第026話 報酬二百五十万円! 空飛ぶ車、買えるよな?
「今回の救援報酬は、二百五十万円です」
喫茶店ミナトのテーブルに、五つの封筒が並んだ。
十一月十八日の午後。窓際の席には、いつもの五人と、蒼天探索社の代表が座っていた。
天城宗一郎。紬と同じS級の探索者でもあると、来る前にミカが教えてくれた。
天城はロッカたちへ、改めて頭を下げた。
「六人を連れて帰ってくださって、ありがとうございました。成瀬と真島も、ご家族のもとへ帰りました。道具も、お渡ししています」
「水筒も?」
「はい。一緒に」
ロッカは頷いた。
あの水筒を使っていたところは、一度も見られなかった。
「紬は、まだ入院が必要です。航が毎日、顔を出しています。ほかの三人も治療を続けています」
「そっか。今度、会いに行ってもいいか?」
「もちろんです。本人にも伝えます」
天城は、封筒を一つずつ差し出した。ロッカの名前も、ティーラの名前も書かれている。
「五人で等分して、お一人五十万円です。カインさんの分も、こちらに」
「確かに受け取った」
カインが答えると、天城はもう一度、五人へ礼を言った。
リラに見送られ、天城が店を出ていく。入口の鈴が鳴り終わってから、ヴィクターが自分の封筒を持ち上げた。
「五十万か。いい肉が買えるな!」
「ヴィクターさん、全部お肉にしないでくださいね」
「分かってる。コーヒー豆も買う」
「そこじゃないです」
ミカは笑い、ポチを呼んだ。封筒は皆の鞄へしまってから、撮影の向きを確かめる。
「皆さん、こんにちは。今日は、次の冒険に向けた買い物の相談です。それと、救援の報酬をいただきました。一人、五十万円です!」
〈五十万!〉
〈お疲れさま。ちゃんと五人分だ〉
〈今日の肉は高そう〉
「なあ、ミカ」
ロッカが身を乗り出した。
「これ、空飛ぶ車、買えるか?」
ティーラも顔を上げた。
「買ったら、好きなときに乗れる?」
「乗れるだろ。海にも、あれで行けるぞ」
「ボクのも使っていいよ。一緒に買おう」
「おう。二人分なら、もっと大きいのにできるな」
「待って、待って」
ミカが二人の間へ端末を置いた。画面には、白い車体に四つの回転翼がついた、小さな車が映っている。
「小さいのでも、三千万円くらいするよ」
ロッカは画面を見た。自分の鞄を見て、もう一度、画面へ戻る。
「……二人分でも、足りない?」
「まだまだ足りない」
「それ、五十万が何回もらえれば買えるんだ?」
「えっと、三千万円を五十万円で……」
ミカが端末の計算機を開くより先に、カインが答えた。
「六十回だ」
カインはカップを置きもせず、続けた。
「今回の分を貯めておけば、あと五十九回だな」
「おい、五人で出せばどうなる?」
ヴィクターが聞いた。
「十二回。全員の取り分を、全部使うならな」
「おっ。急に近くなったぞ!」
「じゃあ、あと十一回か」
ロッカとティーラが顔を見合わせる。
「それは、一円も使わなかったらね。ご飯も道具も必要だし、車を買ってからも、動かすお金がかかるよ」
「飯が買えねえのは困るな」
ヴィクターが真っ先に引いた。
〈肉で計画が止まったw〉
〈天才、計算が速い〉
〈操縦できる人はいるんですか〉
「コメントです。『操縦できる人はいるんですか』」
ポチの声に、ロッカは四人を見た。
「……誰か、動かせるか?」
「俺は持っていない。操縦の免許はな」
カインが答えた。
ミカとティーラも、首を振った。
「俺も、あれは飛ばしたことねえぞ!」
ロッカは、白い車の写真をしばらく見ていた。
「じゃあ、先にそれもいるんだな」
「うん。まずは、乗せてもらおう」
ミカが次の画面へ移ると、今度は厚手の上着が並んだ。
「最近、朝が寒くなってきたし。二人の寝るものも、冬用を見ようか」
「それ、欲しいな。新品のテントって、どんなのがある?」
ロッカが聞いた。
