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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第二章 飛べない最強、空へ行く

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第018話 喫茶店にS級の弟が来た

「助けて!」


 女の声の直後、画面が白い羽で埋まった。


 硬いものが砕ける音がした。空と地面が入れ替わり、倒れた石柱のそばへ、紺の上着を着た人が落ちる。


 映像は、そこで止まった。


 立川の喫茶店ミナトの窓際で、ミカはテーブルに置かれた端末から顔を上げた。


 向かいの少年は画面から手を離し、膝の鞄を握っていた。


「昨日の、夕方です。それから、一度もつながっていません」


 二〇五六年十一月十五日の朝。


 あのバーベキューから三週間ほど、五人で運搬や回収の仕事を重ねてきた。今日も次の仕事を探していたところへ、この少年が来た。


 蒼天探索社で、探索者との連絡を受け持つ管制《かんせい》の見習い。鷹宮航《たかみやわたる》、十七歳。


 最後に映っていた女性は、姉の鷹宮紬《たかみやつむぎ》だという。


「紬さんって、あのS級の?」


 ミカが聞くと、航は頷いた。


「皆さんに、姉の班を助けていただきたいんです」


 カインが奥の席から椅子を寄せた。


「最初から見せろ」


 航が手元の端末を操作し、映像を戻した。


 青い空に、草の生えた島が浮かんでいた。底からは木の根が垂れ、その下は雲に隠れている。


 白い石柱が並ぶ島から、隣の島へ古い橋が延びていた。


 画面の端を、紬が飛んでいく。橋の向こうへ降り、後から来る仲間へ手を振った。


「長野の松本に入口がある、空中庭園です。姉たちは六人で入りました」


「人が作った場所なのか?」


 ロッカが、石柱を指した。


「分かりません。あの橋も柱も、もともと向こうにあったものです。うちの会社が管理しているのは、地上の入口だけです」


 紬の仲間が、小さな鳥の魔物を射落とした。


 紬も剣を抜き、橋へ降りてきた別の一羽を斬る。危なげはなかった。


「ボスさえ見つかれば、その日のうちに終わるって。姉はS級ですし、僕も、そう思っていました」


 航が再生を進めた。


 島の向こうから、大きな翼が現れた。


 羽の一本が、人の腕ほど長い。


 曲がった嘴。太い脚と、黒い鉤爪。全身を白い羽に覆われた、巨大な鳥だった。


 羽ばたくと、橋の上の人たちが一斉に伏せた。


 紬が空へ上がり、仲間へ近づく鳥の横へ回る。


 鳥が身体をひねった。


 大きな翼が紬を打った。彼女が石柱へ叩きつけられ、仲間の声が重なる。


 そして、さっきの悲鳴だった。


 航が映像を止めた。


「連絡も、配信も、ここで全部切れました。姉も、ほかの人も、返事をしてくれません」


「何人、動けるかも分からねえんだな」


 ヴィクターの問いに、航が頷いた。


 ミカは、止まった画面を見直した。


 倒れている紬の片腕が、鳥へ向かって伸びている。


「協会には頼んだのか」


 カインが尋ねた。


「昨夜から、会社と一緒に。近くで救援を頼めるS級は、ほかのダンジョンに入っていて。ボスを倒すまで戻れないそうです」


「期限は?」


「明日の朝六時です」


 航が、入口を撮った画像へ切り替えた。


【入場上限 十名】

【帰還条件 主の討伐】


 その下に、期限が浮かんでいる。


「青梅には、こんなの出てなかったぞ」


「青梅は、いつでも帰れる通常型です。人数と期限が出るのは時限型。ここは、ボスを倒すまで帰れません」


 航が、画面の期限を指した。


「これを過ぎれば門が消えて、中の空間が松本側につながります。あの鳥も、町へ出てこられるようになるんです」


