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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第003話 その角なら、止められる

「窓から離れて! 奥の避難室へ!」


 職員が廊下の扉を開けた。さっきの母親が子供を抱き上げ、ほかの見学者と一緒に奥へ向かう。


 ミカも立ち上がった。その背後で、窓の外が赤く光った。


 ゲートから、炎が噴き出していた。


 ゲートから四人の探索者が飛び出した。一人の剣を持つ女性が、負傷者二人を管理棟へ走らせる。あとから出てきた一人がすぐ振り返り、片手を上げる。青い光の壁が広がり、炎を空へ押し上げた。


「あの人たち、S級の……」


 ミカは配信で見たことがあった。協会の制服の肩にある、金色のSの印にも見覚えがある。


 炎が途切れると、ゲートから黒い頭が出てきた。


 さっきの盾も、洞窟の壁も、こいつに焼かれたのか。ミカは端末を握り直した。


 鼻先に長い角。鱗に覆われた胴体が続き、四本の脚が屋根の下の床を踏む。車二台分はありそうな竜が、尾まで引きずり出してきた。


 その顔が、こちらを向いた。


「ロッカ、奥に行こう!」


「あいつら、まだ中へ入れてないぞ」


 職員が逃げてきた探索者を支えていた。一人は脚を引きずり、もう一人も肩を貸している。


 竜は頭を低くした。角が、入口へ向く。


 ロッカがミカに鞄を差し出した。


「これ、頼む」


「待って。武器、まだ台に――」


「取りに行ってると間に合わない」


 ミカが鞄を受け取ると、ロッカは管理棟を飛び出した。見学柵を軽々と越え、ゲートへ走る。


 受付脇の台には、槍と牙斧が残っている。


 ミカは追って管理棟の入口まで出た。正面に見学柵、その奥にゲート。柵の内側で、竜が頭を振っている。


 建物に沿って進んだ先には、フェンスで囲われた資材置場があった。大きな門扉が開いたままになっている。


「こっちです! 扉、開いてます!」


 ミカは入口の扉を押さえた。職員と二人の探索者が中へ入り、奥の廊下へ急ぐ。


「ポチ、配信を再開。マイクも。広場だけ撮って。読み上げは止めたまま」


「配信と録画を開始しました」


 ポチがひさしの下へ飛んだ。ミカは扉の内側へ退き、端末の画面を開く。


 広場を走るロッカと、竜が映っていた。


「竜から離れろ!」


 光の壁を作っている探索者が叫んだ。


 竜の喉が赤くなった。大きく開いた口から、また炎が噴き出す。


 青い壁がその前を塞いだ。竜は炎を吐きながら走り出し、壁へ頭からぶつかった。


 光に亀裂が走る。


 ロッカは走りながら、資材置場を指さした。


「あっちに人は?」


「いない! いいから、早く戻れ!」


 青い壁が砕けた。


 ロッカは戻らなかった。入口と竜の間へ滑り込み、足を開いて腰を落とす。


「こっちは止める!」


 迫る角は、ミカの腕ほども長かった。


 ロッカが両手で、その根元をつかんだ。


 巨体に押され、足が舗装を滑る。腕に巻かれたガーゼがずれた。ミカは息を止め、画面の中の背中を見つめた。


 その足が止まった。


 ロッカは一歩、資材置場の方へ踏み出した。角を引く。


 竜の頭が横を向いた。


 続いて胴体が曲がり、管理棟へ向かっていた巨体が、資材置き場へ向かっていく。


 ロッカは角を放さなかった。竜に引きずられるように走り、開いた門扉を越える。


「今だ!」


 ロッカは片足を踏み込み、角を押し返した。


 竜が前脚を踏ん張る。


 巨体はまだ暴れているが、それ以上は前へ進めなくなった。


「……よし」


 ロッカは左手で角を握り直し、右手を離した。


 見学柵の前にいた二人の探索者が、資材置場へ走ってくる。


「なあ、こいつ、どうするんだ?」


 ロッカが顔を向けたとき、竜の口が開いた。


「口から離れろ!」


 男性の叫びと同時に、口の奥が赤く光った。


 ロッカは左手で角を押さえたまま、右手を竜の下顎へ当てる。


「うおっ!」


 炎が噴き出す寸前、右腕を一気に突き上げた。


 竜の頭がのけぞり、炎が空へ伸びた。


 頬を熱風がかすめる。ロッカは思わず首を引いた。


「あっぶね! こいつ、まだ火ぃ吹きやがる!」


 竜が頭を下げようとする。


 ロッカは左手で角を引き、右手で顎を押し上げた。


 首が反り返り、喉が大きく持ち上がる。


 竜が前脚を踏み替える。ロッカの足元も滑ったが、両腕は緩めなかった。


 青い光の壁が、管理棟の前へ広がった。


 ミカは扉の陰へ身を縮め、端末を握り直した。


