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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第015話 母さんの道具を借ります

『ミカ、歯車の奥を映せ』


 カインの声に、ミカはポチを鉄扉の脇へ寄せた。


 青梅ダンジョンの復旧区画。下りた扉の手前に、浦野を乗せた担架が置かれている。


 現在、十一時二十一分。危険な区画から戻る期限の十一時四十分まで、あと十九分だった。


 ミカは欠けた歯車へ明かりを向けた。奥にも何かがあるが、手前の金属に隠れて見えない。


「ここ、使ったことがあります」


 担架から浦野が顔を上げた。


「手前の歯車を外せば、手で回す軸が出ます。電動の方が駄目でも、そちらなら」


『聞こえた。どれを外すか、ミカに教えてくれ』


「ただ、先に扉を支えてください。外すと、そのまま落ちます」


「俺だな!」


 ヴィクターが扉の前へしゃがんだ。床との隙間へ両手を入れ、指の付け根まで差し込む。


「少し持ち上げる。枠が動いたら言ってくれ」


 扉がわずかに浮いた。ロッカが壁際で、傾いた支柱を見上げる。


「そこで止めてくれ。枠は動いてない」


「よし。重さは俺が持つ!」


〈扉持つ係が決まるの早い〉

〈これでも殴るより簡単そうに言うんだな〉

〈手、挟むなよ〉


 ミカの端末から、カインが続けた。


『ここから閉鎖区画の柵まで、担架で八分見ておく。十一時三十分には、この扉を抜けろ』


「九分で開けるんですね」


『抜ける時間も含めてだ。ミカ、手元を映したまま作業できるか』


「できます」


 ポチの位置を決め、端末を上着のポケットへ入れた。両手を空けると、ティーラが青い工具箱を足元へ置いてくれた。救急袋も担架のそばへ下ろす。


「使っていいです。長いレンチが、上にあります」


 浦野が言った。


 ミカは留め具を開いた。道具が大きさごとに収まり、長く使われた柄だけが滑らかに光っていた。


「颯太くん。お母さんの道具、借りるね」


 カメラへ声をかけ、レンチを取り出す。


〈あの箱、ここで使うのか〉

〈返す前にもう一仕事〉

〈ミカちゃん頼む〉


 浦野に教わった留め具へ工具を掛けた。両手で引くと、固かったナットが少し回った。


 ミカは息を吐いた。


「回りました」


〈回った!〉

〈ミカ、部品落とすなよ〉


「そのまま緩めてください。歯車は、抜くと落ちますから」


「こっちは俺が持つ」


 ロッカが横から手を入れ、割れた歯車をつかんだ。ミカがナットを外すと、彼がゆっくり引き抜く。


 残った軸には、棒を通すための穴があった。周りが金属で囲われていて、手では握れそうにない。


『ロッカ、斧の柄が使えるか』


「この穴へ通すんだな」


 ロッカが外した歯車を壁際へ置き、腰の牙斧を抜いた。長い柄を穴へ差し、両側から握る。


 ミカはポチで、軸の横に刻まれた矢印も映した。


『その向きへ回せ。ヴィクターは下から支えたままだ』


「おう!」


 ロッカが柄を押した。軸が回り、扉につながる鎖が張る。


 だが、扉は途中で止まった。


 ロッカもすぐに手を止めた。壁の亀裂から、細かい砂が落ちてくる。


「まだ押せるけど、これ以上やると柄が折れるぞ」


『止めたまま待て。ミカ、扉の端を見せろ』


 ポチを下げようとすると、ティーラがミカの袖を引いた。


「そこ、踏まないで」


 足を出しかけた先で、床板が斜めに浮いていた。


 ミカは一歩引いた。ティーラが板を押さえ、ミカの立つ場所を空ける。


「ありがとう。ポチ、下からお願い」


 レンズが扉の下へ向いた。歯車の箱がある側の縁が、曲がった金具に引っかかっている。