 十人まで。


 もう六人が入っているから、残りは四人だった。


 ロッカとティーラ、ヴィクター。それに、自分。


 ミカは隣の三人へ目を向けた。


 航の端末が震えた。画面を見た彼は、唇を結んで通知を閉じる。


「協会の担当からです。攻略の見通しを早く出してほしいって。昨日から、何度も」


 画面には、未確認の連絡がいくつも並んでいた。


「周りの町では避難も始まっています。会社も、ほかに入れる人を探してます。でも……」


 航が端末の画面を切り替えた。


 映っていたのは、立川のボス部屋だった。


 大爪熊が走り出す。


 ティーラが腹を殴り、下がった顎を打ち上げた。熊が倒れる。


 ミカは、あの日の画面を覚えていた。


「相原さんに相談したら、皆さんのことを教えてくれました。僕には、このB級の熊も倒せません。でも、ティーラさんは、二発で」


 航が次の映像を開いた。


 坑道の甲殻獣を、ロッカとヴィクターがひっくり返している。


 後ろでは、ティーラが負傷した浦野を守っていた。


「あの甲殻獣も、弱い魔物じゃありません。殴り飛ばさずに倒して、動けない人も連れて帰った」


 ミカは、端末を操作する航の指を見た。


 爪の脇の皮が、赤くなっていた。


「何度も見ました。この五人なら、って」


 航が顔を上げた。


「皆さんの力を信じて、お願いに来ました。姉たちを、助けてもらえませんか」


 ロッカが、椅子の背から鞄を取った。


「俺は行くよ」


「ボクも」


 ティーラも立ち上がった。


「人を運ぶものも、持っていくぞ」


 ヴィクターが言うと、カインが端末を開いた。


「入口の場所と、今ある映像を全部送れ。切れる前に歩いた道もだ。俺はここから見る」


「……え。やっぱり、私も行く流れ?」


 ミカは自分を指さした。


「ロッカたちはさ、強いじゃん? 私は普通にF級だからね。熊が来たら、普通に逃げるからね」


「いいよ。そいつは俺たちで止める」


 ロッカは、当たり前のように答えた。


「ミカには、見えたものをカインへ伝えてほしい」


「お前の映像がなければ、俺も中が見えん」


 カインが端末から顔を上げた。


 あの坑道でも、ポチを動かすたびに、カインから返事が来た。


 ミカは画面に残る白い羽を見てから、航へ目を向けた。


「……分かりました。私が撮ります。でも、移動は私の速さでお願いします」


「おう。歩幅、合わせる!」


 ヴィクターが頷いた。ティーラも、ミカの隣へ来る。


「一緒に歩こう。足元も、ボクが見る」


 ミカの前へ、依頼書の画面が向けられた。


「私たち、全員F級ですけど。入れるんですね?」


「はい。民間の入口ですから、等級で一律には止めません。うちの責任者が、皆さんへお願いすると決めました」


 航が五人の名前を示す。


「救援に必要なものと移動の費用は、会社が出します。報酬もお支払いします」


 ミカは頷いた。


 それから、自分の端末を出す。


「私たちが入ってからの映像は、外に配信しても大丈夫?」


「はい。ただ、救助された方の顔や怪我は、本人の確認が取れるまで公開しない条件です」


「分かった。その間は、カインさんたちへの中継だけにするね」


「ポチ」


 肩の横で、丸いレンズが動いた。


「録画を始めるのは、出発してから。航くんに、私たちの映像も送れるようにして」


「承知しました」


 ミカは航へ向き直った。


「お姉さんを見つけたら、まず知らせる。外で待っていてね」


 航は何か言いかけ、頭を下げた。


「……お願いします」


 そのあと、ミナトのテーブルには、出発の支度が次々に並んだ。


 ロッカは鞄の中を確かめ、図鑑を入れ直した。穂先を覆った槍と、袋に入れた牙斧も持つ。


