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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第009話 コーヒーが来るまでに

『まず下ろせ。持ち方を変える』


「おう!」


 ヴィクターが冷蔵庫を床へ戻した。


 立川の喫茶店ミナト。その裏の物置で、ミカはポチを入口の正面へ飛ばした。配信も、店にいるカインとの通信も続いている。


 物置から出た先には、店の壁に沿った細い通路がある。突き当たりを曲がれば、庭の回収場所だ。


 そこまで運べば、昼食が待っている。


『ロッカは外から底を持て。ヴィクターは後ろへ回れ。二人で前と後ろを持つ』


「ああ。横に腕を出さなきゃいいんだな」


 ロッカが冷蔵庫の下を覗き込み、すぐに顔を上げた。


「ミカ、これも持っててくれ」


 裏から垂れた電源コードが、床に輪を作っていた。


「あ、待って。まとめちゃいます」


 ミカは棚にあった荷造り用のひもを借りた。コードを束ねて背中側へ留め、冷蔵庫の扉も開かないように縛る。


「よし。これなら引っかからない」


「助かる!」


 ヴィクターが笑った。


 ロッカは入口の外へしゃがみ、底の端へ両手を入れた。ヴィクターは物置の中で、反対側を持つ。


「こっちはいいぞ」


「俺もだ!」


 銀色の箱が浮いた。


 二人は冷蔵庫を挟んで、ゆっくり前へ進む。今度は横に腕が出ていない。


「通るじゃねえか!」


「だから、持つ前に見れば――」


「俺、学んだぞ!」


 ヴィクターが胸を張りかけた。


「今は冷蔵庫見ててください!」


 ミカは端末を確かめた。画面には、冷蔵庫の両脇から二人の顔が覗いている。


 人の顔ばかり撮る、いつもの癖だった。


『ミカ、もう少し下だ。箱の下と、扉の枠を入れろ』


「こうですか?」


 ポチを低い位置へ移す。


 冷蔵庫の底が敷居を越えた。ヴィクターも肩を斜めにして、物置から出てくる。


『そこで一度下ろせ』


「待って」


 ティーラがロッカの脇へ入った。


「下ろすなら、もっと先」


 彼女が靴先で、通路の板を軽く叩く。


 こん、と乾いた音がした。板の端には大きな割れ目があり、その下は雨水を流す溝になっている。


 ロッカの身体と冷蔵庫に隠れて、ミカからも見えていなかった。


「カインさん、ここ、古い板が渡してあります」


 ミカはポチを横へ回した。板から、少し先の石畳までを映す。


『……俺の見落としだ。石の上まで運ぼう』


「ボク、前を持つ」


 ティーラが冷蔵庫の底へ手を添えた。


「ロッカ、先に出て」


「頼む」


 ロッカが手を抜き、板を跨いで先へ出る。


 冷蔵庫は、傾きもしなかった。


 ティーラが支えたまま、足元を確かめて一歩進む。その手を見て、ミカは端末を持ち直した。


 細い腕だ。けれど、重い箱の片側を持っても、顔色一つ変えていない。


 試験場の数字より、今の方がよく分かった。


「ティーラ、私の方も見てくれる?」


「うん。ミカ、そこは踏まないで」


「ありがとう」


 ミカも割れた板を避けた。


  石畳へ出ると、ロッカがもう一度底を持った。三人で冷蔵庫を支え、そのまま通路の先へ進む。


 ポチがミカの横へ上がってきた。


「コメントです。『その女の子も持てるんかい』」


「ティーラです。さっき、探索者の登録をしてきました」


 ミカが紹介すると、ティーラはカメラへ顔を向けた。


「よろしく」


 画面に、コメントが続いた。


〈竜を止めた人の隣も強いのか〉

〈冷蔵庫運ぶのに戦力集めすぎ〉


「私も、ここまでとは思ってなかったです」


 ミカは笑って、レンズの向こうへ話した。


「大きい方がヴィクターさん。指示しているのがカインさんです。今日は皆で初めての仕事をしてます」


『紹介は歩きながらでいい。次は曲がり角だ』


「はい。今、映します」


 ミカが先へ進み、ポチを通路の上へ飛ばす。


 突き当たりは塀で塞がれ、その手前から庭へ道が折れていた。ミカは角の内側に立たず、庭へ抜けてから振り返る。


