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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第016話 一緒に帰れ

「戻りました! 怪我をしているのは、この方です!」


 青い光を抜けたミカは、外で待っていた医療班へ手を上げた。


 青梅ダンジョンのゲート前。十一時三十八分。ロッカとヴィクターが担架を運び出すと、医療班の二人がすぐに駆け寄った。


 医療班の案内で、用意されていた搬送台へ浦野を移した。ロッカとヴィクターが手を離す。


 ティーラも、青い工具箱を抱えて隣に立っていた。


「浦野。箱も、あるよ」


「……よかった」


 浦野が顔を向けた。医療班が付き、救急車へ運んでいく。


 ミカはポチを自分たちへ向けた。


「カインさん、引き渡しました。四人とも、外です」


『聞こえた。ご苦労だった』


 その声を聞いて、ようやく肩が下がった。


〈帰ってきたあああ〉

〈箱も人も帰った〉

〈お疲れ! 本当にお疲れ!〉


 管理棟の入口では、颯太が祖父の手を握って立っていた。


「浦野さん、大丈夫ですか」


「うん。話もできたよ。今から病院で、ちゃんと診てもらうから」


 ミカが答えると、祖父が深く頭を下げた。


 工具箱はいったん職員に預けた。落ち着いてから自分で渡したいという浦野の願いに、祖父も頷いた。


 ヴィクターが両腕を伸ばす。


「よし。帰ったら肉だ! 今日は食べ放題にするぞ!」


「ヴィクターさんのおごりですか?」


「任せろ! 俺は働いた分だけ食う男だからな!」


 ロッカが顔を向けた。


「食べ放題って、どれだけ持って帰ってもいいのか?」


「その場で食べる分だけだよ」


「そっか。冬の肉、一日で集まるかと思った」


 ミカはロッカの顔を見た。本気だった。


「店の肉を、干して蓄えるつもりだったの?」


「ああ。いい店だなって」


「俺も気に入ったぞ、その店!」


「ヴィクターさんまで乗らないでください!」


〈目的が冬支度w〉

〈食べ放題の店を狩り場にするな〉

〈帰ってきたらこの会話なの安心する〉


「コメントです。『カインの分も忘れるなよ』」


『俺の分は、普通に買ってこい。干す前のやつだ』


 ミカは吹き出した。笑うと、少しだけ足に力が戻った。


「皆さん、最後まで見てくれて、ありがとうございました。今日はここまで。またね!」


 配信と録画を止め、ミカはポチを肩の横へ戻した。


 借りた担架と救急袋、中継器を返し、預けていた皮の服の袋も受け取った。ヴィクターが袋を持ち、四人で管理棟を出る。


 四人で昼食を済ませ、ミナトへ戻った。その日の夕方、病院で脚の処置を受けた浦野から、翌朝なら会えると連絡が入った。


 翌二十六日の午前。ミカたちは、もう一度青梅の管理棟へ来ていた。


 待合室の机の前で、浦野が車椅子に座っている。脚は固定され、片方を前へ伸ばしていた。


 机の上には、青い工具箱があった。


 浦野と颯太、祖父に確かめ、箱と手元、声だけを配信することにした。


 ポチの映像は、ミナトにいるカインにも届いている。


〈あの青い箱だ〉

〈今日は返すところ?〉

〈受け取るところまで見たかった〉


「お待たせしました」


 浦野が箱を差し出した。


 颯太は両手を伸ばしたが、持ち上げずに、黄色いテープへ指を置いた。


「ここ、まだ同じだ」


「持ち手が割れたとき、お母さんが直したんだよね」


「……うん。新しい箱、買わないのって聞いたんです」


 浦野が頷いた。


「俺も聞いたよ。颯太くんが選んでくれた箱だから、これがいいんだって」


 颯太の指が止まった。


「重かったら、嫌かなって思ってた」


「いつも持ってきてたよ。雨の日も、この箱だった」


 浦野は留め具を外し、蓋を開けた。


 大きさごとに並んだ道具が見えた。昨日、ミカが使った長いレンチも、元の場所に収まっている。


〈昨日のレンチだ〉

〈全部そろって帰ってきたんだな〉


「母さん、使ったら同じところに戻せって、うるさくて」


 颯太がレンチの柄に触れた。


「戻さないと、次に困る人がいるからって」


「うん。俺も何度か怒られた」


 浦野が少し笑った。


 颯太も笑いかけた。けれど、口元が震え、うまく笑えなかった。


 ミカは何も言わずに待った。


「これ、昨日、使ってくれたんですよね」


「借りたよ」


 ミカは頷いた。


「浦野さんに教えてもらって、私が。扉を開けるのに、すごく助かった」


 颯太は、レンチを持ち上げた。


 両手で握り、しばらく見つめてから、向きを確かめて元へ戻す。


「……ボク、使い方、分からないのもいっぱいある」


「知りたくなったら聞いて。今度は、俺が教えるから」


 浦野が答えた。


 颯太は蓋を閉め、一つずつ留め具を掛けた。持ち手を握って引き寄せ、胸の前で箱を抱える。


「おかえり」


 小さな声だった。


 机の縁に、涙が一つ落ちた。


 ロッカは、颯太の手から箱が滑らないよう、底へ手を添えた。


「颯太」


 少年が顔を上げる。


「今度は、一緒に帰れよ」


 颯太は頷いた。箱を抱え直して、顔を伏せた。


 祖父がその背中へ手を置いた。


〈おかえり〉

〈浦野さんから返せてよかった〉

〈五人とも、ありがとう〉


 ミカはしばらく、箱の黄色い持ち手を映していた。


 帰り際、撮影を終えてから、颯太が祖父の袖を引いた。


「おじいちゃん。お礼、お肉はどうかな」


 颯太がこちらを見た。


「皆さん、お肉、好きですか」


「大好きだ!」


 ヴィクターが答え、ロッカとティーラも頷いた。


『俺の分も忘れるな』


 端末からカインの声がした。


 颯太が、赤い目のまま少し笑った。


「じゃあ、おじいちゃん。ちょっといいやつにしよう」


 颯太と祖父を見送ると、職員がロッカへ封筒を差し出した。


「ご両親のお墓の場所が分かりました。市内の霊園です。道順も入れてあります」


 ロッカは紙を開いた。ティーラも隣から地図を覗き込む。


「ここに、いる?」


「ああ」


 ロッカは印に指を置いたまま、しばらく動かなかった。


「花、買っていきたいな」


「うん。行く前に寄ろう。お線香もいるね」


 ミカが答えると、ロッカは上着のポケットに触れた。


「俺が払うよ。働いた金、まだあるから」


 紙を折り直し、図鑑の入った鞄へしまう。それから、隣にいるティーラを見た。


「父さんと母さんに、おまえを紹介したいんだ」


「ボクのこと?」


「うん。三十年、俺をひとりにしなかったやつだって」


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