「ボクも。青いの、あるかな」
ティーラが画面へ近づく。今のテントを買ったときと、同じ色を探していた。
「朝は、寝袋から出たくなくなるんだよな」
「ロッカ、最近、返事だけして出てこない」
「起きてるよ」
「起きてるって、三回くらい言う」
ミカが吹き出した。カウンターでカップを拭いていたリラも、こちらを見て笑っている。
「新しいテントなら、今度は冬用ね。寝袋も暖かいものにしましょう」
「中を暖かくするものもあるのか?」
「充電して敷くマットもあるよ。お店で見てみよう。朝、片づけられる大きさがいいね」
「うん。そこは、ちゃんと見たい」
ロッカは値札の数字を指で追った。車ほどには、長くなかった。
ヴィクターが上着の写真を覗き込む。
「なあ。俺たちも、揃いのジャンパー作ろうぜ」
「五人で?」
「おう。肩にFって入れるんだよ。でっかくな!」
自分の肩を叩き、ロッカを見る。
「並んだら、格好いいだろ」
「いいな。カインのも作ろう」
「当然だ。俺だけ外すな」
カインがすぐに答えた。
〈自分からFをでかくするの好き〉
〈五人で着てくれ〉
〈カインも着る気満々じゃん〉
「色、どうする?」
ティーラが聞いた。
「五人でお店に行って、決めようか。ヴィクターさんの腕が入るかも、確かめたいし」
「入るやつにしろよ。Fまで破れちまう!」
「入ってから言ってください!」
ミカは笑いながら、買うものを端末へ書き留めた。
冬用のテントと寝袋。暖かいマット。五人の上着。
その下へ何か足そうとしたとき、ロッカがティーラへ顔を向けた。
「お前の武器も、見てみるか」
「ボクの?」
「槍、使ってたろ。気に入ったのがあれば、自分のも持っておける」
ティーラは少し考え、両手を持ち上げた。
「ボク、爪みたいなのがいい」
「爪?」
「手につけるの。引っかけられて、握ったら殴れるやつ、ないかな」
指を曲げ、開き、それから拳を作る。
「つかむ方が、慣れてるから」
「手につける武器はあるよ。爪がついたのも、探してみようか」
ミカが武器の店の画面を開くと、ティーラは椅子を寄せた。
「これ、握れる?」
「お店で、つけてみよう。指がちゃんと動くかも」
「うん。見たい」
ヴィクターも覗き、画面の大きな斧を指した。
「これも、いいな!」
「ヴィクターさんの買い物まで増えた」
「俺だって五十万あるんだぞ!」
ロッカは鞄へ手を置いた。車は買えなかったが、買いに行きたいものは増えていた。
ティーラが自分の鞄を開け、小さな青いノートを出した。
「ミカ。これも」
開いた最初の頁に、大きく『海』と書いてある。
その下に、空飛ぶ車。でかい肉。旅の配信。カインの大きな名前。
「こっちは、行ける?」
ティーラがいちばん上を指した。
ミカは端末の買い物の画面を閉じ、海の写真を探した。白い砂浜から、青い水がずっと向こうまで続いている。
「行けるよ。道具を揃えたら、次はここへ行こうか」
ティーラはノートと写真を交互に見た。
「ボク、この足で泳いでみたい」
「いいな。俺も、ちゃんと見たい」
ロッカも画面へ顔を寄せた。空を飛ぶ乗り物には、もう乗れた。今度は、あの水の向こうだった。
「おう。海なら、魚も食えるな!」
「ヴィクターさんは、まず食べるところなんですね」
「泳いだら腹が減るだろ!」
カインがカップを置き、写真の端を指した。
「俺は、日陰のある席を取る」
「カインさんも来るんですか?」
「五人で行く話だろう」
ティーラが笑った。
〈次は海!〉
〈五人揃って旅行か〉
〈天才、もう席を確保してるw〉
ミカはノートを手元へ引き寄せた。
「じゃあ、行く日を決めよう。今度は、書くだけで終わらせないよ」
ティーラが、海の写真をもう一度見た。
「ロッカ。水しかないね」
「うん」
「ずっと、向こうまで」
ロッカは、隣から同じ青を見ていた。
「行ってみよう。どこまで見えるか」