「ここ、引っかかってます」


 ミカが指で示した。


『見えた。ヴィクター、ミカのいる方の手を少し上げろ。枠へ押しつけるな』


「任せろ」


 ヴィクターの腕に力が入り、扉がわずかに傾いた。引っかかっていた縁が、金具から離れる。


「抜けた!」


 ミカが叫んだ。


「ロッカ、回してくれ!」


 牙斧の柄が、ゆっくり下がった。鎖が巻き取られ、今度は扉も上がっていく。


 ヴィクターが膝を伸ばす。大きな身体が扉の下へ入り、両腕を上へ突き出した。


〈一人で持ってる……〉

〈殴らずに開けたぞ!〉

〈まだ手を離すなよ〉


「留め棒が、横に三本あります。それを奥まで!」


 浦野の声で、ティーラが扉の脇へ走った。


 太い棒が三本、壁から途中まで突き出ている。ティーラが一本を押したが、扉へ届いたところで止まった。


「ロッカ、少し戻して。穴が、棒より上」


 ロッカが柄をほんの少し引き戻し、ヴィクターも支える手を下げた。


 棒が穴へ滑り込んだ。ティーラが二本目を押す。続いて三本目も、奥まで収まった。


「全部、入ったよ」


『ヴィクター、ゆっくり手を緩めろ。ロッカはまだ離すな』


 ヴィクターの肘が下がった。扉は落ちなかった。ロッカも軸から少しずつ力を抜く。


 三本の棒が、扉を支えていた。


 曲がった金具は、もう引かれていない。


〈止まった!〉

〈全員通れるぞ〉


 ミカは端末を取り出した。


 十一時二十八分。


「通れます。三十分より前です!」


『工具を戻して、出ろ』


「コメントです。『こっちも息止めて見てた』」


 ミカはレンチを元の場所へ収め、箱を閉じた。ロッカも牙斧を抜き、柄を一度確かめてから腰へ戻す。


 ティーラが工具箱と救急袋を持つ。ロッカとヴィクターは、担架の頭側と足側へ戻った。


「いくぞ、浦野さん」


「……はい」


 担架が持ち上がった。ティーラが先に扉をくぐり、ミカもポチを向こうへ飛ばす。


 二人が足を揃え、担架を鉄扉の下へ通した。


 ミカは最後に三本の棒を振り返り、扉から離れた。


 帰り道の段差では、ティーラが先へ上がって待っていた。担架が傾かないよう片側を支え、その間にロッカが足を上の床へ移す。


 ヴィクターも続き、浦野の脚は水平なまま越えられた。


 入口側の通信につながったところで、ミカは借りた中継器を外し、鞄へしまった。カインの声も、配信も途切れていない。


 大岩をどかした場所では、確認班の職員が待っていた。


「こちらへ。入口側まで、道を確かめてあります」


 ミカは工事用の鉄扉が途中まで下りたことと、三本の棒で固定したことを伝えた。職員が無線で鉄扉の状態を知らせ、奥への進入を止める連絡をした。


「颯太くんとお祖父さんも、管理棟に着いていますよ」


「ありがとうございます。もうすぐ戻ります」


 閉鎖区画の柵が見えた。


 担架が越え、ロッカ、ヴィクター、ティーラ、最後にミカも閉鎖区画の外へ出る。まだ洞窟の中だが、その先は探索者のいる、照明の点いた通路だった。


 十一時三十五分。


〈全員出た?〉

〈工具箱もある〉

〈よかったあああ〉


『四人とも、返事しろ』


「俺はいる」


「おう!」


「ボクも」


「私もいます。浦野さんも、一緒です」


 ミカが答えると、端末の向こうで息を吐く音がした。


『よし。医療班が門の外で待っている。そのまま行け』


 ティーラが工具箱を持ち直した。ミカは、その黄色い持ち手に一度触れた。


「ありがとう。道具、全部戻したよ」


 担架の上から、浦野がこちらを見た。


「あの子に、自分で渡せますね」


 ミカは頷いた。


「はい。颯太くん、もう待ってますよ」

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