戻せた」
ナイフが血で赤く光っている。
姉御、このナイフでこれからいっぱい人を殺すの、だ。
姉御はもっともっと人を殺したかったはず。
だから、姉御の意志は。
私が引き継ぐの、だ。
いつか私も姉御の背中に追いつこう。
だから、もう少しだけ、待ってて欲しい、のだ。




