↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第二章 飛べない最強、空へ行く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/28

第021話 この島、動いてないか?

「六人! 四人は、生きてる!」


 石壁の向こうから、男の声が返ってきた。


 ミカは端末を見た。画面には、崩れた壁とロッカの背中が映っている。


〈いた!〉

〈四人って……〉

〈紬さんは?〉


「皆さん、ここからは救助に入ります。配信をいったん止めますね」


 公開を止め、ポチへ声をかける。


「カインさんと航くんへの中継は、そのままでお願い」


「承知しました」


 ロッカに続いて壁の切れ目を抜けると、木々の間に石造りの庭があった。


 正面には、水の枯れた丸い噴水。割れ目から薄紫の花が伸びている。右手には屋根の半分が落ちた東屋があり、左手には太い木が立っていた。


 庭の奥からは別の石橋が延び、白い柱の並ぶ島へつながっている。向こうの島の方が、少し高かった。


 東屋の柱につかまっていた男が、片手を上げた。


「こっちだ。紬さんが動けない」


 片腕を布で吊っている。


 その足元に、紺の上着を着た女性が横たわっていた。肩には金色のSの印。朝、映像で見た顔だった。


 額に包帯を巻いた男性と、片手を布で覆った女性が、そのそばにしゃがんでいる。


 四人。


 ミカは左の木陰を見た。


 根元に、二人が寝かされていた。顔には上着が掛けられ、靴が同じ方へ揃えられている。脇には長い槍と斧が置かれていた。


「南雲《なぐも》です」


 腕を吊った男が名乗った。


「あの二人は、昨夜……。助けられなかった」


 ミカは口を開いたが、何も出てこなかった。


 ロッカが木陰へ目を向けた。ヴィクターは担架と救急道具を下ろし、留め具を外していた。


「ここで広げよう。歩ける人は、少し空けてくれ」


「……お願いします」


 ミカは東屋へ膝をついた。


「鷹宮さん。聞こえますか。航くんに頼まれて来ました」


 紬の目が動いた。


「……航が?」


「はい。私、ミカです」


 端末を口元へ寄せた。


「航くん。六人、見つかった。生きてるのは四人。二人は、亡くなったって」


 喫茶店で向かいに座っていた少年の顔が浮かんだ。


「お姉さん、見つけた。話せるよ」


『姉ちゃん?』


 返事は、すぐに来た。


『姉ちゃん、聞こえる?』


 ミカは端末を紬へ近づけた。


「聞こえる。……大きい、声」


『ずっと呼んでたんだよ。昨日から、何度も』


「うん」


『何度も、何度も……』


 紬が、端末へ手を伸ばそうとした。その腕は途中で止まり、指先だけが動いた。


 ミカは端末をもう少し近づけた。


「助け、呼んでくれたんだね」


『……うん』


「ありがとう、航」


 端末の向こうで、息を詰まらせる音がした。


 ミカが端末を持ち直すと、紬の指先が、ミカの袖に触れた。


「まだ、つながってる?」


「つながってます。切りませんよ」


 紬は目を閉じたが、ミカが呼ぶと、薄く開いた。


「カインさん、医療班につないでもらえますか」


『もう呼んでいる。紬さんの様子を、先生に見せてくれ』


 ミカはポチを低く下げた。


 入口の外で待つ医療班の声が届く。ミカは呼びかけへの反応と、見える怪我の様子を伝えた。ティーラも紬のそばへ膝をつく。


 ロッカは槍に覆いを掛け、東屋の外へ置いた。


「立たなくていい。担架があるから」


 紬は顔をこちらへ向けた。


「あの二人も、連れて帰って……」


「うん。置いていかないよ」


 ロッカが答えた。


 紬は木陰を見ようとしたが、顔を少し動かしただけで息を詰めた。


「……私が、死ねばよかったのに」


 南雲が、担架へ伸ばしかけた手を止めた。


「紬さん」


「S級だから、大丈夫って。私が……」


 ミカは救急袋を開いた。医療班の声に合わせて包みを取り出す間も、紬は木陰の方を見ていた。


「何がS級よ。二人も、帰せなくて」


「紬さんが引きつけてくれなかったら、俺たちも死んでました」


「でも……あの二人は、帰ってこないじゃない」


 南雲は何も言わなかった。


『姉ちゃん』


 端末から、航の声がした。


『俺、待ってるから。帰ってきてよ』


 紬の指が、ミカの袖をつかんだまま縮まった。


