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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第二章 飛べない最強、空へ行く

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第023話 この子もF級だって、言ってなかった?

「ミカ、動かないで」


 ティーラが、木陰の外を見た。


 ロッカたちの姿は、もう木々に隠れている。その反対側、噴水の向こうで灰色の翼が開いた。


 あの鳥だ。


 入ってすぐに、仲間の手を裂いた爪。


「来る……!」


 南雲が立ちかけたときには、もう目の前にいた。


 鳥ではなく、ティーラが。


 私たちへ迫る爪の下へ、白い刃が伸びた。胸を貫かれた鳥が、そのまま庭へ投げ出される。


 次の一羽が、ティーラの右へ回った。


 槍の柄が首を打ち、鳥は敷石へ転がった。立ち上がらない。


「ミカ。当たってない?」


「うん。こっちは大丈夫」


 私は、二羽の鳥を見ていた。


 ほんの少し前まで、また来るかもしれないと、みんなで見張っていた相手だった。


 ティーラは槍を下ろさず、空を見上げた。


「まだ来るね」


 木の葉の隙間を、いくつもの影が通った。


 噴水の上にも、折れた柱の上にもいる。島の縁から飛び上がってくるものもいた。


 十羽。もっといる。


「南雲、私の剣を……」


 言いかけたところで、手が止まった。


 握れたところで、私は立てない。飛ぶこともできない。この姿勢で振れば、そばにいる人に当たる。


「みんな、木のそばにいて」


 ティーラが言った。


「そこまで行かせない」


 額に包帯を巻いた桐野が、私たちの前へ荷物を寄せた。片手を怪我した榎本紗季《えのもとさき》も、成瀬と真島に掛けた上着を押さえている。


 また守らせてしまう。


 けれど、翼が重なって見えた瞬間、ティーラが庭へ駆け出した。


 低く来た一羽を突き、右から迫る一羽を柄で叩き落とす。噴水の縁を蹴ってきた鳥には、槍を引き抜いた直後の蹴りが入った。


 三羽とも、木陰とは逆の方へ落ちた。


 私のそばでは、小石一つ跳ねなかった。


「先生、紬さんは私の端末で映します。ポチは戦っている方へ向けますね」


 ミカさんの持つ端末が、私へ向いた。


『見えています。そのままで』


「外で待っている人たちにも、救援が続いていることを伝えます。ティーラの戦闘だけ、配信を再開しますね」


 そう言って、丸いカメラへ顔を向けた。


「ポチ、公開する方は音声なし。こっちの姿も入れないで。カインさんたちへの中継は、そのままでね」


「承知しました」


 ポチは庭へ出て、私たちへ背を向けた。ミカさんは端末を持ち、私の隣に残っている。


 ほどなく、カメラから声がした。


「コメントです。『ボス二発で倒した子だ』『この子もF級なんだよな?』」


 ボスを、二発。


 何の話だろう。


 庭では、鳥の身体がぶつかる音が続いていた。


 ティーラは倒れた鳥を追わない。すぐに向きを変え、次の翼の下へ入っていく。


 どうして、そっちへ。


 そう思って目で追うと、その鳥の先には私たちがいた。


 群れの端を抜けて、木陰へ回ろうとしていたんだ。


「『槍も使えるのか』『一羽も近づけてない』『あの刃で何羽目だよ』」


 ポチが、またコメントを読んだ。


 次の羽音は、頭の上から聞こえた。


 庭へ下りずに、木の上を越えてくる。


「上……!」


 声を出したとき、ティーラはもう跳んでいた。


 私たちへ爪を向けた鳥を、槍が横から打つ。その隣でも灰色の羽が散り、二羽とも庭へ落ちた。


 地面へ戻ったティーラが、横を抜けようとした鳥の首をつかむ。


 一度ねじると、脚の動きが止まった。


 危ない、と言いかけるたび、もう次の鳥が倒れている。


 昨日は、誰かが前へ出れば、その横を別の誰かが守っていた。頭上を見れば、地上を見る人も必要だった。


 この子は、それを一人でやっている。


 南雲も桐野も、荷物の向こうからティーラを見ていた。


 私たちが動く必要がない。


 彼女の邪魔をしない場所で、待っていればいい。


「左からも来るよ!」


 最後の三羽が、左右と頭上へ分かれた。


 私は左の翼を追った。その陰から、もう一羽が木陰へ回ろうとしている。


 顔を向けたときには、三羽とも地面に落ちていた。


 まだ来るのかと思って、空を見ていた。


 木の葉が揺れている。


 灰色の翼は、もう見えなかった。


「……終わった?」


 ミカさんが尋ねた。


「うん。今、こっちに来てるのはいないよ」


 ティーラは庭を見渡し、槍についた羽を払った。


 あれだけいた鳥が、敷石や草の上に落ちている。一羽も木陰には入ってこなかった。


 隣の二人の上着も、ずれていない。


「コメントです。『全部落とした』『速すぎて目が追いつかん』『これでF級ってどういうこと』」


 私も、同じことを考えていた。


 F級だと言われた。全員、そうだと。


 でも、いま目の前で見たものを、私は知らないことにはできなかった。


「先生、こちらは無事です。怪我をした人は増えてません」


 ミカさんが端末へ話した。


 その言葉を聞いて、ようやく自分の指が掛け物を握り締めていたことに気づいた。力を抜くと、指の節が痛かった。


「……嘘、でしょ」


 声が零れた。


 ティーラがこちらを見て、木陰の手前へ戻ってくる。穂先は私たちに向けず、下ろしたままだった。


「怖かった?」


 頷くことも、うまくできなかった。


 ミカさんが、彼女の持つ槍へ目を向けた。


「……槍、使えるんだね」


「ロッカがやるの、ずっと見てたから」


 白い刃には、欠けたところも見当たらない。金属ではないようだった。


「その刃、何の牙なの?」


「ボクのだよ」


 何て?


 ミカさんも、ティーラを見た。


「この槍の刃、ボクの牙だったんだよ。昔、抜けたやつ」


 人の歯が、あんな大きさの刃になるはずがない。


 聞き間違いかと思った。でも、ミカさんは違うことを尋ねた。


「それを、ロッカが槍に?」


「うん。見つけたとき喜んでた。いい槍になるって。ボクも嬉しかった」


 ミカさんは白い刃を見直していた。


 私には、何の話をしているのか分からなかった。


 ただ、この子を一人で残していった二人のことが、気になっていた。


「あなた、一緒に行かなくてよかったの……?」


 ティーラは、二人が消えた森を見た。


「ロッカなら、平気」


 少しも迷わない返事だった。


「ヴィクターもいるし。あの人、ロッカより力が強いんだ」

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