 ロッカは竜の頭を押さえたまま、剣を持つ女性を見た。


「で、これ、どうするんだ?」


「そのままお願いします! 私が仕留めます!」


「ああ。頼む!」


 女性が駆け込んできた。


 竜が前脚を振り上げる。


 女性は横へ跳んでかわし、そのまま地面を蹴った。


 持ち上がった喉へ向かって跳び上がる。


 銀色の剣が、薄い鱗の隙間へ突き刺さった。


 竜が暴れ、資材置場のフェンスを尾で叩いた。金網が曲がる。ロッカの足もわずかに動いたが、角をつかむ左手は下がらなかった。


 やがて、尾が地面へ落ちた。


 口から漏れる煙が細くなる。


 女性は剣を抜き、竜の様子を確かめた。


「討伐した! 周囲を確認!」


 ロッカがようやく手を離した。腰に手を当て、肩を大きく上下させている。


 ミカも息を吐いた。


 端末を握った手が汗で濡れていた。いったん服で拭いてから、音量を上げる。


「管理棟に怪我人は?」


 光の壁を作っていた探索者が、こちらへ声をかけた。


 廊下の職員が人数を数え、返事をする。


「全員退避しました! 新たな負傷者はいません!」


 その声を聞いて、ロッカもこちらを見た。入口のミカに手を上げる。


 ミカは手を振り返した。上げた腕が、まだ少し震えていた。


「ポチ。読み上げ、戻して」


「コメントです。『今の人、さっき光から出てきた人?』」


「……そう。そうなんだけど」


「『素手で竜の頭持ち上げたところで変な声出た』」


「私も出た。聞こえてないといいな」


「マイクは有効でした」


「そこは黙っててほしかった」


 周囲の安全確認が終わり、ロッカとS級の二人が管理棟へ戻ってきた。ミカは端末から顔を上げた。


 ロッカの隣を歩く女性が、剣を鞘へ収めた。


「助かりました。建物へ行かせずに済みました」


「こっちも助かったよ。火を吐くのは初めて見た」


「初めてなんですか?」


「恐竜は吐かないからな。熱かった」


 ロッカは腕のガーゼを押さえ直した。前と後ろを間違えたらしく、剥がれた端が指にくっつく。


「ポチ、今の配信、ちゃんと残ってる?」


「保存されています」


「よし」


 S級の二人が、素手のロッカに礼を言っている。


 さっきまで、図鑑を広げて子供と座っていた人だ。


 光の壁を作っていた男性が、ロッカの手を見た。


「あれを止めたのは、何のスキルだ?」


「身体強化」


「……それだけか?」


「うん。角があるやつはさ、つかめるからまだいいんだよ。さっきのは、踏んでくる脚を押し返すしかなくてな」


「さっきも何かと戦ったのか」


「ブラキオサウルス。冬の肉を用意しようと思って」


 男性が黙った。


 ミカはロッカを見た。


「身体強化って、私も持ってるやつだよね?」


「さっき、そう言ってたな」


「私、米の袋で腰が痛くなるんだけど」


「持ち方も大事だぞ。あとで教えるよ」


 そういう話なのかな、とミカは思った。隣のS級探索者も何か言いかけ、口を閉じた。


 ポチがミカの肩へ戻ってきた。


「同時接続、一万人を超えました」


「……え」


 端末を見た。


【同時接続 12,706人】


 コメント欄に指を当てても、文字がどんどん上へ流れていく。


「『帰還した人の配信、また見たい』というコメントです」


 ミカはロッカへ画面を見せた。


「これ、今ここを見てる人の数」


「一万……? そんなにいるのか?」


「私も初めて見た」


 ロッカがポチを見た。さっき水を飲ませようとしていた相手を、今度はまじまじと見る。


「すごいな、おまえ」


「ありがとうございます」


「……いや、今すごかったのはロッカなんだけどね」


 ミカは笑い、カメラへ向き直った。


「危険がないか、まだ確認が続いてます。近くの方も施設には来ないでください。今日は本当に、ここまで。また配信します」


 終了を押した。ポチのレンズが下がる。


 ミカが鞄を返すと、ロッカは中に図鑑が入っているのを確かめた。


「ミカ」


「うん?」


「母さんにも、今の見せられるか?」


「……配信の録画?」


「ああ。怖いところで暮らしてたって聞いたら、心配するだろ。ちゃんとやっていけてたって、見せたいんだ」


 ミカは頷いた。


「見せられるよ。保存してあるから」


「そっか。ありがとな」


 管理棟の奥から、身元の確認をしていた職員が出てきた。ロッカのそばで足を止める。


「九龍さん。ご家族の記録が確認できました。別の部屋で、お話ししてもよろしいですか」

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