 ヴィクターが会社から届いた担架と救急道具を受け取った。


 ティーラは食料の包みを自分の荷物へ入れ、ロッカに頷いた。


 カインは送られてきた映像を開く。


「ミカ。入ったら、最初に周りを映せ。今の俺には、昨日の道しか分からない」


「はい」


 四人で店を出ると、リラが裏口から追いついてきた。


「これ、持っていって。向こうへ行くまでにも、食べてね」


 渡された袋には、包んだサンドが入っていた。


「ありがとう。行ってくるよ」


 ロッカが受け取り、ミカたちと店先に停まっていた会社のワゴン車へ乗り込んだ。


 車は、立川市内にある飛行車の発着場へ向かった。ミカは移動の間、航から届いた画像を見ていた。


 画面の端にある白い翼が、何度見ても大きい。


 発着場に着き、四人は会社の車を降りた。荷物を下ろして向かった先には、青い飛行シャトルが待っていた。会社が手配した、松本行きの空飛ぶ車だ。車体の左右には、大きな回転翼がついている。


 ミカはその車体を背に、配信を始めた。


「皆さん、こんにちは。今日は、救援の依頼で松本へ向かいます」


〈空中庭園の?〉

〈紬さんの配信、昨日止まったままだよな〉

〈あそこに行くの?〉


「うん。中には六人。今の様子は、まだ分かりません。私たちは四人で入ります。カインさんも、外から一緒です」


『聞こえている』


 カインの声がした。


 ヴィクターが担架を搭乗係へ渡す。ロッカも槍と牙斧を預けた。


 ミカは四人の荷物が載ったのを確かめ、開いた扉から機内へ入った。窓際に座ったロッカの隣へ腰を下ろす。


「コメントです。航さんから。『頼む。姉ちゃんの顔、もう一回映してくれ』」


 ポチの声に、ミカは端末を見た。


 航だった。


 入力欄へ指を伸ばしかけ、カメラを見上げる。


「うん。見つけてくる」


 隣で、ロッカがベルトを留めた。


「ミカ。あの映像、もう一回見せてくれ」


「鳥のところ?」


「ああ。脚が見えるところ」


 ミカは航から届いた動画を開き、ロッカへ向けた。


 大きな回転翼が動き始め、窓の外で係員が離れていく。


 ロッカは、手元の映像を見ていた。


 鳥の脚が伸びるところまで戻し、もう一度再生する。


「おい、ロッカ! 飛んだぞ!」


 通路の向こうから、ヴィクターが声を張った。


「いや、今、映像を――」


 顔を上げたロッカが、窓へ振り向いた。


「うわ! 飛んでんじゃん!」


 発着場の車が、もう小さく見えた。建物の屋根が下へ遠ざかり、その向こうに街が広がっていく。


「すげえ! 見てみろ、ティーラ! 飛んでるぞ!」


 ティーラも、反対側の窓へ顔を向けた。


「うん。飛んでる」


 それから、通路越しにロッカを見た。


「ロッカ、嬉しそう」


「嬉しいよ。ほんとに飛ぶんだな、これ!」


「ボクも嬉しい」


 ミカは、あの青いノートを思い出した。


 空飛ぶ車に乗ってみたい。


 ロッカが言ったことを、自分で書いた。


 ポチが窓辺の二人を順に映すと、コメントが流れた。


〈飛ぶより鳥の脚に夢中だったのかw〉

〈そっちは初めてなのね〉

〈ティーラまで嬉しそう〉


「……大丈夫かな、この人たち」


 ミカは小さく呟いた。


 ロッカは名残惜しそうに外を見てから、ミカへ向き直った。


「さっきの続き、いいか。鳥が下りてくるところ」


「うん。ここね」


 画面の中で、白い鳥が両脚を伸ばした。


 ロッカが、その爪を指さす。


「ティーラ」


「うん」


「こいつも、下りるときには脚を出すんだな」


 ティーラが画面を覗き込んだ。


「つかむつもりだね」


「だったら、届く」


 ロッカは顔を上げた。


「飛べなくても、捕まえられるぞ」


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