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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第013話 四人で入る、五人で戦う

「少し浮かせるぞ。上を見ててくれ」


 ヴィクターが、通路を塞いだ岩の下へ指をかけた。


 ミカの背より高い岩だった。壁と壁の間に挟まり、その上にも大小の石が積み重なっている。奥の道は、どこにも見えなかった。


 青梅のゲートをくぐってから、ここまでは歩いて来られた。入口近くには探索者もいたが、復旧区画の柵を越えると、ほかの探索者の姿はなくなった。


 落石の手前に残っていたのは、確認班の職員二人だけだ。


 借りた担架と救急袋は、少し戻った通路の脇へ置いてある。ロッカもその隣へ鞄と槍を預け、岩の前へ来ていた。


 ミカは少し離れ、ポチに岩と三人の手元を映させた。協会の許可をもらった配信は、入口から続いている。


〈昨日の腕相撲の人たちだ〉 〈今日は岩を運ぶの?〉 〈人よりでかいんだけど〉


 ヴィクターが膝を伸ばす。大岩がほんの少し持ち上がり、上から小石が落ちた。ロッカが手で受け、足元へ置く。


「止めて。上のやつが落ちそうだ」


「分かった」


 ヴィクターの腕が止まった。


 ミカはポチを上へ動かした。岩の上に隙間ができ、その奥で、別の石が傾いている。


「カインさん、見えます?」


『見える。画面をそこに固定しろ』


 映像は、ミナトにいるカインにも届いている。端末から、声が続いた。


『大きいのを抜くと、その石が奥へ落ちる。先に取れるか』


「ボクが持つ」


 ティーラが岩の横へ身体を寄せた。隙間から両手を入れ、胸ほどもある石を押さえる。


「ロッカ。こっちに動かして」


「ああ」


 ロッカが反対側から手を添えた。二人で石を傾け、手前へずらす。ティーラが胸元へ抱き取り、通路の端へ下ろした。


 顔にかかった砂を、ロッカが袖で払った。


「もう少し。上の小さいのも取ろう」


 ヴィクターは、大岩を持ったままだった。


 岩の下へ入れた指は、第二関節までしか隠れていない。ミカは自分の手元を見た。端末を握るだけの指にまで、力が入っていた。


「ヴィクターさん、大丈夫ですか?」


「ああ。まだ持てる。二人の手元を見ててやれ」


 返事をする間も、岩は動かなかった。


〈ずっと持ってるじゃん〉 〈指だけで支えてない?〉 〈この人に腕相撲挑んだ人がいるらしい〉


『ミカ、今度は下だ。ヴィクターの足元も入れろ』


「はい」


 ポチを下げる。ロッカが残る石を取り除き、ティーラも横へ離れた。


「こっちはいいぞ」


『ヴィクター、そのまま手前へ引け。ゆっくりだ』


「おう」


 太い腕が曲がった。岩の底が床を擦り、重い音が続く。ヴィクターが一歩下がると、大岩も同じだけ前へ出た。


 壁との隙間が開く。


 ロッカはそこを覗き込み、上を見た。


「止まって。まだ引っかかってる」


 ヴィクターが足を止める。


 ロッカが隙間へ手を伸ばした。挟まっていた細長い石を引き抜くと、上から砂がぱらぱらと落ちた。


 ミカは壁を見た。照明も、壁に通った管も動いていない。


「よし、いける」


 ヴィクターが、もう一歩下がった。


 大岩が抜けた。


 奥まで続く道が、ようやく見えた。


「どこへ置く?」


「こっち、空いてる」


 ティーラが手前の窪みを指した。ヴィクターは岩を少し浮かせたまま向きを変え、そこへ運んだ。


 ゆっくり膝を曲げる。岩が床へ触れ、指が抜かれた。


 職員が開いた道へ近づき、天井を照らした。残る石を確かめ、壁際の表示器にも目を落とす。


「今のところ、新しい動きはありません。通るときも頭上に注意してください」


 それから、無線へ顔を寄せた。


「通れます。岩、どかしてもらえました」


 言い終えてから、もう一度、開いた道を見た。


「……ありがとうございます」


「まだだ。中の人を出してからな」


 ヴィクターが両手の砂を払った。


 ミカも息を吐いた。壁を壊さずに、道だけが開いていた。


〈道が開いた!〉 〈重機が来る前に終わったぞ〉 〈誰も壁殴らなかったな〉


「コメントです。『五人とも仕事違うの、いいな』」


 ポチの声に、ミカはレンズへ一度だけ顔を向けた。


「カインさんも、店から一緒に働いてますよ。じゃあ、奥へ進みます」


 ロッカが槍と鞄を取りに戻る。ヴィクターも担架と救急袋を背負い直した。


 職員が、通路の横についた表示器の時刻を指した。


「奥の支柱に、まだ負担がかかっています。撤退期限は十一時四十分。更新があれば、すぐ連絡します」


 ミカはポチで、表示と時刻を一緒に撮った。


「カインさん、送りました」


