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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第014話 壊すな、ヴィクター

「前を持ち上げる。そっちから押してくれ」


 ロッカは甲羅をつかんだ右手に、力を込めた。


 青梅ダンジョンの復旧区画。作業場の中央で、甲殻獣の頭が持ち上がる。前の脚が二本、床を離れた。


 残る脚が踏ん張ろうとしたところへ、ヴィクターが肩を入れた。


「おおっ!」


 甲羅が横へ傾く。ロッカもつかんだ縁を持ち上げ、巨体を回した。


 六本の脚が、天井を向く。


「そのまま下ろせ。壁にぶつけるなよ」


「分かってる!」


 ヴィクターが甲羅の横へ両手を添えた。ロッカと二人で支えながら、最後まで転がす。


 ずん、と床が鳴った。


 甲殻獣は仰向けになっていた。すぐ脇にいたヴィクターが、起き上がろうとする甲羅の縁を押さえ込む。


「よし。今だ!」


〈ひっくり返した!〉

〈二人いるとこんな簡単なのかよ〉

〈壁が無事だ……〉


 ロッカは左手の槍を、両手で持ち直した。


 甲殻獣の爪が、頭の近くを掠めた。半歩下がって避け、暴れる脚の間を見る。


 腹の殻には継ぎ目がある。脚の付け根には、柔らかい皮が見えていた。


 そこへ槍を突き下ろした。


 牙の穂先が深く沈む。柄を押し込むと、暴れていた脚が一度大きく震えた。


 ロッカは槍を抜かずに待った。やがて脚が垂れ、甲羅も動かなくなる。


「……止まったな」


「おう」


 ヴィクターが手を緩めた。


〈槍、飾りじゃなかった〉

〈脚が止まるまで待ったのか〉


 ロッカも槍を引き抜き、避難所へ顔を向けた。そのとき、ミカの声がした。


「ティーラ、もう一匹!」


 同じ穴から出てきた小型の甲殻獣が、壁沿いに走っていた。


 大きい方とは違い、膝より少し高い。だが、向かう先には、負傷した男のいる扉があった。


 ロッカが踏み出すより早く、ティーラが走った。


 扉の前へ入り、甲殻獣と向き合う。伸びてきた爪を横へ払い、頭を真上から殴り下ろした。


 硬いものが割れる音がした。


 小型の身体が、その場で床へ落ちた。ティーラは脚が動かなくなったのを確かめると、鼻先を扉から遠ざけるように引いた。


「こっちも、大丈夫」


〈そっちにもいたの!?〉

〈はっや〉

〈場所取りの熊の時といい、この子も強すぎる〉


 ロッカは作業場を見渡した。穴の奥から続く足音はない。ティーラもそちらへ耳を向け、首を横に振った。


「ミカ。あの人のところへ行こう」


 声をかけ、ロッカは穂先を床へ向けて避難所へ歩いた。


 ヴィクターはミカの後ろへ戻り、担架と救急袋を取ってきた。


 避難所の男は、扉の内側へ深く座り込んでいた。


「もう大丈夫だ。名前、聞いてもいいか?」


「浦野《うらの》です。……あの、壁は」


「ぶつけてない。何ともなってないよ」


 ロッカが答えると、浦野は扉の横へ手をついた。その手が、小さく震えている。


「すみません。見てることしか、できなくて」


「いいんだ。待っててくれて助かった」


 ロッカは槍を扉の外の壁へ立て、鞄を足元に下ろした。腰の牙斧も邪魔にならない位置へずらし、浦野のそばへしゃがむ。


 作業ズボンの膝から下が裂け、血が滲んでいた。無理に動かさないよう、横へ置かれた青い工具箱を少し離す。


「ミカ、今、何時だ?」


「十一時十四分。外の医療班にも、状態を伝えます」


 ミカが医療班へ状態を伝え、救急袋を開いた。指示を聞きながら傷を覆い、脚に添え木を当てて固定する。


 ポチは扉の外から、手元を映していた。


〈よかった、二匹とも止めた〉

〈まだあと二十六分ある〉

〈帰るまで見てるからな〉


