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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第008話 いつもの人たち

「おう! 力比べなら、負けた覚えがねえ!」


 喫茶店ミナトの入口で、大男が自分の腕を叩いた。


 ロッカが嬉しそうに笑う。


「いいなあ。今度、俺とやってくれよ」


「いつでも来い!」


「やるのは店の外でお願いね」


 水を載せた盆を持って、リラがカウンターから出てきた。


「まず、座ってお話ししない?」


 三人は大男と同じ、窓際の四人掛けへ座った。ロッカは図鑑の入った鞄を椅子の背へ掛け、ティーラの隣へ腰を下ろす。


 ミカは大男を、改めて見た。


 何度も見かけていた。カップが小さく見える人だな、とは思っていた。


 その人に、ロッカが力で負けるかもしれない。


「リラさん。この人、何してる人なんですか?」


「あら。まだお名前も知らなかった?」


「会釈くらいしか、したことなくて」


「じゃあ、今日はちょうどよかったわね」


 リラは水を置き、大男へ手を向けた。


「ヴィクター・ランスさん。探索者さんよ。それから、奥の席にいるのがカイン・タチバナさん。お二人とも、うちの常連さんなの」


 奥の壁際で、端末を開いていた細身の男が顔を上げた。


 あの人も知っている。いつも同じ席で、地図や数字ばかり見ている人だ。


「そっちの人も探索者だったんですか?」


「登録はしている」


 カインは短く答え、こちらへ椅子を向けた。


「こちらはミカさん。配信をしているの。お連れのお二人も紹介してもらえる?」


「あ、はい。ロッカと、ティーラです。二人とも、さっき支部で登録してきたところで」


「九龍六歌。ロッカでいいよ」


「ボクはティーラ。よろしく」


 ティーラも顔を上げた。ヴィクターが笑って頷き、カインも小さく頷く。


「私はここの店主、リラ・ミナト。どうぞよろしくね」


 リラがメニューを広げると、ロッカとティーラの視線が同じ写真へ止まった。


 厚いハンバーグを、パンで挟んだサンドだった。


「これ、肉か?」


「そう。熱いうちに出すわよ」


「じゃあ、これにする」


「ボクも」


 ヴィクターが身を乗り出した。


「いいぞ、それ。肉がでかくてな。俺はいつも二つ食う!」


「二つ……」


 ティーラが写真を見直した。


「ティーラは一つ食べてからね」


「うん。今の腹は、もう分かった」


 ミカは笑いながら、自分も同じものを頼んだ。今日は打ち合わせ代として出すつもりだった。次は三人で稼いだお金で来たい。


 注文を書き終えたリラが厨房へ戻ると、ヴィクターがミカの肩の横を覗き込んだ。


「それで撮ってるのか?」


「ポチです。今は止めてますよ」


「そうか! 撮るときは言ってくれ。いい顔をする!」


「今も十分、いい顔してますけど」


「はっは! そうだろう!」


 本当に嬉しそうだった。


 ミカは少し笑ってから、テーブルへ身を寄せた。


「ヴィクターさんは、どんな仕事してるんですか? やっぱり強い魔物とか?」


「そっちをやりたいんだがな。今は、荷物を運ぶ仕事を探してる」


「運ぶ方?」


「今は討伐の仕事を受けられなくてな。持つ、運ぶ、引っ張る。そういうのなら任せろ!」


 ロッカが頷いた。


「俺たちも、それならできるって言われた」


「おっ、一緒だな!」


 登録したばかりの二人と、この大男が同じ仕事を探している。


 ミカが理由を尋ねようとしたところで、奥から声がした。


「運ぶ人間がいるなら、こっちの仕事もできる」


 カインが端末を持ち上げた。画面には、曲がりくねった通路の地図が映っている。


「それ、ダンジョンの地図?」


「機材を回収する依頼だ。運ぶ順番と帰る道を組んでいた」


「カインも行くのか?」


 ロッカに聞かれ、カインは自分の机を指で叩いた。


「俺はここだ」


「……ここ?」


「現場の映像を見て、外から指示を出す」


 ミカはカインと、端末の地図を見比べた。


「そういう仕事をしてたんですね。いつも何を見てるのかなって思ってました」


「仕事を探していた。だが、依頼主に誰が運ぶのかと聞かれた」


「それで?」


「いない、と答えた」


「……そこは揃えてから応募しようよ」


「だから今、声をかけている」


 カインは端末を置いた。


 ロッカが、自分とヴィクターを順に指さす。


「じゃあ、俺たちが動けばいいのか」


「映像と、現場で見たことを伝えてもらう。俺には見えない場所もあるからな」


「ボクもいる」


 ティーラが手を上げた。


「足元を見るの、得意」


「なら、そこも頼める」


 カインの指が地図の上を動きかけた。


「ちょっと待って」


 ミカが間へ入った。


