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恐竜ダンジョンで30年生き抜いた男、ドラゴンを素手で止めたらダンジョン配信でバズった~新人F級ですが、相棒のティラノサウルスも人間になったので一緒に無双します~  作者: レイヴ
第一章 帰ってきた原始人

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第012話 母さんの工具箱

「母さん、機械を直す仕事をしてたんです」


 颯太は、広げた地図の端を押さえていた。


「家の時計も、扇風機も。壊れたら、持ってきなって」


 白髪の男が、その隣へ立った。


「八月の災害で亡くなりまして。今は、私と暮らしています」


 ミカは頷き、二人にも椅子を勧めた。


 二〇五六年十月二十五日の朝。開店したばかりのミナトには、まだほかの客はいなかった。


「工具箱は、青梅のダンジョンにあるんですか?」


「はい。娘と同じ復旧班で働いていた方へ、私が貸したんです。使ってもらえればと思ったのですが、この子に残してやりたくなりまして」


 祖父が地図の赤い丸を指した。


「この保管室に置いてあるそうです。何度か返す日が延びて、今朝、点検に入る人が持ち帰ってくれる予定だったんですが」


「……まだ、返ってきてないんですね」


「配信で、昨日の熊を見ました。あんなに強いなら、取りに行けるかなって」


 颯太が顔を上げた。


「青い箱です。持つところに、黄色いテープが巻いてあります」


「分かった。まず、今どうなってるか聞いてみよう」


 ミカは端末を取り出した。青梅の管理棟には、部屋の返却について連絡したばかりだ。


 事情を話すと、担当者が調べてくれた。


『箱の回収は、本日の作業予定に入っています。ただ、担当の作業員が、戻る時刻を過ぎていまして』


 ミカは地図から顔を上げた。


「連絡は取れてるんですか?」


『最後に、落石を避けて避難所へ向かうと。現地の班が確認に出ていますが、その先の通路へ進めずにいます』


「作業員は、一人ですか?」


『一人です。怪我の有無も、まだ確認できていません』


 ミカは車の手配画面を開いた。


「こちらから四人向かいます。協力できるか、責任者の方へ確認してもらえますか」


 職員が名前を聞き、ミカは四人分を答えた。


 通話を終えると、隣の席からカインが手を伸ばした。


「地図を見せてくれ」


 ミカが紙を寄せる。その間に、ロッカが颯太へ顔を向けた。


「箱を持ってきてくれる人、まだ中なんだな」


「……うん」


「俺たちで見に行く。颯太は、おじいちゃんと管理棟で待っていてくれ」


 颯太は膝の上へ手を揃えた。


「お願いします」


 ロッカが頷き、物置へ鞄を取りに立った。ティーラも、その後に続く。


「俺も行くぞ」


 ヴィクターが上着を肩へ掛けた。


「岩なら俺が動かす。場所が分かったら教えてくれ」


「はい。お願いします」


 ミカが答えると、カインは地図を撮って端末へ保存した。


「こっちは経路を見ておく。現地の図面も送れ」


「カインさん、連絡しますね」


 ミカが車を手配していると、祖父が颯太の肩へ手を置いた。


「私たちも、あとから電車で管理棟へ向かいます。待合室で待たせてもらいますので、どうか、無理だけはなさらず」


 ミカは頷き、地図を預かった。


 四人を乗せたワゴンが青梅の管理棟へ着く頃には、入口前に作業車が並んでいた。


 ミカが受付で名前を伝えると、職員が奥へ案内してくれた。窓の向こうには、屋根の下の青いゲートが見える。ゲートの手前で、ヘルメットをかぶった人たちが機材を下ろしていた。