 ヴィクターは広げた担架を横へ寄せ、ロッカと一緒に持ち手を確かめている。ミカも医療班へ返事をし、必要なものを手元へ並べた。


 額に包帯を巻いた男性は、水筒の蓋を何度も開け閉めしていた。ヴィクターに呼ばれると、それを置いて担架の端を押さえる。


「これ、あいつのなんです」


 男性が、水筒へ目を落とした。


「帰ったら焼肉だって。俺の分まで勝手に決めて。……いつも、牛ばっかり頼むんですよ」


「お前は鶏がいいって、毎回言うからな」


 南雲が答えた。


「そうですよ。昨日も、帰ったら文句言おうと思ってたのに」


 男性は水筒を荷物へしまった。


 隣の女性が、片手で自分の靴紐に触れた。


「もう一人は、出発前になると、みんなの荷物を見て回るんです。私の靴紐まで結び直そうとして」


 紐は、左右で同じ長さに揃っていた。


「自分でできますって、昨日も言ったんです。……いつも、そう言ってたから」


 女性は紐から指を離し、紬のそばへ戻った。


 その袖は、肘の下で大きく破れていた。布で覆った手には、血が滲んでいる。


「入口に、上着の切れ端があったんです。血も」


「ああ……私です。入ってすぐ、小さい鳥にやられて。袖で押さえたんですけど」


 女性は、自分の手を見た。


「そのあと、橋を渡って。あの白いのが来て……」


 言葉が止まった。


 南雲が、東屋の外を見た。


「紬さんが引きつけてくれたんだ。俺たちを先に逃がして、自分は柱に叩きつけられて。それでも、起きようとしてた」


 ミカは、紬の上着についた石の粉を見た。


 朝の映像の、倒れた柱を思い出した。


「中継機も、あいつに潰された。どうやっても外につながらなくてな」


 南雲が吊った腕を押さえた。


「ここまで運んで、交代で見張ってた。夜が明けても、誰も来ないから……」


 ティーラが、女性の隣へ手当ての道具を寄せた。


「手の分もあるよ」


「……ありがとう」


 女性は空いた方の手で受け取り、そばへ置いた。それから、紬の髪についた葉を一枚取った。


 ロッカたちは医療班の指示に合わせ、紬の身体を支えた。ミカも担架がずれないよう押さえる。


 紬が、短く息を止めた。


「鷹宮さん、聞こえますか」


「……聞こえてる」


 担架へ移し終えるまで、ミカはそばを離れなかった。


 ティーラは残る三人にも声をかけた。南雲は自分で立ち、歩けると答える。額に包帯を巻いた男性と、手を負傷した女性も、荷物を持って立てた。


 そのとき、足の裏へ小さな揺れが来た。


 東屋の柱から、白い粉が落ちる。


 ティーラが顔を上げた。


「ここ、出よう。屋根がずれてる」


『ミカ、上を映せ』


 ポチのレンズが動く。残った屋根の端と、柱の間に隙間ができていた。


 小石が一つ、紬の足元へ落ちた。


「ヴィクター、そっち持ってくれ」


 ロッカが担架の頭側へ回り、ヴィクターが足側を持つ。


 ミカはポチを前へ出し、東屋から木陰までの足元を映した。担架が通れる幅を確かめてから、二人の先へ回る。


「こっち。噴水の左は、石が崩れてません」


 担架が持ち上がった。


 ティーラが肩の食料袋を掛け直し、ロッカの槍と救急道具を拾った。軽傷の二人を先に通し、南雲が柱の脇を通り抜けるのを見届けてから、その後ろへつく。


 ミカは振り返り、三人とも担架の後から来ていることを確かめた。


 木の根を避け、平らな場所へ担架を下ろす。


 すぐ脇には、上着を掛けられた二人がいた。


「ここで一緒に待っててくれ」


 ロッカが、四人へ言った。


 ミカが人数を数え直していると、東屋の屋根から大きな石が落ちた。


 誰もいなくなった床へぶつかり、欠片が噴水の縁まで飛んだ。


 ミカは紬の担架へ手を置いた。


 ついさっきまで、あそこにいた。


「……この島、動いてないか?」


 ロッカの声に、顔を上げた。


 彼が見ていたのは、庭の奥の橋だった。自分たちが渡ってきた、入口へ戻る橋とは別のものだ。


 その先の白い柱の向こうへ、大きな翼が下りていくのが見えた。


 その島が、ゆっくり横へずれている。


 最初に見たときより、高くもなっていた。橋の先が持ち上がり、石の柵が斜めに傾いていく。


 ミカはポチを庭の奥へ向けた。


「カインさん、橋が……」


 石の擦れる音が、庭まで響いた。


 二つの島をつなぐ橋の真ん中で、白い柵が弾けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。