「皆、もう仕事の話してるけど、まだ名前を覚えたばっかりだからね?」


「そうだな!」


 ヴィクターが頷いた。


「もう少し話そうぜ。なあ、あの竜、どこを持つと一番――」


「そっちも待って。私にも分かる話にして」


 ロッカが吹き出した。


 ミカもつられて笑い、カインへ向き直る。


「カインさんは、戦えるんですか?」


「無理だ。だから指示を出す」


 迷いのない返事だった。


「そこ、はっきり言うんだ」


「俺が殴り合いに行ってどうする。頭を使う方で働く」


「自信あるんですね」


「天才だからな」


 端末を閉じながら、当然のように言った。


「……それ、自分で言う人、初めて見た」


「俺も、天才に会ったのは初めてだぞ!」


 ヴィクターが嬉しそうにカインを見た。


「いけるな。俺が持って、あんたが考える!」


「まだ何を運ぶかも決まっていない」


「何だって持つ!」


 ミカはポチへ目を向けた。


 この人たちが一緒に働くところを撮れたら、どんな配信になるだろう。


 ロッカとティーラだけでも、十分にすごい。そこへ、この二人が加わる。


 怖い魔物のことより先に、撮りたい画面が浮かんだ。


「……一回、やってみません?」


 四人がミカを見た。


「私とポチが撮って、カインさんが指示を出す。三人が動く。いきなり大きな仕事は無理でも、何か一つ、一緒に」


「それなら、ちょうどお願いがあるんだけど」


 厨房から、リラが顔を出した。


「裏の物置にある冷蔵庫を、庭の回収場所まで運んでもらえないかしら。古いのを業者さんに引き取ってもらうの」


「任せろ!」


 ヴィクターが立ち上がった。


「まだ大きさも聞いてないよ?」


「冷蔵庫なら知ってる!」


「知ってるだけで運べるなら、私だって知ってるけど」


「手伝ってくれたら、さっき注文してくれたお昼はごちそうするわ。コーヒーもつけて」


 ロッカとティーラも、揃って立ち上がった。


「俺、やるよ」


「ボクも」


「……俺の分もあるか?」


 カインが尋ねると、リラは笑った。


「働いてくれたらね」


 カインがもう一度、端末を開いた。


「ミカ。そのカメラの映像を、こっちへ送れるか」


「できますけど」


「つないでくれ。運ぶ道を見る」


 ミカはカインの端末へ、ポチの映像を送る通信をつないだ。


「せっかくだから、配信もしていいですか? 運んでるところだけ」


「店の裏だけなら、いいわよ」


 リラの返事を聞き、ミカは四人も見た。


「おう、撮れ撮れ!」


 ヴィクターが胸を張った。ロッカとティーラも頷く。


「俺の指示も入れろよ」


 カインが端末をこちらへ向けた。


「じゃあ、裏に出たら始めますね」


 ロッカは鞄を椅子へ置き直した。カインを店に残し、四人でリラについて勝手口を出る。


 ミカはポチを振り向いた。


「配信と、コメントの読み上げもお願い」


「配信を開始しました」


 ポチのレンズがミカへ向いた。


「こんにちは。今日はこの人たちと、冷蔵庫を運びます!」


 店の脇の細い通路を抜けると、奥に物置があった。リラが扉を開ける。


 中には、ミカの背より高い銀色の冷蔵庫が置かれていた。


「電源は抜いてあるわ。中も空よ」


 リラは料理の準備をするために店へ戻った。ミカたちは入口の外へ下がり、ヴィクターが中へ入るのを見守る。


「よっしゃ、すぐ終わるぞ!」


 ヴィクターが冷蔵庫を両側から抱えた。重そうな箱が、床からあっさり浮く。


 そのまま入口へ向かい、一歩手前で止まった。


「……おい」


「どうしたの?」


 冷蔵庫そのものは、扉を通る。


 けれど、冷蔵庫の両側を抱えたヴィクターの腕が、入口の幅を超えている。


「俺が通らねえ」


「持つ前に気づこうよ」


「どうする? 入口広げるか?」


 ロッカが冷蔵庫を指さした。


「お前、変なやつだな。もう捨てる冷蔵庫なんだろ? だったら潰せばいいじゃん」


 いいことを思いついた顔で、ロッカが笑った。


 ティーラが、ミカの袖を引いた。


「ミカ、肉まだ?」


「カオス!」


 ミカが叫ぶと、ポチがコメントを読み上げた。


「コメントです。『ミカ、その面白い人たち誰?』」


 端末の画面にも、コメントが続く。


〈会話の中身がダンジョンより怖いww〉

〈全員変w〉


 手元の端末から、声がした。


『そのイカれた二択は却下だ。リラが、そのまま業者に渡す約束だと言っている。どっちも壊すな』


 店に残ったカインだった。


『ミカ、入口を正面から映せ。先に、通る向きを決めるぞ』


「……いや、すぐ裏なんだから見に来ればいいじゃん」


 ミカが呟くと、返事が来た。


『俺の指示だけで運べたら、この映像を次の依頼に使えるだろ』


「自分の宣伝も兼ねてる?」


『当然だ』

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