 表示は十一時四十分。手元の時計は十一時八分だった。


『受け取った。そこを過ぎて作業を続けるな。帰る分の時間も残せ』


「はい」


 四人が先へ進む間、職員は開いた通路を見張り、後続の班を呼ぶことになった。


 落石の向こうは、照明が何本か消えていた。


 ロッカを先頭に、ティーラ、ミカ、ヴィクターの順で歩く。ミカは協会から借りた中継器を、通路に残った通信線へつないだ。


「カインさん、聞こえます?」


『聞こえる。その先の曲がり角を見せてくれ』


 ポチの明かりが、折れた管と床の亀裂を照らした。


『地図では、あと三つ曲がれば避難所だ。足元を見て進め』


 最初の角を曲がったところで、ロッカが止まった。


 床を横切る亀裂があった。片側が沈み、向こうの床との間に、膝ほどの段差ができている。


「ミカ、手を出して」


 先に渡ったティーラが、こちらへ手を伸ばしていた。


 ミカはその手を握り、段差を下りた。靴が砂で滑ったが、握る手は動かなかった。


「ありがとう」


「うん」


〈ミカちゃん転ぶなよ〉 〈ティーラちゃん手貸してくれるの好き〉


 ヴィクターも段差を越え、後ろを振り向いた。帰りに人を乗せて通れるか、背中の担架と通路の幅を見比べている。


 二つ目の角で、ティーラが顔を上げた。


「……今、聞こえた」


 全員が止まった。


 ミカも足を揃えた。ポチが近くで低く唸っているほかは、何も聞こえない。


「もう一回、呼んでみて」


 ティーラがロッカを見る。


「助けに来た! 聞こえるか!」


 ロッカの声が、暗い通路の奥へ響いた。


 ミカは息を止めた。


 遠くで、かすかに何かが擦れた。


「……いる」


 ティーラが最後の角を指した。


「あの向こう。人の声」


「聞こえたぞ! 今そっちへ行く!」


 ロッカが歩き出した。


 角を曲がると、少し広い作業場へ出た。向かいの壁に『避難所』の札があり、鉄の扉が半分だけ開いている。


「こっち、です……!」


 声がした。


 今度は、ミカにも聞こえた。


「カインさん、いました。生きてます」


 言いながら、端末を持ち直した。指が震えて、画面が少し揺れた。


〈返事した!〉 〈よかった、生きてた〉 〈あと帰るだけだぞ。頼む〉


『聞こえている。ポチを扉へ向けろ』


 ミカはポチを低く飛ばし、扉と足元を映した。明かりの届いた先で、作業着の男が片手を上げる。扉の内側に座り、片脚を投げ出していた。


 その脇には、青い箱が置かれていた。持ち手に、黄色いテープが巻いてある。


「足を……挟まれて。もう抜けたんですけど、立てなくて」


「担架があります。歩かなくて大丈夫ですからね」


 ミカが声をかけると、男の手が少し下がった。


「……よかった」


「分かった。そこにいてくれ」


 ロッカが、作業場の横へ顔を向けた。


「……何か来る」


 槍の穂先から布を外し、鞄へしまう。暗い穴の奥で石が転がり、ミカもポチをそちらへ向けた。


 ティーラがミカの前へ入る。


「ミカ、下がって」


 黒い脚が、穴の縁へかかった。


 続いて、丸い甲羅が出てきた。作業台を押し倒しながら、六本の脚で床を掻く。頭だけでも、ミカの胴より大きい。


〈でかいでかい〉 〈扉の方に行ってる!〉 〈そこ人いるって!〉


『甲殻獣だ。そいつを避難所へ行かせるな』


 カインの声と一緒に、男が扉の奥へ身を引いた。


 甲殻獣は、その動きに頭を向けた。


 ロッカが床の石を拾い、投げた。甲羅に当たり、石が砕ける。六本の脚が止まった。


「ヴィクター。あの人を運ぶ前に、こっちだ」


「おう」


 ヴィクターが担架と救急袋を、ミカの後ろへ下ろした。


 甲殻獣が向き直る。低く頭を下げ、ロッカへ突っ込んできた。


 ロッカが作業場の真ん中へ出る。槍を左手へ持ち替え、空いた右手を伸ばした。


 甲羅の縁をつかむ。重い音が響いた。ロッカの靴が砂を削り、そこで止まった。


 六本の脚が床を掻く。甲殻獣が頭を振っても、右手は離れない。


 避難所の男が、扉の隙間から目を見開いていた。


〈片手!?〉 〈槍まだ使ってないのかよ〉 〈昨日はこの人が負けたんだよな……〉


「ヴィクター、横から押さえてくれ!」


 ヴィクターが甲殻獣の横へ回った。すぐには手を出さず、避難所の扉を確かめる。


 ミカはティーラの脇から、ポチを低い位置へ動かした。甲羅の下で踏ん張る脚と、床を一緒に映す。


「カインさん、足元も入れました」


「殴ると、あの壁まで飛ぶぞ」


『なら、飛ばさずに倒せ。そいつの足元を見ろ』


 カインの声に、ヴィクターが拳を開いた。


「よし。転がすぞ、ロッカ!」

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