 冷蔵庫の上も、三人の足元も、今度は一緒に映っていた。


『そこで止まれ。ティーラが庭側を持つ。ロッカは少し離して、箱を回せ』


「こっちへ向けるんだな」


『そう。ヴィクター、その位置で待て』


「おう!」


 ティーラが底を受け取る。ロッカが冷蔵庫の横へ手を当て、ゆっくり向きを変えた。


 角を越えたところで、ミカが声をかける。


「ヴィクターさん、腕、もう少し身体に寄せてください。塀に当たりそうです」


「おっと!」


 太い腕が引っ込んだ。


『よし。そのまま庭へ出ろ』


 三人が通路を抜けた。


 庭の端には、回収用の青いシートが広げてある。


「せーの」


 ロッカの声で、三人が膝を曲げる。


 冷蔵庫の底がシートへ触れた。手が離れ、銀色の箱だけが残る。


「……着いた」


 ミカは扉と角を確かめた。へこみも、擦った傷も見当たらない。


「運べました。壊してません!」


「はっは! 楽勝だったな!」


「最初、入口広げようとしてましたよね?」


「広げずに済んだ!」


 ロッカが笑い、ティーラも口元を緩めた。


 端末から、小さく息を吐く音がした。


『全員、手は挟んでないな。じゃあ終わりだ』


 ミカは置いた冷蔵庫と、並んだ三人を映した。


「というわけで、本日の依頼、完了です!」


「肉だ!」


 ヴィクターが両腕を上げた。ティーラも真っ先に店の方を見る。


「皆さん、見てくれてありがとうございました。私たちもお昼をいただくので、今日はここまで。またね!」


 配信と録画を止め、ミカはポチに今日の映像を保存するよう頼んだ。


 カインとの通話も切って、四人で店へ戻る。


 手を洗って席へ戻る頃には、窓際のテーブルに皿が並んでいた。隣の二人掛けにも一皿ある。


 カインが端末を脇へ寄せ、サンドへ手を伸ばしていた。


「カインさん、もう食べてるんですか」


「冷めるだろ」


「働いた後のご飯って、こういうことかあ」


 ミカが言うと、カインは一口食べてからこちらを見た。


「俺の分まで運んでくれて、ご苦労だった」


「それ、一回言ってみたかったんですね?」


 返事の代わりに、コーヒーを飲んだ。


 ミカも笑いながら席へ座る。ロッカは鞄を膝へ戻し、ティーラと一緒にサンドを両手で持った。


 一口かじると、パンの間から肉汁が落ちた。


「うまっ」


 ロッカが皿へ顔を寄せる。


 隣では、ティーラが黙って二口目を食べていた。


「どう? お仕事の後だと、少し違うでしょう」


 リラがコーヒーを置きながら尋ねた。


「うん。ここ、ずっと来たい」


 ティーラが答えると、リラは嬉しそうに笑った。


 ミカはカップを両手で包んだ。


 今朝は、二人の登録に付き添うつもりだった。それが、昼には五人で冷蔵庫を運んでいる。


 端末には、次も見たいというコメントが残っていた。


 次も、とミカも思った。


「なあ、ロッカ」


 ヴィクターが一つ目のサンドを食べ終え、二つ目を持った。


「飯食ったら、さっきの続きやろうぜ」


「力比べか?」


「おう。腕相撲で勝負だ!」


 ロッカが笑った。


「いいよ。どこならやっていい?」


「ここではやるな。場所を探す」


 カインが空いた手で端末を引き寄せた。


 ミカは、飲みかけのコーヒーを置いた。


「その話、配信の企画にしていいですか?」


「もちろんだ! 俺の勝つところ、撮ってくれ!」


「俺だって負けるつもりはないぞ」


 二人が笑っている間に、カインが画面をこちらへ向けた。


「この近くなら、ここだな。奥に広い部屋がある」


 立川市内にあるダンジョンの案内だった。入口から続く通路の先に、大きな部屋が描かれている。


 ミカは、その部屋についた魔物の印を指さした。


「カインさん。そこ、ボス部屋ですよね?」


「そうだ」


「ボス、いるじゃないですか」


 ロッカが画面を覗き込んだ。


「倒せば空くんだろ?」


「おう! そしたら、ゆっくり勝負できるな!」


 ヴィクターが嬉しそうに頷いた。


「腕相撲するために、ボス倒しに行くの!?」

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