「現場の担当者が戻るまで、少し時間があります。先に武器をお返ししますので、部屋の荷物も今のうちにまとめていただけますか」


「分かった。呼ばれたら、すぐ下りる」


 ロッカとティーラが二階へ上がる間、ミカはヴィクターと受付で待った。


 職員が用意した担架を、ヴィクターが一度広げる。留め具を確かめ、畳み直して救急袋のそばへ置いた。


 ほどなく、二人が服の入った袋と鍵を持って下りてきた。鍵を返し、服の袋は帰りまで預かってもらう。


 職員が奥の保管室から、長い布包みと牙斧を運んできた。


「こちらで、お間違いありませんか」


「ああ。ありがとう」


 ロッカは槍の布を少し開き、穂先の根元と柄の継ぎ目を確かめた。ティーラが、その下の革紐を指す。


「そこ、少し緩んでる」


「助かる」


 ロッカは紐を締め直した。牙斧の柄も一度握り、腰の革帯へ収める。最後に、槍の穂先を布で覆い直した。


 職員が受け取りの用紙を片付けようとしたところで、声をかける。


「あと、ひとつ聞いてもいいか」


「はい」


「父さんと母さんの墓……どこにあるか、調べてもらえるか?」


 職員は用紙を置き、ロッカへ向き直った。


「確認しておきます。お戻りになったら、お伝えしますね」


「ありがとう。ティーラも、連れていきたいんだ」


「ボクも行く」


 ティーラが答えると、ロッカは小さく頷いた。


 四人は受付へ探索者証を出し、案内された机へ向かった。


 一階の打ち合わせ机には、ダンジョンの区画図が広げられていた。戻ってきた現場の担当者が、入口から奥へ指を動かす。


「作業員が入ったのは、復旧中のこちらの区画です。今朝、点検中に通路の一部が崩れました」


 地図の赤い丸は、その手前にあった。


「箱は本人が、この保管室から回収しています。その後、落石を避けて、この先の避難所へ向かいました」


 担当者が、奥の四角を指で囲んだ。


「確認に出た班が、ここで待っています。通路を塞いでいる岩を、人の手では動かせませんでした。機械を入れる準備も進めています」


 ロッカが図面へ身を寄せた。


「避難所までは、つながってるのか?」


「岩の先は、道が残っているかも分かりません。避難所の中も未確認です」


 担当者が胸の無線へ顔を下げた。


「確認班から、もう一度呼んでください」


 雑音が続いた。ミカも、ほかの三人も黙って待った。


『応答ありません』


 ロッカの指が、図面の岩の印で止まった。


「まず、ここまで行こう。岩をどかすときは、奥へ石を落とさないようにする」


「ボクも聞いてみる。近くまで行けば、人の声が聞こえるかもしれない」


 ティーラは避難所までの道を、目でたどっていた。


 ミカはポチを机の上へ寄せ、カインとの通信をつないだ。図面全体を映し、入口から避難所までを指でたどる。


「カインさん、見えます?」


『見えている。今、班がいる場所も映してくれ』


 担当者に示してもらい、その位置も送った。


『そこまでの道順は分かる。岩の先は、現場で見てからだな』


 ミカは頷き、担当者へ向き直った。


「私たちが協力する許可は、出ましたか?」


「入口側は、探索者証があれば入れます。ただ、奥の復旧区画は閉鎖中です。四人には、その区画での通路確保と救助支援を許可します。実力は、支部の記録と昨日の映像で確認しました」


 担当者は四人の探索者証を返した。


「依頼は協会から出します。通路が開いたら、安否の確認をお願いします。医療班は出口で待機させます。追加の人手が必要なら、すぐ知らせてください」


「分かりました」


 ミカが証を配ると、ティーラは自分の上着のポケットへしまった。


 ヴィクターが、確かめておいた担架と救急袋を背負った。


「岩は手前へ引き出す。周りの壁は残す。それでいいな?」


「はい。奥に人がいる可能性があります。お願いします」


 ヴィクターは頷き、背中の紐を締めた。


 ミカも鞄を身体へ寄せ、ポチを肩の横へ戻した。


 四人で管理棟の裏へ出る。見学用の柵の向こうでは、ゲートが青く光っていた。


 ロッカが帰還した直後、ティーラを迎えに入り直した門だった。今は、その先の洞窟に作業員が残っている。


「じゃあ、迎えに行こう」


 ロッカが槍を持ち直し、ゲートの前へ進んだ。


「颯太に、本人から返してもらおう」

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