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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第006話 人間の初日、肉三キロ

「肉は、食べていい?」


 青梅ゲートの管理棟一階。検査を終えたティーラが尋ねると、医師は手元の画面から顔を上げた。


「ええ。ただ、最初は少しずつにしましょう。今の身体が食べられる量も、まだ分かりませんから」


 ティーラは頷いた。


 隣でロッカも頷いていた。肉を焼いてくれるときと同じ、頼りになる顔だった。


 医師が席を外したあと、ロッカは椅子を少し寄せた。


「なあ。さっきの、人間になった話。もう少し聞いてもいいか」


「うん」


 水を飲んでから、ティーラは口を開いた。長く話そうとすると、まだ舌が引っかかる。けれど、伝えたいことはあった。


「ロッカがいなくなって、文字が出た。ボクも、一緒に帰れるって」


 あの光の壁が消えたあとも、ティーラは川原を離れなかった。何もない場所へ何度も鼻を押しつけていると、目の前に文字と絵が浮かんだのだ。


「人間に、なれば」


「おまえにも、あの文字が見えたのか?」


「うん。二人で、約束してたからって」


 ロッカは自分の手を見た。


「……小さい頃の、〈原初の契《げんしょのちぎり》〉か」


 ティーラは頷いた。文字は、ロッカが図鑑を開きながら教えてくれた。読めないところもあったが、人の姿と門の絵を見れば、どうすればいいかは分かった。


「変わるまで、三日かかるって。それで、待ってた」


「そうか。だから、今日……」


 ロッカは膝へ手を置いた。しばらくしてから、もう一つ聞いた。


「元の身体には、戻れるのか?」


「戻れない」


 その手が止まった。


「選ぶ前に、書いてあった。でも、こっちへ来られるから」


 ティーラは、ロッカの袖をつかんだ。


「ロッカと、いたかった」


 ロッカは口を開きかけ、閉じた。それから、袖をつかむ手に触れた。


「……そっか。自分で、決めたんだな」


「うん」


「じゃあ、こっちでも一緒に暮らそう。困ったことがあったら言えよ」


 ティーラは大きく頷いた。


 ほどなく、ゲートを調べていた職員が部屋へ来た。


「お二人が帰還したときだけ、接続先が森に切り替わっていました。普段の行き先は洞窟なので、入り直しても戻れなかったようです」


 ロッカは窓の外のを見てから、隣のティーラを見た。


「なるほどな。あそこで待ってて、よかった」


 外出してもいいと言われると、ミカが帰還者用の生活用品を受け取ってきた。服と靴、それからロッカの髭を剃る道具も入っている。


 ティーラは、ポケットの大きい紺色の上着を選んだ。指を入れてみると、手首まですっぽり隠れた。


 ズボンも靴も、ミカに見てもらって身体に合うものを選んだ。


「それ、気に入った?」


 ミカに聞かれ、頷く。


 ロッカは洗面室へ行っていた。戻ってきたとき、ティーラは立ち上がった。


 顎も頬も、よく見える。


 長い髪はいつものように後ろで束ねているが、身体には黒いシャツと丈夫そうなズボンを着ていた。


「どうだ。変じゃないか?」


 ティーラは近づき、頬に触れた。


 指を動かしても、さっきのようには引っかからない。


「痛くない」


「だろ。俺も、こんなに剃ったの初めてだ」


 頬の古い傷を避けて撫でると、ロッカが少しくすぐったそうに笑った。


 ミカも顔を覗き込んだ。


「うん。そっちのほうがいいね」


「髭がないと、寒いな」


 ロッカが上着の前を合わせたので、ティーラも自分の上着を引っ張った。


 着替えた皮の服は、ロッカが二階の部屋へ置きに行った。戻ってきたときには、図鑑の入った鞄だけを持っていた。


 槍と斧は職員に預けたまま、三人で管理棟を出た。


 ミカの肩の横には、レンズを伏せたポチが浮いていた。


 昼食は、歩いて十分ほどの焼肉屋で食べることになった。