 ロッカが背中を支えている間に、ヴィクターは担架を広げた。留め具を一つずつ確かめ、浦野のすぐ横へ置く。


 ティーラは扉の外で、穴の方を見ていた。


「まだ、立てないか?」


「はい。ここへ逃げたときは、もう」


 浦野が脚へ目を落とした。


「戻る途中で石が落ちてきて。抜けたんですが、無線も潰れてしまって……」


「そっか。呼んでも返事がなかったから、心配したんだ」


 ロッカは青い箱を指した。


「それ、颯太に返すやつだろ?」


 浦野が顔を上げた。


「あの子が?」


「俺たちのところへ、取りに行ってくれって来たんだ。おじいさんと一緒に」


「……そうでしたか」


 浦野は箱へ手を伸ばしかけ、途中で下ろした。


「お母さんと、同じ班だったんです。この箱も、颯太くんのおじいさんから貸していただいて」


「うん。聞いたよ」


「急な修理が続いて、何度も返す日を延ばしてしまって。あの人が手入れしていた道具だから、使いやすくてね」


 箱の持ち手には、何重にも黄色いテープが巻いてある。


「持ち手が割れたときも、買い替えればいいのに、子供が選んだ箱だからって。直して、ずっと使ってたんですよ」


 ロッカは、黄色いテープの巻かれた持ち手を見た。


「……颯太が選んだのか」


「ええ。今朝は、きちんと返そうと思っていたんですが」


「じゃあ、持って帰ろう。颯太に、その話もしてやってくれ」


〈買い替えなかった理由それか〉

〈この箱もちゃんと帰してやって〉


 浦野は頷いた。口元を手の甲で一度拭い、ミカへ顔を向ける。


「お願いします。帰りたいです」


「はい。運びますね。今、皆で持ち上げます」


 ロッカとヴィクターが、ミカの声に合わせて浦野の身体を支えた。脚を揺らさず担架へ移し、身体を留める。


 ティーラが救急袋を受け取り、使ったものをまとめた。


「箱は、ボクが持つよ」


 黄色い持ち手をつかみ、空いた肩へ救急袋を掛ける。


「落とさないから」


 浦野は、もう一度頷いた。


「コメントです。『浦野さん、帰ろう』」


 ポチが読むと、浦野は扉の外へ目を向けた。


「見てる方も、いるんですね」


「はい。皆、帰るところを待ってます」


 ミカが答え、端末を持ち直した。


『手当てが済んだなら出ろ。通路を見せてくれ』


 カインの声だった。


 ロッカは鞄から布を出し、槍の穂先に巻いた。鞄を肩へ掛け直し、槍を背中の革帯へ差してから、担架の頭側へ回る。


 足側にはヴィクターがついた。ティーラを先に、ミカとポチも扉の外へ出る。


「いくぞ」


 二人で持ち上げると、浦野が担架の縁を握った。


「揺れたら言ってくれ。ゆっくり行くから」


 ロッカが声をかけると、握っていた指が少し緩んだ。


 角で足を止め、ヴィクターと担架の向きを合わせる。浦野の脚が揺れていないのを見てから、ロッカは次の一歩を出した。


 帰り道の二つ目の角まで来たところで、ティーラが止まった。


「ロッカ。扉が下がってる」


 天井まで上がっていた工事用の鉄扉が、今は床のすぐ上まで落ちていた。脇の壁には新しい亀裂が走り、扉を支える金具が曲がっている。来るときには通れた道が、塞がれていた。


 ミカが壁際の操作盤へ近づき、開くボタンを押した。


 金属が空回りする音がしただけで、扉は動かない。


「カインさん、開きません。十一時二十一分です」


 ロッカたちは、担架を平らな床へ下ろした。


 扉の横には、蓋の外れた歯車の箱があった。欠けた歯と、小さな金属片が底へ落ちている。


〈ここ、来る時は開いてたよな〉

〈十九分で戻れる?〉


「ロッカ」


 ヴィクターが鉄扉を見た。


「壊すか?」


「壊すな、ヴィクター」


 ロッカは、扉の上で斜めになった支柱を見上げた。


「上の石まで、一緒に来る」

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