 あの竜を倒したS級の二人から、ロッカへお礼の食事券が届いていたのだ。


「好きなものを食べてください、だって。ちゃんと使おうね」


 ミカが券を見せると、ロッカは頷いた。


「あとで、礼を言いに行こう」


 店の入口で、ティーラは一度立ち止まった。


 焼けた肉の匂いがする。


 開いた扉へ近づき、頭の上を確かめた。そのまま通っても、何にもぶつからなかった。


 先へ入ったロッカが振り返る。


「来たな」


 ティーラは笑って、その隣へ行った。


 窓際の席へ案内され、メニューを見ると、皿に載った肉の写真が並んでいた。


 ロッカが店員へ声をかける。


「肉、三キロ頼めるか?」


 ミカの手が止まった。


「三人で?」


「いや、まずティーラの分」


「まず、じゃないんだよ。少しずつって言ってたよね?」


 ティーラは写真を覗き込んだ。三キロの盛り合わせは、いつも食べていた肉の塊より、ずっと小さく見えた。


「これ、食べたい」


「……分かった。三人で食べよう。焼くのは一皿ずつね」


 ミカが持ち帰れるか店員に尋ねてから、注文してくれた。


 運ばれてきた皿には、薄く切られた肉がきれいに並んでいた。


 ロッカが網へ載せると、じゅう、と音がした。


 ティーラは少し身を乗り出した。


「待て待て。まだ焼けてない」


 その声で、思わず座り直した。


 火を使えるようになってから、何度も言われてきた言葉だった。


 やがて、ロッカが焼けた肉を皿へ置いてくれた。箸ではうまくつかめなかったので、ミカに頼んでフォークを借りた。


 刺して、口へ運ぶ。


 噛んだ途端、ティーラは皿を見下ろした。


「……うまい?」


 ロッカに聞かれ、何度も頷く。


 飲み込んでから、ようやく答えた。


「もう一枚」


「はいよ」


 次の肉が網へ載る。


 ミカも笑いながら、自分の分を焼き始めた。


「そういえば、ティーラの『ボク』って、ロッカから覚えたの?」


「うん。小さいロッカ、そう言ってた」


 ティーラはロッカを見た。


「『ぼくがいるからね』って」


 肉を返していた手が止まる。


 初めて会った夜の声は、今でも覚えている。外で何かが鳴くたびに震えていたのに、ロッカはティーラの背中を撫でてくれた。


「ボクも、言いたかった。ロッカが泣くとき」


 ロッカはしばらくティーラを見ていた。それから、網の上へ目を戻す。


「……あの夜も、そう言ってくれてたのか」


 ミカが小さく笑った。


「声でも聞けるようになったんだね」


 ティーラは頷き、焼けた肉を一枚、ロッカの皿へ移した。


 ところが、二皿目の途中で、肉を口へ運ぶ手が止まった。


 まだ食べたい。目の前の肉も、いい匂いがする。


 けれど、腹が苦しい。


 そっと腹へ手を当てると、ミカが顔を覗き込んだ。


「お腹いっぱい?」


「……小さい」


「うん。今はそのお腹の分だけでいいんだよ」


 ロッカが、まだ肉の載っている皿を自分の方へ寄せた。


「続きは明日にしよう。明日も食える」


 ティーラは少し迷ってから、フォークを置いた。


 残った分は、店で焼いて包んでもらうことになった。ミカが管理棟へ連絡すると、冷蔵庫も使わせてもらえるという。


 食事券で会計を済ませるミカを見て、ロッカが自分のポケットを探った。


 何も入っていない。


「今度は、自分の金で食いに来たいな」


 ティーラも、空っぽのポケットへ手を入れた。


「ボクも」


「二人とも、探索者の仕事する?」


 ミカが尋ねた。


「ダンジョンを調べたり、魔物を倒したり。お金をもらって、ご飯代も、服代も払えるよ」


「どこで、なれるんだ?」


「立川。探索者協会の東京支部。明日、一緒に行こうか」


 ロッカがティーラを見た。


 ティーラは机の上へ出された手を、三回たたいた。


「ボクも、いるからね」


 ロッカが笑い、その手を握った。

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